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2013年7月

2013年7月28日 (日)

溜まっていた読書メモの続き 〜『白雪姫には死んでもらう』『時の娘』ほか

『白雪姫には死んでもらう』ネレ・ノイハウス著/酒寄進一訳

(創元推理文庫 2013年邦訳)

空軍基地跡地の燃料貯蔵槽から人骨が発見された。検死の結果、11年前の連続少女殺害事件の被害者だと判明。折しも、犯人として逮捕された男が刑期を終え、故郷に戻っていた。彼は冤罪だと主張していたが村人たちに受け入れられず、暴力をふるわれ、母親まで歩道橋から突き落とされてしまう…(文庫カバーより)

Schneewittchen日本のミステリ小説のようなタイトルだ。原題もそういう意味のようだけど。ドイツの刑事オリヴァー&ピア・シリーズ第4弾。翻訳されたのは『深い疵』に続き2作目。

(以下ネタばれ)

前作と今作に共通する面白さは、権力者がずる賢く強欲な、典型的な悪者で、最後は本性をさらけ出し破滅するところですかね。今作は冤罪を晴らすというテーマもあり、ますます痛快な読み物となっている。

骨格だけみれば、予定調和で終わるストーリー。しかし、閉鎖的な村のいびつな人間関係が邪魔をして捜査は手こずる。刑事オリヴァーは妻の浮気のショックから事件に集中できないし、好奇心から探偵の真似事を始める少女には危険が迫り、カギを握っていそうなのは自閉症の青年とくる。怪しい人はいっぱいいるが、犯人も動機もなかなか見えてこないまま、思わぬ余罪や不正が発覚、どれだけ秘密を抱えた村なのよーとあっけにとられます。

とても入り組んだ構成になっていて飽きさせず、面白かった~。文庫で1365円もするんだけど元はとれたよ。満足!

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『時の娘』ジョセフィン・テイ著/小泉喜美子

(ハヤカワ文庫 1977年邦訳)

薔薇戦争の昔、王位を奪うためにいたいけな王子を殺害したとして悪名高いリチャード三世――彼は本当に残虐非道を尽くした悪人だったのか? 退屈な入院生活を送るグラント警部は、ふとしたことから手にした肖像画を見て疑問を抱いた。警部はつれづれなるままに歴史書をひもとき、純粋に文献のみからリチャード王の素顔を推理する…(文庫カバーより)

Daughteroftimes ミステリ小説のオールタイム・ベストといったものによくランクインしている1951年発表の有名作品。書籍の電子化にともなって文庫も再版になったのかな? ようやく見つけることができた。

「歴史は勝者によって作られる」とはよく言われるところだけど、それを念頭においたうえでの歴史の読み解き方というものを、まさか推理小説で教えられるとはね! しかも、病院のベッドで暇を持て余した刑事から! こういうユニークな発想だけでも、名著と呼ばれるのは納得かな。肖像画に描かれたリチャード3世は決して悪人の人相ではないという、刑事ならではの「勘」から謎解きが始まるのが面白い。とても知的で遊び心のある小説だった。

しかし、西洋史に登場する王侯貴族の名前はいまだにちっとも頭に入ってこない。同じ名前が多いので「◯世」が省かれてしまうと誰が誰やら。たまに愛称で呼ばれりもするのも混乱のもと。正直読むのにしんどい小説だった。病院のスタッフや警部の足となって動くアメリカ人青年らがユーモアたっぷりに描写されてるのでなんとか読み通したけど。

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『異郷の闇』ヤーコプ・アルユーニ著/渡辺広佐訳

(パロル舎 1998年邦訳)

娼婦、麻薬、暴力。欲望が蠢く夜の闇で起きた殺人事件。民族の壁に抗し、人種差別と戦いながらわずかな光明を見出し結ぶ点と線。トルコ人私立探偵カヤンカヤを主人公とした、ヤーコプ・アルユーニのデビュー作…(書籍データベースより)

Happybirthdayt トルコの小説と勘違いして中古で入手。ドイツ・フランクフルトを舞台にした1987年刊行のドイツ・ミステリだった。この作品でデビューした著者はドイツのハードボイルド小説の第一人者と言われている様子。なるほどかなりオールドスタイルのハードボイルド小説ですな。

原題は「ハッピー・バースデー!トルコ人」。邦題から感じる湿っぽさはなく、うん、この原題のほうがよほど雰囲気が出てるよ。それ以外の感想が思い浮かばない本読み能力のなさが悲しい…。

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『怪獣記』高野秀行・著/森清・写真

(講談社文庫)

トルコ東部のワン湖に棲むといわれる謎の巨大生物ジャナワール。果たしてそれは本物かフェイクか。現場に飛んだ著者はクソ真面目な取材でその真実に切り込んでいく。イスラム復興主義やクルド問題をかきわけた末、目の前に謎の驚くべき物体が現れた! 興奮と笑いが渦巻く100%ガチンコ・ノンフィクション…(書籍データベースより)

Kaijuki これもトルコ旅行の前に手に入れていた1冊。

楽しい読み物だった! 著者らが取材対象としたトルコのUMA(未確認生物)ジャナワールは、一時話題になってすぐに消えた、相当に実在度の低いトルコ版ネッシー。著者も最初はまったく乗り気ではないところから旅はスタート。そして案の定、証拠ビデオを撮影したのは思いっきり胡散臭い人物だし、地元の人たちからは一笑に付される。もう、ただのオモシロ旅行記じゃんと思っていたら最後は……まさかの展開! ちゃんとUMAの調査報告書として体裁が整うところがすごい!(笑) この著者の、面白いネタを見逃さない才能はかなりのものだけど、運も持ちあわせているんだね。

