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2013年11月

2013年11月 2日 (土)

クロムウェル失脚前夜 〜『暗き炎 チューダー王朝弁護士シャードレイク』ほか

9月末に母親が突然倒れて亡くなり、いろいろと心境の変化がありました。
近々、一つ大きな決断をしなければならないかも。


『暗き炎 チューダー王朝弁護士シャードレイク』C・J・サンソム著/越前敏弥訳
(集英社文庫 2013年邦訳)

16世紀ロンドン。法廷弁護士シャードレイクのもとに、従弟殺害の罪を問われている少女エリザベスの弁護依頼が舞い込む。少女は黙秘を続け、このままでは拷問死をまぬがれない運命だった。一方、摂政クロムウェルは、少女の審議期間延長と引き換えに、古くから伝わる幻の「ギリシャ火薬」の製法と現物を探し出すようシャードレイクに命ずるのだが…。(文庫カバーより)


Darkfire シャードレイク・シリーズ第2弾。
面白かった! このシリーズは、歴史小説とミステリ小説とキャラクター小説の塩梅が素晴らしい! といっても1作目を読んだからこそすんなりと物語に入り込めたと思うので、宗教改革最中のイングランドという複雑な時代背景に気後れしないためにも順番に読んだほうがいいね。そのほうが登場人物への愛着も深まるというものだし。

主人公のシャードレイクは、クロムウェルからも一目置かれる優秀な弁護士。しかし、中年になっても亀背というコンプレックスを抱えたままで恋愛にはひどく臆病だったり、基本的に善人ではあるが、ある程度の地位があるゆえに下々の者については無知だったり…。それを物語上、うまくフォローするのが、1作目から引き続き登場のムーア人薬剤師モルトンであり、さらにクロムウェルから助手として遣わされた孤児育ちのバラクが今作では加わり、まったく個性の違う3人による頼もしいチームが出来上がった感。次作も楽しみだ~!

しかし、この頃のイングランドにもお歯黒に似た風習があったんだね。上質の砂糖が食べられる身分と人に思わせるために、見えっ張りな女性はわざと歯を黒くしていたとか。虫歯でボロボロの歯が誇りだったなんて!

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『追跡者たち』デオン・メイヤー著/真崎義博・友廣純訳
(ハヤカワ文庫 2013年邦訳)

夫と息子の横暴に耐えきれずに家出した主婦のミラは、職を求めるうちに情報部の事務職に採用される。そんなミラは、偶然の出来事からイスラム過激派と犯罪組織の関係する陰謀に巻き込まれる……。
腕利きボディガードのレマーは、ある農場主からの奇妙な依頼を受ける。密かに隣国から運びこまれる貴重なクロサイの護衛だ。もちろんそこには表沙汰にできない事情がある。こうして広大な国土を横断する危険な旅が始まった……。
警察を退職して私立探偵となったばかりのマットが担当することになったのは、バス会社職員の失踪だった。男の妻にも周囲の人々にも心あたりは何もない。だがマットの地道な調査は、徐々に男の知られざる顔を……
まったく異なる三人が直面する三つの事件は、たがいに絡みあい、意外な構図を描き出す…(文庫カバーより)


Trackers 登場人物はもちろん、小説の味わいも異なる3つのストーリーで構成された犯罪小説。
内容は、アパルトヘイト廃止後の南アフリカの社会問題を、題材に詰め込むだけ詰め込んだ感じか。そこに世界をまたにかけるイスラム過激派やアメリカのCIAなどもかかわってきて、折からの南アでのサッカーW杯も題材にされる……いろんな組織や個人の私利私欲がからんできて、最後まで混沌として突っ走る感じは、同じく南アのロジャー・スミス作品にも共通しているところで、これが南アらしさってやつかも?

ただ、この3つのストーリー構成が効果的だったのかどうかは疑問。終盤ようやく3つの話がつながったところで、改めて何か見えてくるものがあるかというと、そうでもなかったから。
一方、1冊で3冊分楽しめるという見方をすると、3つ目の私立探偵マットの話が良かった。主人公が信頼できる人物に描かれていて、この小説の流れのなかではホッとするし、1つ目のスパイ小説風よりも読み慣れている探偵小説ってことで、著者の筆力の確かさもわかりやすかった。この探偵マットの続編があったらまたぜひ読みたい。

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『恥辱』J・M・クッツェー著/鴻巣友季子訳
(ハヤカワepi文庫 2000年邦訳)


52歳の大学教授デイヴィッド・ラウリーは、2度の離婚を経験後、娼婦や手近な女性で自分の欲望をうまく処理してきた。だが、軽い気持ちから関係を持った女生徒に告発されると、人生は暗転する。大学は辞任に追い込まれ、同僚や学生からは容赦ない批判を受ける。デイヴィッドは娘の住む片田舎の農園へと転がり込むが、そこにさえ新たな審判が待ち受けていた…(文庫カバーより)


Disgrace これも南アフリカ出身作家ってことで、積んでた本を消化。ノーベル賞を受賞した人だったのを忘れていた。南アの歴史や社会を反映し、深読みはいろいろ出来そうだけど、文章やストーリーはやさしくて読みやすかった。

デイヴィッドは恥辱とやらを受けても、罪悪感はなさそうだし、すでに教えることの情熱に乏しいので失業もさほどこたえていないように見える。50歳を過ぎて心を入れ替えろなんていわれても無理!と開き直っているふうは(そのあたりは私にも理解できる笑)、潔さすら覚えるくらいだ。しかし、娘と暮らしはじめても周囲になじめず浮く一方。そこからさらに逃避するように、趣味のオペラを書くことに没頭するあたりからは滑稽さもにじみ出てくる。

ここまでは普遍的な中年男の話といっていい。父と娘を襲ったある事件も、こういう情勢の国だからこういうこともあるだろうと分かる。しかし、それに伴っての娘の決断というか身の処し方にはびっくりした〜。いやいやいや、いくら自分たちの祖先が過去に南アでやってきたことの因果応報といっても、それを進んで受け入れるとか、まったく理解しがたいし…。

読者にも衝撃だが、自分本位で生きてきたデイヴィッドも、これにはさすがに冷水を浴びせられ、生きていくための現実に向き合わざるを得なくなったみたいだ。そして終盤、健気に生きる娘の姿を親らしい思いでまぶしく見つめるデイヴィッドの目を通して、物語は世代交代という普遍性を再び帯びる。投げやりのようで決してそうではない最後のセリフは、我ら中高年の心には響くものがあるね笑

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