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2013年9月

2013年9月23日 (月)

「歳をとるにつれて、何かに評価を下すのが億劫になるんだ。」〜『消滅した国の刑事』ほか

『消滅した国の刑事』ヴォルフラム・フライシュハウアー著/北川和代訳
(創元推理文庫 2013年邦訳)

2003年12月、ベルリンで女性の凍った胴体が発見される。遺体の頭部は山羊の頭につけかえられていた。ツォランガー警視正が捜査に乗りだすが、まもなく、今度はナイトクラブで異様な羊の死骸が見つかる。そして彼の前に兄の死の真相を調べている女性が現われ…。複雑に絡み合う登場人物たちの思惑と、二転三転する事件(文庫カバーより)

Torso 主人公ツォランガーは、ドイツ再統一前は東ベルリン側の刑事だった。今は統一されたベルリン州の警察で西側の同僚たちと働くが、ある犯罪を目にして癇癪を起こし、心理カウンセリングを受けさせられる。その診断書に書かれていたのは、彼にのしかかる適応できないことのストレス。〈旧東独の元警察官にとり、国家利益の追求は個人の利益の保護に優先する〉〈犯罪に対して警察が自ら無力感を認めることは、旧東独の元警察官にははるかに大きな痛手になっている〉…そうそう、本のタイトルを目にしたときに期待したのは、まさにこんな内容なのだと思った。

けども、無気力なのにもほどがある。刑事の存在感も薄いし、本当のところ彼が何をどう感じているのかも分からないまま話は進む。終盤にはその謎めいているところの意外な理由が明かされるのだが!…ミステリとしては禁じ手ともいえる展開で、なんか安いっぽい。あと、魅力的な小説の邦題に対して原題は「Torso」で、いまさら的な猟奇犯罪の描写とともにトルソ(胴体)という言葉が何度も出てくるのがちょい苦手だった。

しかし、この小説は極端な二面性を持っているというか、ドイツ再統一後の経済的混乱や、公的金融機関を食いものにするファンドや不動産投資会社といった現代的な社会派の題材も扱っているところが面白く、侮れない。登場人物の中では反グローバリゼーションの活動に参加し、菜食主義で車にも乗らない主義を貫く若い女性エーリンがいかにも現代ドイツらしく印象的。


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『お菓子の家』カーリン・イェルハルドセン著/木村由利子訳
(創元推理文庫 2013年邦訳)

数週間の入院生活を終えた老婦人が自宅で見つけたのは、見知らぬ男の死体だった。その頃殺人者は、高揚した気分で自らの行為を思い返していた。悔やんではいない。ただ、もっと苦しめてやらなかったのは残念だった。ショーベリ警視率いる警察の調べはいっこうに進まず、そのあいだにも次の被害者が…(文庫カバーより)

Pepparkakshuset スウェーデン発ミステリ。ショーベリ警視シリーズ第1弾。タイトル(原題は「ジンジャーブレッド」かな?)および表紙イラストからイメージした内容とまったく違うではないか! てっきりコージータイプのミステリと思ったよ。
タイプとしてはこの倍くらいの長さがあってもよさそうな警察小説だか本格ミステリだか…。枝葉が多いのに、すごくコンパクトにまとまっている感じ。掘り下げ不足なところもあるけどシリーズものと思えば納得か。

子供のイジメと大人の無関心によって引き起こされる40年後の悲劇。終盤の裏切られ方はほかの作品でも体験済みだけど、なんとなく予感はあったし、小説に寄り添って読んできた身には悪くない後味だった(あやうくネタバレしそう…)。さかのぼって殺人シーンを再読したら、初読に感じた違和感も解けた。もう一つの事件のその後も気になるなあ…。


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『半島を出よ』村上龍
(幻冬舎文庫 2005年単行本刊行)

2011年春、9人の北朝鮮の武装コマンドが、開幕ゲーム中の福岡ドームを占拠した。さらに2時間後に、約500名の特殊部隊が来襲し、市中心部を制圧。彼らは北朝鮮の「反乱軍」を名乗った。慌てる日本政府を尻目に、福岡に潜伏する若者たちが動き出す。国際的孤立を深める日本に起こった奇蹟!(文庫カバーより)

Hantowodeyo 積ん読していたのを、夏休みにようやく読む。
それにしても長かった〜。巻末に大量の参考文献が載っていることから、とにかく小説にリアリティを持たせたかったんだろうと思うけど、例えば内閣危機管理センターに集まってきた大臣や各省局長とか、全員名前をつけて網羅してるけど、その後二度と名前が出てこないのに必要なくない? だんだん学習してきて福岡のはぐれ者集団の武器コレクション紹介のところは飛ばして読んでしまった…笑

2005年に刊行された本をこの時期に読んで、面白かったのは北朝鮮の侵略に対しての日本政府の煮え切らない対応と、不確かな情報をもとに九州を丸ごと日本から切り離すようなやり口などが、福島原発の事故および被災地への対応に極めて似ていたこと。日本てこういう国なんだなあと身に染みて思った。そして、敵国に占領されながら彼らの命令に嬉々として従う日本人がいることも、おそらくそういうものだろうと理解できた。

北朝鮮の軍事国家の側面についても詳しい。あちらでは優秀な人間はすべて軍人に回されるのだな…。そして、日本については、組織に染まることのない、社会からはどうしてもはみ出してしまう人間に、著者自身は希望を託しているのだろう。

2013年9月 9日 (月)

「お見えになるのが遅すぎたようですね」~『冬のフロスト』ほか

『冬のフロスト』R・D・ウィングフィールド著/芹澤恵訳
(創元推理文庫 2013年邦訳)

