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2014年2月

2014年2月16日 (日)

「いったい、いまイタリアでなにが起きてるんだ?」〜『カルニヴィア1 禁忌』ほか

『カルニヴィア1 禁忌』ジョナサン・ホルト著/奥村章子訳
(ハヤカワ・ミステリ 2013年邦訳)

ヴェネツィアの教会の石段で、女性の死体が発見された。死体はカトリックの女性には許されない司祭の祭服を着て、腕には奇妙な模様のタトゥーがあった。憲兵隊の大尉カテリーナは捜査を開始する。その頃、米軍基地に赴任した少尉のホリーは、旧ユーゴ内戦時の記録の公開を求める女性と面会した。ホリーは記録を調べるが、やがてその女性の死を知る。カテリーナとホリーは協力し、ソーシャル・ネットワーク「カルニヴィア」の創設者ダニエーレとともに、二人の女性の死に潜む陰謀に迫る…(裏表紙より)


Abomination 著者が『ミレニアム』3部作や映画「ボーン・アイディンティティー」シリーズなどに影響を受けたと語っているミステリ3部作の第1部。イタリアが舞台だけど、著者自身はイギリス人男性。イタリアの女性刑事カテリーナの描かれ方などはステレオタイプな気がしなくもない笑 それが個性となって面白く読めるけど。

日本と同様にイタリアも敗戦国として米軍さらにNATO基地が置かれ、北部の米軍基地はいまだ拡張しており、米国とイタリア政府がどういう契約を結んでいるかは国民には公表されていないそう。このことが、3部作を通して描かれる壮大な陰謀に深く関係している気配だが、この第1部はユーゴスラビア内戦時の歴史的事実を題材に、冒頭の殺人事件は一応の決着をみるので、これだけ読んでも十分面白い。

ユーゴ内戦において米国CIAとNATOは本当に汚い、非人道的な手を使ったんだなと読みながら憤ってしまう一方、エンタメ度もとても高い作品。情報のやりとりがすべて監視されている中で、唯一の死角として存在するのがSNSの「カルニヴィア」。ヴェネツィアの街並みを模したカルニヴィアでは、会員がカーニバルの仮面をつけたアバターとして登場し、秘密を共有しあう。匿名ゆえに第三者の悪口にあふれていたり、会員たちが何に活用しているのか主催者も把握しきれていないところなど、なんとなく巨大掲示板2ちゃんねるを思わせなくもない。

後半になると、「ボーン」シリーズ的な部分が顕著になり、プロットがちょっと粗いかなと思う点(無人攻撃機の暴走とか)もあったのだけど、続編が楽しみ! イタリアが何者かに支配されようとしているとして、SNSがレジスタンスの拠点になるのかな?
米軍少佐のホリーと元CIAのギルロイの関係が読めないな…信頼か裏切りか?気になる〜。

 

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『イン・ザ・ブラッド』ジャック・カーリイ著/三角和代訳
(文春文庫 2013年邦訳)

刑事カーソンが漂流するボートから救い出した赤ん坊は、謎の勢力に狙われていた。収容先の病院には怪しい男たちによる襲撃が相次いだ。一方で続発する怪事件――銛で腹を刺された男の死体、倒錯プレイの最中に変死した極右の説教師……。すべてをつなぐ衝撃の真相とは? 緻密な伏線とあざやかなドンデン返しを仕掛けたシリーズ第5弾…(文庫カバーより)


Intheblood これ、シリーズ小説だったんだと、読み終わって気づく。ジャック・カーリイは骸骨のイラストの表紙などで前から人気作家と知っていたけど、勝手に想像していたのと違ってたな。もっとグロいのかと思ってた。

南部の白人至上主義、キリスト教原理主義へのストレートな批判や、軽快なバディものでもある点など、ああやっぱりアメリカのミステリ小説だと思わせる分かりやすさがある。雑種万歳か…うーん、私はいろんな種がいたほうが存続のためにもいいと思うけど、アメリカ国内向けにはこれくらい主義主張がはっきりしててちょうどいいのかな?

 

切り捨てられた男 〜『三秒間の死角』ほか

 

『三秒間の死角』アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム著/ヘレンハルメ美穂訳
(角川文庫 2013年訳)

犯罪組織の中枢にまで潜り込んだスウェーデン警察の潜入捜査員パウラ。組織に与えられた任務は、刑務所内に麻薬密売の拠点を作ることだった。秘密裏に政府上層部のお墨付きを得たパウラは、巧妙な手段で麻薬を所内に持ち込み、ライバル業者を蹴落として商売を始めた。だが、パウラの正体を知らないまま、入所前に彼がかかわった殺人事件を捜査するグレーンス警部の追及の手が迫るのを知った政府上層部は非情な決断を下す…。(文庫カバーより)


Tresekunder 英国推理作家協会(CWA)賞、スウェーデン最優秀犯罪小説賞を受賞した刑務所サスペンス。
正直言って読み始めは退屈だった…。でも、小物と思っていた潜入捜査員パウラが実は相当に頭の切れる男で、そのパウラが物語の中心に居座る上巻の終わりあたりからぐんぐん面白くなっていった。刑務所の中も外も敵ばかりの状況で自らが生き残るための戦いを繰り広げるパウラ、かっこいいわ。一方、暗い過去を抱えたグレーンス警部も渋くていい感じ。アンフェタミンがチューリップの香りがすることを利用した細工とか、枝葉にも工夫があって読み応えある。人間関係にも奥行きをもたせてるしね。
そして、ラストのどんでん返し! 1つ目は予感がなくもなかったが、2つ目はおおー、そう来たか!と。もう読者ですら忘れていたことを、あの男は覚えていたのね。ちょっとかっこつけすぎじゃない?と思ったけど笑
映画化されるらしい。サスペンス作品の原作にうってつけだわ。

