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2013年5月

2013年5月12日 (日)

気にするな、魔術が白魔術であるかぎりは 〜『ディミター』

『ディミター』ウィリアム・ピーター・ブラッティ著/白石朗訳
(創元推理文庫 2012年邦訳)

1973年、宗教弾圧と鎖国政策下の無神国家アルバニアで、正体不明の人物が勾留された。男は苛烈な拷問に屈することなく、驚くべき能力で官憲を出し抜き行方を晦ました。翌年、聖地エルサレムの医師メイヨーと警官メラルの周辺で、不審な事件や<奇跡>が続けて起きる。謎が謎を呼び事態が錯綜する中で浮かび上がる異形の真相とは…(文庫カバーより)


Dimiter 著者は『エクソシスト』で知られる人。構想から30年以上を経て、82歳のときに発表したミステリ小説なのだそうだけど……この奇妙な味わいは、著者がイエズス会で教育を受けて育ったという背景が大いに関係しているのかな?

アルバニアの国家保安省の大佐ヴロラ、エルサレムの神経科医メイヨー、警部補メラルの視点から綴られる、話の筋には大して意味のなさそうな細々とした出来事、突然挿入される断片的な章をとても心地よいと思って読んだ。ディミターという伝説のスパイの存在、いくつかの不審死、そして善良な人々を救う奇跡…、謎は深まっていく一方なのに、これで十分だと思えるくらい引きつけられる文章だ。そんなふうに感じるのは、私がヴロラ、メイヨー、メラルら、喪失感を引きずり疲れてみえる大人たちの物語が日頃から好きなせいもあると思うけど。

しかし、終盤になって、ディミターと呼ばれずっと囁かれ続けてきた人物がなぜ伝説的なスパイとなりえたかが明かされると、そういうことだったのか! すべてに意味があり繋がっていたんだ! と納得させられてしまう。すごい力技なのに! そして、最後のとどめ打ち。いや~ん、とんでもない小説だった。ある意味、究極のスパイ小説であり、オカルトというよりはファンタジー。そしてささやかなハッピーエンドにほろりとさせられ。

メイヨーがある日に独り言でつぶやいた「気にするな、魔術が白魔術であるかぎりは」の言葉に共感。面白かったです!!

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