寒風が肌を刺す1月、デントン署管内はさながら犯罪見本市と化していた。幼い少女が行方不明になり、売春婦が次々に殺され、ショットガン強盗にフーリガンの一団、“怪盗枕カヴァー”といった傍迷惑な輩が好き勝手に暴れる始末。われらが名物親爺フロスト警部は、とことん無能な部下に手を焼きつつ、人手不足の影響でまたも休みなしの活動を強いられる…(上巻文庫カバーより)

Winterfrost フロスト警部シリーズ第5弾。今作の文庫表紙はフロストとマレット署長ですね!
いくつもの事件が並行して起き、部署全員が不眠不休を強いられるが、そんな中でもフロストはいつもと変わらぬ調子で仲間をからかったり下品なジョークを飛ばしまくる。と、内容はいつもどおりマンネリ上等なシリーズなのだけど、今作はややメリハリに欠けるのか、だらだらと長いという印象が勝る。実際、ページ数もこれまでで一番多く、上司マレットとの対立や出来の悪い部下の失態など、繰り返しが多くて途中さすがに飽きました。
第1作を読んでから20年近くになる。その間にこっちの感性も変化したかな…。なんとなく全体のトーンもこれまでより重苦しいというかシリアスで、著者自身の心境の変化もありそうだけど。

しかし、残りわずか数十ページで、すべての事件をよく解決したものだわ。メインと思われた少女失踪事件は動機がありきたりだったのに対し、売春婦殺害の犯人は意外すぎたし、民家の庭から出てきた古い人骨のエピソードは登場キャラクターが強烈だった。著者が生前残したのはあと1作。翻訳されたら読み遂げます。

怪盗枕カヴァーって、覆面のために枕カヴァーをかぶった強盗を想像していたら違った(笑 なるほど〜。


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『極夜 カーモス』ジェイムズ・トンプソン著/高里ひろ訳
(集英社文庫 2013年邦訳)

フィンランド郊外の村の雪原に横たわる惨殺死体。被害者はソマリア移民の映画女優で、遺体には人種差別を思わせる言葉が刻まれていた。容疑者として浮上したのは、捜査の指揮をとるカリ・ヴァーラ警部から妻を奪った男。捜査に私情を挟んでいると周囲に揶揄されながらも真相を追うカリだったが、やがて第二、第三の殺人が起きてしまう…(文庫カバーより)

Snowangels 珍しいフィンランド発のノワール・ミステリー。フィンランドの冬というだけで特異な環境は予想できるが、舞台は北の果て、サンタクロースの住むラップランドだ。さらに、そんな辺鄙な設定でもソマリア難民や、ロシアや東欧からの少女売春が関係してきたり、都会から羽目を外しにくるリゾート客に対して、厳格な規律をもった新興宗教(レスタディウス派)のコミュニティがあったり、少しもセンチメンタルにさせてくれない。立て続けに起こる事件も殺伐とした印象しかない。文庫の帯にある「見知らぬ世界に連れて行かれ〜」というマイクル・コナリーの言葉そのまま、どこか別の星の話のような気分で読んだ。

著者はアメリカ出身。カバーに添えられたポートレート写真がトム・ウェイツみたいだ。
本書の中では主人公警部はフィンランド人だが、妻はアメリカ人の設定で、著者のフィンランド感を代弁させている。と勝手に思っておく(笑) とても住みたいとは思わない土地だわ〜。


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『三本の緑の小壜』D・M・ディヴァイン著/山田蘭訳
(創元推理文庫 2011年邦訳)

ある日、友人と遊びにいった少女ジャニスは帰ってこなかった――。その後、ジャニスはゴルフ場で全裸死体となって発見される。有力容疑者として町の診療所勤務の若い医師が浮上したものの、崖から転落死。犯行を苦にしての自殺と目されたが、また少女が殺されてしまう。危険を知りながら、なぜ犠牲に?…(文庫カバーより)

Threegreenbottles 1972年に書かれた英国本格ミステリー。怪しい人が何人かいて誰が犯人か最後まで分からないやつ。ディヴァイン、初めて読んだけど、知っている作家の中ではヒラリー・ウォーなんかにテイストが近いのかな?
あっさり死んでしまう少女たちを含め、登場人物のキャラクター、特に女たちの描かれ方が面白い。いちばん印象的なのは女性教師のケアリー。こういう、何がいけ好かないのかひと言では説明できない同性が登場する本はいつでもワクワクする。やはり私はイギリス作家と相性がいい。


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『悪童』カミラ・レックバリ著/富山クラーソン陽子訳
(集英社文庫 2011年邦訳)

ロブスター漁の網が子供の遺体を引き上げた。医師ニクラスの娘、7歳のサーラだった。検死の結果、肺から石鹸水が検出され、殺人事件として捜査が開始される。指揮を執るのは父親になったばかりのパトリック、生前最後にサーラと一緒にいた少女から事情をきいたものの、浮かんだ犯人像はあまりに意外で…。(文庫カバーより)

Stenhuggaren スウェーデンの小さな海辺の町フィエルバッカを舞台にした大人気ミステリー「エリカ&パトリック事件簿」シリーズ第3弾。
現代の話と1920年代の石工とその妻の話を行き来する物語で、それがどう繋がってくるのか、終盤まで分からなかった。登場人物の年齢からしてその関係が分かり始めたときには事件も急展開して、真犯人も見えてくる構成はうまかったです。この真犯人がどういう精神的な病をもっているかはうすうすと気づいていましたが、そこまで手を出すかという違和感は少しあったかな。
それにしても、エリカは子育てでノイローゼ寸前。こういうところが本のターゲットには共感を読んでるのかな。ちょっと大袈裟では?と思うくらいだけど、女性の社会的地位の高い国なので、一人子育てを押し付けられてると感じると、ストレスも余計にたまるのかもしれません。

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