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2014年7月27日 (日)

南米がベースとなった2作品 〜『ネルーダ事件』『ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密』

ハヤカワのポケミスは最近、国際色が豊かな気がする。


『ネルーダ事件』ロベルト・アンプエロ著/宮﨑真紀訳
(ハヤカワ・ミステリ 2014年邦訳

南米チリで探偵をしているカジェタノはカフェで、この稼業を始めるきっかけとなった事件を思い出していた。それは1973年、アジェンデ大統領の樹立した社会主義政権が崩壊の危機を迎えていた時のことだった。キューバからチリにやって来たカジェタノは、革命の指導者でノーベル賞を受賞した国民的詩人ネルーダと出会い、ある医師を捜してほしいと依頼される。彼は捜索を始めるが、ネルーダの依頼には別の目的が隠されていた。メキシコ、キューバ、東ドイツ、ボリビアへと続く波瀾の調査行。チリの人気作家が放つ話題作…(裏表紙より)


Elcasoneruda 恥ずかしながらネルーダが誰かも知らずに読み始めたよ…。映画「イル・ポスティーノ」に登場すると知って、「ああ」と思ったくらい。そもそもチリについてもワインが有名とか、何人かのサッカー選手の顔が思い浮かぶくらいの知識しか持ちあわせていない。おかげで濃い読書になったんじゃないかな。謎解きのワクワク感を期待すると肩透かしかもしれないけれど、手軽にその土地のことを学べるというのも翻訳ミステリーを読む楽しみの大きな要素なので、その点では満足度の高い小説だった。主人公がチリ人ではない設定も、チリや南米に詳しくない読み手には共感しやすく働いている。

ネルーダの女性遍歴によってその人生を浮かび上がらせながら、チリ・クーデターが起きたその日までを扱っているので、フィクションだけど、歴史小説としても読めるかな。実在の人物がたくさん登場するが、個人的にはキューバのクラリネット/サックス奏者のパキート・デリベラが登場し、巻頭の登場人物一覧にも名前があることを発見して「おおー!」となった。

ネルーダから探偵をやってみないかと誘われ尻込みするカジェタノにネルーダが教則本として手渡したのがジョルジュ・シムノン。カジェタノは調査に手を付けながら真面目にメグレ警部シリーズを読み進めるのだけれど、やがて混沌とした南米では探偵業も、メグレ警部の欧州のようにスムーズにいくわけがないと思うようになる。革命の闘志となる訓練を受けるためにカジェタノのもとを去っていく妻がブルジョワ出身という設定も、そういうものなんだろなと思わせて、面白い。

メイン舞台となっているチリのバルパライソは、歴史的な街並みが世界遺産にも登録されている港町。写真で見ても南米の情緒たっぷりのとても魅力的な舞台に思える。カジェタノ・シリーズは本国では7作品が刊行されていて、この本の冒頭、回想録に入る前に、私立探偵カジェタノには日系人のスズキという、ふだんは港湾地区で揚げ物屋〈カミカゼ〉を営む人物の助手がいると書かれているのも興味をそそる。貴重な南米ミステリーシリーズ、次も出たら読みたい。


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『ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密』トマス・H・クック著/駒月雅子訳
(ハヤカワ・ミステリ 2014年邦訳)

「ジュリアン・ウェルズという真摯な作家がいた。あの日、彼は自殺した――彼はかけがえのない友だった」犯罪・虐殺を取材し、その本質を抉る作品を発表したジュリアンは、死の直前もロシアの殺人犯に関する資料調査に没頭していたという。執筆意欲のあった彼がなぜ死を選んだのか? 親友の文芸評論家フィリップは、やがて友の周囲でかつて一人の女性が行方不明になっていたことを知る。フィリップはジュリアンの妹とともに手掛かりを追うが…(裏表紙より)


Crimeofjulianwells ニューヨーク在住のフィリップは、親友ジュリアンの自殺の動機を探して、その妹ロレッタとともに彼の生前の足取りをたどる。フランス、ハンガリー、ロシアなどを訪ね歩き、たどり着いたのは、フィリップとジュリアンが30年前に一緒に旅をしたことがあるアルゼンチン。当時、政情不安の真っ只中にあったその地に、事の発端がありそうなことは最初から匂わされていた…。

それにしても、ちょっとした驕りがとんだ惨劇を呼び込んだものだ。純粋すぎる人物の善意がかえって悲劇を生む典型とも。しかも、世の中にはその純粋さを利用する者たちがいる。
ジュリアンが自分の引き起こしたことをよく理解し、思い悩みながら、世界中の残虐な犯罪を取材して旅する作家になったというのが深すぎてよく分からないが、抱えていた苦しみの大きさは理解できる。クライマックスがいいね。幼友達の友情に帰着するところが、トマス・H・クックの作品らしい。

トマス・H・クックはたびたび読んでいるつもりでいたけど、このブログでは一度もメモしていないので、ずいぶん久しぶりだったみたい。
この小説は、冷戦時代のスパイ小説の類に分類されていいのかな?「人間はその人が抱く疑問でできている」とか、ところどころに印象に残るフレーズがあり、小説としても堪能できた。

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