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2015年1月 1日 (木)

「自由になりたければ、手を放せばよい」 〜『ピルグリム』『血の裁き』

明けましておめでとうございます。昨年のやり残しの読書メモ書きに元日を費やすという…


『ピルグリム』テリー・ヘイズ著/山中朝晶訳
(ハヤカワ文庫 2014年邦訳)

アメリカの諜報組織に属する10万人以上の諜報員を日夜監視する極秘機関。この機関に採用された私は、過去を消し、偽りの身分で活動してきた。あの9月11日までは……引退していた男を闇の世界へと引き戻したのは〈サラセン〉と呼ばれるたった一人のテロリストだった。彼が単独で立案したテロ計画が動きはじめた時、アメリカは名前のない男にすべてを託す…(文庫カバーより)


Iampilgrim タイトルになっている〈ピルグリム〉は、スパイとして数々の名前を使い分けてきた主人公「私」の最新のコードネームだ。内容を一言で片付ければ、最強の米国諜報員vs最強のムスリムテロリスト。なのに文庫3巻からなる長編! といっても軽めのエンタメ小説なのですらすら読めるよ。昔の映画の007シリーズみたいな。すっきりしない事件を一つ残して終わるのだが、これは続編の伏線らしい。

前職は身内を監視する立場であったことといい、小説の終わりで予告されるその後の生き方といい、主人公のキャラクター設定はリー・チャイルド作品のジャック・リーチャーに似ている。大きな違いは、その出自と懐具合かな。この点で、読者の共感度はリーチャーに軍配があがるかもしれないし、羨望でもってピルグリムの物語に現実逃避しやすいかもしれない。女性にモテるかどうかは今のところ不明。お色気シーンが一切出てこない言い訳のように、ピルグリムは実は女性が大好きで、女性たちからもセクシーと言われると自ら語らせる場面が出てきたのはなんだったのか笑

あと、こっちは世界を股にかけて活躍するところが違う。今作のメイン舞台はトルコのボドルム。最近人気上昇のリゾート地というのを、昨年なにかの記事で見た。新興の観光地には目ざとい金持ちの欧米人が集まる。こんなところもジェームズ・ボンド映画風。どうやら次は東欧辺りが舞台か?

そういえば、リー・チャイルド同様、著者はイギリス人。無敵タイプのアメリカ人を描いても嫌味にならないところは、そこが関係しているかもしれない。この小説については、ムスリムテロリストの生い立ちにもしっかりページ数が割かれているのが良かったと思う。


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『血の裁き』ロバート・ゴダード著/北田絵里子訳
(講談社文庫 2014年邦訳)

かつて高額な報酬に惹かれ、セルビア民兵組織リーダーの生体肝移植を成功させたことがある高名な外科医ハモンドの前に、リーダーの娘が現れた。大量虐殺を繰り返し、戦争犯罪人として逮捕された父親の財産の隠し場所を知る組織の元会計係を探してほしいという。半ば脅迫されたハモンドはハーグへ向かう…(文庫カバーより)


Bloodcount 題材となっているコソヴォをはじめ旧ユーゴスラビア紛争については複雑すぎてニュースだけ見ていてもよく理解できないところを、こういうスリラー小説を楽しみながら少しずつでも学べるのはいいね! オランダのハーグにある旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷がいまも継続中とか、ぜんぜん知らなかったもんね。訳者あとがきによると、著者のゴダードも一般の注目度の低下にショックを受け、人道に対する犯罪にもっと関心を持って欲しいとの思いをこの作品に込めたらしい。

主人公のハモンドは娘が一人いる男やもめだが、富も社会的地位もあるロンドンの外科医。13年前に高額の報酬で請われてベオグラードに赴き救った命が実はとんだ怪物であり、今はハーグで審理を受けていることに、自分には責任はないとしながらも後ろめたさは感じていた。まあ普通に善人だ。しかし、突然目の前に現れた女性から、同じく13年前に起き未解決のままになっている彼の妻が殺害された事件も、ベオグラードに起因があったという衝撃の事実を知る。ハモンドはまずは自らの保身のために行動を起こすが、やがて社会正義に目覚めていくのがこの小説の骨子。

ロンドンからハーグ、北イタリア、ベオクラード、さらにブエノスアイレスへと旅するハモンド。途中、驚きのどんでん返しあり、最後に再び強烈なアッパーを食らい、試されるハモンドであったが、彼の心にもう迷いはなかったようだ。

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コメント

あけましておめでとうございます。

いつもながら、ヒメヒカゲさんはちゃんと書評を書いてらっしゃるなぁと、感心しております。
私ももうちょっときちんとした文章を書かなきゃと反省しきりでございます・・・。(^_^;)
本年もよろしくお願い致します。

Djangoさん、おー!お久しぶりです!
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。

いや〜、書評と呼べるようなものではないですよ。
苦し紛れなこと多いし。
せめて読んだ本ぐらいメモしておかないと、どんどん忘れていく、ほんとオソロシイです、最近。

Djangoさんは、ちゃんと日記としても機能しているからいいですよね。あとで読み返せるし。
今はツイッターにメモしちゃうけど、飽きたら戻ってこようかなという気もしています。

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