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2014年7月 4日 (金)

人間もやがて旧型になる商品 〜『地図と領土』

ネタバレしないで感想をメモる能力がないので、遠慮なく書いてます↓


『地図と領土』ミシェル・ウエルベック著/野崎歓訳
(筑摩書房 2013年邦訳)

孤独な天才芸術家ジェドは、一種獰猛な世捨て人の作家ウエルベックに仄かな友情を抱くが、驚愕の事件が二人に襲いかかる。謎をめぐって絢爛たるイメージが万華鏡のように炸裂する傑作。フランスで50万部を超えたゴンクール賞受賞作…(書籍帯より)


Lacarteetleterritoire 今の時代に花開いた天才芸術家ジェド・マルタンの生涯を、近未来にわたって綴った小説。
本作も面白かったー! 本の出だしの印象から、才能が枯渇した画家の苦悩が描かれるのかと思ったが、まったく違いましたね。そんな退屈なテーマでウエルベックが小説を書くわけないかな?

ウエルベック自身が小説の中に重要人物として登場し、とんでもない顛末を迎えたのにびっくり。あと、「…と『プラットフォーム』の作家は驚いた」とか「犬と一緒に『素粒子』の作者も現れた」とか、自分の作品名をあちこちに突っ込んでくるところが笑える。作家としての余裕を感じたわ。


世の中に背を向けているわけではないけれど、気づくといつも孤独に身を置いているジェド。何かに取り憑かれるように作品づくりに没頭しているとき以外は、老人ホームにいる父を思いやるなど、ごくありきたりの優しい青年に描かれている。無名だった彼の才能を見抜いたのは後に彼を愛することになる絶世の美女で、ほどなくジェドは流されるままに商業的成功を収める。しかし、その後もジェドの性格や孤独な生き方に揺るぎはまったくなく…。小説は途中で、刑事の視点によるミステリー小説となり、最後は近未来SFへと展開するが、世界の情勢や価値観が変わっても、ジェドは変わらず「世界を説明したい」というまったくのピュアな衝動のもと作品を生み続ける。

ジェドは、ある種、理想の芸術家なのかな? 自分は芸術の世界にはまったく詳しくないけれど、たまにテレビでアーティストと呼ばれる人たちのドキュメンタリーを見ると、作品を生み出す才能だけでなく、自分をどう見せるかを含め、プレゼンや営業能力にも長けていないといけないのだなと思っていたので、そういう努力とは無縁で、名誉やお金にもさほど興味を示さない、驚くほど冷静な(でもシニカルではない)ジェドのキャラクター自体が、何でも資本主義に取り込まれてしまう現代に対する皮肉に思えたし、そういう現代社会への疲労感も癒やされていく気もした。
寂しい生涯だったのかもしれないけれど、子孫を残すことなく朽ちていくのもこの小説にふさわしく、読み終わった後は妙に清々しかった。


現代を象徴するものとして、実在の人物や商品など固有名詞がいっぱい登場するので、特に人物のところはWikipediaをチェックしながら読んだけど、著者もあとがきでWikipediaに謝辞を捧げてたよ笑

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