UMA探しとは直接には関係ない、そして珍道中記とも一見ミスマッチな、なんでもない景色をとらえた写真が、旅情を添えていて、またよろし。

この本から伝わるトルコの国民性も面白かった。私が旅行で訪れたのは西部のイスタンブールとエディルネのみで、さらに短い滞在だったとはいえ、妙に腑に落ちた。著者の計画を聞かずに勝手に段取りを決めていく現地ガイドと運転手もそうだけど、特に撮影ビデオでひと儲けを企んだ人たちの臆面のなさといったら…。お金になりそうなことはなんでも商売にしてしまうという私の抱いたイメージそのままで、笑わせてもらった。

2013年7月21日 (日)

人間だけが残される。少しの間は。〜『赤く微笑む春』ほか

2カ月前に読んだ本のメモなので、記憶違いもありそう。

『赤く微笑む春』ヨハン・テオリン著/三角和代訳

(ハヤカワ・ミステリ 2013年邦訳)

エーランド島の石切場のそばのコテージに暮らしはじめたペール・メルネル。ある日彼のもとに、疎遠にしていた派手で傲慢な父ジェリーから、迎えに来るよう求める電話が入る。渋々父の別荘に赴くと、そこに待っていたのは謎の刺し傷を負った父だった。そして直後に別荘は全焼する。なぜこんな事件が起きたのか? 娘の病気などの悩みを抱えながらも、ペールは父の暗い過去を探りはじめる…(裏表紙より)

Blodlage スウェーデンはエーランド島を舞台にしたシリーズ第3作。

本シリーズの主人公イェルロフは、自分の死期が近いことを感じて高齢者ホームを出て独り暮らしの家に戻り、そこで見つけた亡き妻の日記を罪悪感を覚えながらも紐とき読み始める。その頃、ご近所には2組の新たな住人が引っ越してくる。妻と離婚して島で新しい生活をスタートさせたが、病気の娘を抱えており、長年距離を置いてきた父親からの突然の連絡で大きな事件に巻き込まれようとしているペール。そして、島に関係する暗い過去を持ち、今は威圧的な夫との長年の生活に心身のバランスを崩しそうになっているヴェンデラ。

本作はこの2人を中心にした物語。現在と過去の出来事を絡ませ、さらにご当地色たっぷりな、エルフやトロールというファンタジーな要素と、北欧ポルノという生臭い要素をミステリ題材として並行して扱い、どれも納得いく着地をみせるのが見事です。つなぎとなっているのがイェルロフ。本作もとても重要な役割を果たす。素人探偵にありがちな変な自負とか浮ついたところがまったくなく…なんだろう、この他に類を見ない存在感は…。どうか長生きしてほしいと願うばかりです。

ヴェンデラの子供時代が悲しすぎた。彼女にとってのエルフの存在は、私の場合は幼稚園の裏手にあった雑木林かな。自然ばかりの田舎に育ったけど、あの雑木林の前を通るときだけ不思議な力を感じて、何度かは夜にこっそり出かけて行って、風で木の葉がこすれる音にじっと耳を傾けていた記憶が今も鮮明。やっぱりあそこには何かいたのかな…。

エーランド島4部作は次の「夏」編を残すのみ。この島の風土と、人口密度の低そうな静けさをしみじみ味わいながら読んできた者としては、島がリゾート地と化す夏はあまり魅力的な季節じゃないなあと思うのだが、おそらくその懸念は不要だね。

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『特捜部Q ―カルテ番号64』ユッシ・エーズラ・オールスン著/吉田薫訳

(ハヤカワ・ミステリ 2013年邦訳)

「特捜部Q」―過去の未解決事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の新部署である。「Q」が今回挑むのは、80年代に起こったナイトクラブのマダムの失踪事件。アサドとローセの調査によるとほぼ同時に5人もの行方不明者が出ているという。カール・マーク警部補は大事件の匂いを嗅ぎつけ捜査に着手。やがて、壮絶な過去を持つひとりの老女と新進政党の関係者が捜査線上に浮かび上がってくるのだが(裏表紙より)

Journal64 もうシリーズ第4弾か!早い~。本作も快調! 憎々しい権力者のキャラクターといい、殺人犯の死体の処理の方法といい、エンタメ度高すぎて、まったく思いが至ってなかったが、ここに登場する強制的な不妊手術や女子収容所は過去に実際にあったものなのね…。著者のあとがきを見て、唖然としちゃったよ。ナチスのやつは知っていたが。

しかし、このシリーズ、カールの出来過ぎた助手アサドの過去については謎のまま。中東の元諜報部員とかそんな感じがするけど、今となってはどうでもいいか(笑

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『六人目の少女』ドナート・カッリージ著/清水由貴子訳

(ハヤカワ・ミステリ 2013年邦訳)

森のなかで見つかった6本の左腕。それは、世間を騒がせる連続少女誘拐事件の被害者たちのものだと判明する。しかし、誘拐された少女は5人だった。6人目の被害者は誰なのか。失踪人捜索のエキスパートであるミーラ・ヴァスケス捜査官は、高名な犯罪学者ゴラン・ガヴィラとともに特別捜査班に加わることになる。だが、警察の懸命の捜査を嘲笑うかのように、犯人は少女の遺体を次々と発見させて(裏表紙より)

Ilsuggeritore 各国で多くの賞を受賞しているイタリア産のサイコサスペンス。通常の警察小説と思わせながら、え、ええええ!という終盤のどんでん返しが重なる展開は、狙いが見え透いてる感じで、あまり好みではなかったかなあ。また、最終章が輪をかけて理解できない。一体、真犯人らしき人物は何がしたかったの。主人公のミーラは何に納得してんの? 『羊たちの沈黙』も苦手部類だから仕方ないか。

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