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2014年10月18日 (土)

「この闘いにおいては、人々は生きるか死ぬかなのです」〜『北京から来た男』ほか

『北京から来た男』ヘニング・マンケル(著)/柳沢由美子(訳)
(東京創元社 2014年邦訳)

凍てつくような寒さの早朝、スウェーデンの中部の小さな谷間でその惨劇は起きた。村のほぼ全ての家の住民が惨殺されていたのだ。ほとんどが老人ばかりの過疎の村が、なぜ? 女性裁判官ビルギッタは、亡くなった母親がその村の出身であったことを知り、現場に向かう。現場に落ちていた赤いリボン、ホテルの防犯ビデオに映っていた謎の人影。事件はビルギッタを世界の反対側へと導く…(出版社サイトより)


Kinesen スウェーデン作家マンケルのノンシリーズ作品。これも国際問題や人権に関心の高いマンケルらしい作品だった。著者の人柄や考え方が主人公(この作品は女性だけど)に投影されていると感じるのも同じ。いつもよりイデオロギーを押し出したところもあったけども、やはり終盤はエンターテインメント色が増し、ハラハラさせて一気に読ませる。ロンドンの場面はちょっと力技かなと思ったけど、面白かったです。殺人の動機など事件の背景は、同じノンシリーズの『タンゴステップ』に似てるかも。

マンケル作品では、これまで東欧やアフリカ、中米、南米など異国からの訪問者がストーリーに密接にかかわっており、本作もタイトルのとおり。単に中国人が登場するだけでなく、物語はいきなり19世紀半ばに飛んで、貧しい中国人兄弟が開拓時代のアメリカで味わった苦難が綴られたり、主人公が北京に観光旅行に出かけたりと、主題が中国そのもので、最初の空前の大量殺人事件もかすむほどのスケールといいましょうか。改めてテレビドラマがどうなっているのか…お金がかかってそうだね。

アフリカの豊富なエネルギー・鉱物資源に目をつけた中国は、2000年に中国アフリカ協力フォーラムを発足させて以降、毎年巨額をアフリカに投資。企業とともに労働者も送り込む政策は「新植民地主義」と批判されるが、いまではアフリカの最大貿易国。2010年には将来の食糧難を見越して、アフリカの未開の農地開発にも乗り出している。
小説では今の中国の象徴として、この農業協力フォーラムが題材となっていた。欧米の食いものにされてきた貧しい国が経済大国となり、先進国がやってきたことを繰り返す。そんな歴史の因果が込められた本だった。


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『特捜部Q ―知りすぎたマルコ―』ユッシ・エーズラ・オールスン(著)/吉田薫(訳)
(ハヤカワ・ミステリ 2014年邦訳)

「特捜部Q」――未解決事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の一部署である。「Q」が今回挑むのは、外務官僚の失踪事件だ。真面目で心優しいこの官僚は、出張先のアフリカからなぜか予定を早めて帰国後、ぷっつりと消息を絶った。背後には大掛かりな公金横領が絡むようなのだが……。事件のカギを握るのは、叔父が率いる犯罪組織から逃げ出したばかりの15歳の少年マルコ。この賢い少年と「Q」の責任者カール・マーク警部補がすれ違い続ける間に、組織の残忍な手がマルコに迫る…(裏表紙より)


本が分Marcoeffekten厚いほどうれしくなる特捜部Qシリーズも、もう5作目か!早い!
構成はいつもよりあっさりめだが、いつもより国際色豊か、そして、ロマの少年マルコの「逃亡劇」がメインストーリーになっている。犯罪組織の首領ゾーラや、謎のアフリカ人殺し屋から終われ、警察にも頼れないからと、孤独な逃亡を続けるとても賢い少年マルコが、ついに「Q」の前に姿を表したときのメンバーの反応が最高だったね。カールもアサドもローセも善い人だ!

アフリカへの援助を隠れ蓑に公金横領。そこには国際的な犯罪組織や官僚が絡んでおり、下っ端の汚れ仕事を引き受けるのがロマ集団。まあ大抵どの世界でも汚れ仕事は、社会の底辺に押し付けられる。といっても、この小説に登場するロマ一族の首領は、アメリカ生まれのヒッピー崩れの犯罪者で、恐怖によって集団を束ねている様子。子供たちに物乞いやスリをさせて稼ぐロマは現実にもいるのだろうが、ここでは彼らも被害者として扱っているところが著者の良識を感じさせてよい感じです。というか、それがノーマルというものか。


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『レクイエムの夜』レベッカ・キャンドル(著)/宇佐川晶子(訳)
(ハヤカワ文庫 2010年邦訳)

心臓を刺されて死んだ若い男。警察署の〈身元不明死体の廊下〉に張り出されていた写真の一枚に、わたしは弟を見つけた。美貌の女装歌手として愛されていた弟はなぜ殺されたのか? 絶対に殺人犯を突き止める。そう決意してひそかに調べはじめたものの、わたしの息子だと主張する謎の幼い少年が現われたことにより、社会の裏にうごめく様々な思惑と対峙することに…(文庫カバーより)


Traceofsmoke_2 ハワイ在住のドイツ人作家による、ナチス政権前夜のベルリンを舞台にしたミステリ。主人公の新聞記者ハンナは、いつもの記事ネタを得るために警察署を訪れ、そこに身元不明の殺人事件の被害者として弟エルンストの写真を発見しショックを受けるが、彼女には警察にそれを告げられない理由があった。シオニストとして政府から目を付けられている友人とその息子をアメリカに亡命させるために、ハンナと弟は身分証明書を貸していたのだ。ということで、ハンナはたったひとりで犯人を探すが、弟の周辺にも、警察にもナチスがいるし、弟の所持品からは持っているだけで命を狙われるのが確実な品々が見つかるし…。

いちおうサスペンスフルな歴史ミステリであるわけだが、あまりそういう印象が残らないのは、謎の幼い少年アントンの存在だな。この子が、やることしゃべることいちいち大人たらしで、可愛いくてたまらん。ハンナとアントンの関係は、映画「グロリア」(カサヴェテス版)を思い出させた。主人公はあんなに渋くないけどね。

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