 

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『夜の真義を』マイケル・コックス著/越前敏弥訳
(文春文庫)

19世紀ロンドン。その夜、エドワードは、深まる霧の中を行く、見ず知らずの赤毛の男を殺した。首に深々と刃を沈めた凶行―だがこれは真の標的、仇敵ドーントを葬るための“試み”にすぎなかった。英才と謳われ、イートン校に学んだエドワードがなぜ暗闇の街路で刃を握り締めるに至ったのか。その数奇なる半生が今語られ始める…(文庫カバーより)

 

Meaningofnight 2011年に邦訳された本の文庫版。構想30年、著者が癌による失明を前に執筆を始め、イギリス出版史上、新人作家としては最も高額で落札された小説であり、実在の人物が密接に絡んでくるのなど虚実ないまぜな擬ヴィクトリア朝小説として、日本でも少なくともミステリー小説ファンの間では話題になっていた。

読み応えがあって時間がかかったわー。不当な人生を強いられた男の復讐がベースにあるが、その復讐の予行演習と称していきなり関係のない男を殺してしまうので、痛快な結末などは望むべくもなく、その分、先の展開が読めそうで読めず、どの登場人物たちからも距離をおいて、ヴィクトリア朝小説のもつ雰囲気とイギリス貴族社会のえげつなさみたいなものを俯瞰的に堪能できたかな。
しかし、主人公はどうして自分がタンザー卿の実子であると最初から確信していたのかな、不義の子ではないかと疑うのが普通じゃない?

 

死んでいた謎のロシア富豪 〜『バッドタイム・ブルース』ほか

読書メモが滞り、読んだ直後の印象を忘れてしまった。

 

『バッドタイム・ブルース』オリヴァー・ハリス著/府川由美恵訳
(ハヤカワ文庫 2013年邦訳)

人間、追い詰められれば妙案が浮かぶものだ。ギャンブルに取り憑かれて借金を重ねた刑事ニック。とうとう住む場所も失い、所持金も底をついた。もはやこれまでと覚悟を決めたとき、高級住宅地に一人住まいの金持ちが行方不明との一報が入る。担当をゲットしたニックは、要領よく金持ちの留守邸で寝泊まりするうち、彼に隠し財産があることを嗅ぎつける……事件を追いつつ、横領計画を進める、前代未聞の怪ヒーロー現わる…(文庫カバーより)

 

Hollowman 「有能な刑事ベルシーの長所は謎が嫌いなことで、短所は謎をたくさん見つけすぎてしまうことだ」

目覚めた場所は早朝の公園。昨夜はおそらく暴飲して暴走したあげくパトカーを大破させ、フロントガラスを割って放り出されながらも公園まで歩き、そのまま気を失って倒れていた―。こんな出だしからして、主人公ニック・ベルシーはかなり型破りな警官であることが分かる。しかも、死んだ一人暮らしの金持ちのカードを使って詐欺を働こうとしたり、こっそり家財を売りさばくとなると、こいつはいずれ破滅する、こんな主人公には寄り添えないと個人的にはなる。…が、実は読み始めてまもなく上記の一文を目にしてたから、こいつは絶対職務を放棄しないと、安心して読めた笑

出だしはクライム・サスペンス風だが、中身は魅力的な主人公のハードボイルド小説だった。好きです。特に終盤、事件の裏で工作していた人物の正体が明かされ、ベルシーと対峙するところは、様式として美しかった。たいていその人物のほうが主人公よりもひとつ上手のワルであるのに哀れみを感じさせることが多い気がする。
文庫の表紙イラストがフロスト警部シリーズと同じなのに違和感。

 

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『ハンティング』ベリンダ・バウアー著/松原葉子訳
(小学館文庫 2013年邦訳)

イギリスの寒村シップコットで6人の連続殺人事件が起きてから1年半。未だ犯人逮捕の糸口は見つからない。そんな中、子供の連続誘拐事件が起こる。どのケースも車で待機していた子供が連れ去られ、「おまえは彼(彼女)を愛していない」というメッセージが残されていた。やがて17歳のスティーヴンと、妻を失い休職していた巡査ジョーナスも事件に巻き込まれる…(文庫カバーより)

 

Finders_keepers 1作目の『ブラックランズ』はかなり好きだった。しかし、2作目『ダークサイド』は、B級ホラー映画のようなはちゃめちゃな顛末のイメージしかなくて、まさかそこからさらに続編が登場するとは思いもしなかったな。

今作は2004年のイギリスでのキツネ狩り禁止法執行を背景として事件が起きる。この本と同じように処分された猟犬はどれくらいいたんだろうね…。

で、小説のトーンとしては、思春期の少年の恋やその家族の物語にはほっこりさせられるけれど、警察の無能さの描き方はいままで同様に容赦なく、むしろコミカルなくらいだし、そこにホラー要素として誘拐犯と巡査ジョーナスが加わる…。犯人はともかく、ジョーナスの存在感がほんと独特。そもそも前作から、この人物に著者がどういう思いを託しているのかまったく分かっていない。今作もリーダビリティは高いけれど、そこんところが引っかかってちゃんと消化できた自信がない。最後はしんみりすべきなのかね?

 

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