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2013年4月

2013年4月27日 (土)

災い転じて… 読書メモ『遮断地区』ほか

『遮断地区』ミネット・ウォルターズ著/成川裕子訳
(創元推理文庫 2013年邦訳)

バシンデール団地。通称アシッド・ロウ。教育程度が低く、ドラッグが蔓延し、争いが日常茶飯事の場所。そこに引っ越してきたばかりの老人と息子は、小児性愛者だと疑われていた。ふたりを排除しようとする抗議デモは、彼らが以前住んでいた街で10歳の少女が失踪したのをきっかけに、暴動へ発展する。団地をバリケードで封鎖し、石と火焔瓶で武装した二千人の群衆が彼らに襲いかかる。往診のため団地を訪れていた医師のソフィーは、暴徒に襲撃された親子に監禁されてしまい…(文庫扉より)

Acidrow 現代英国ミステリの女王(のひとり)、ミネット・ウォルターズの2001年の作品。これで、長編についてはすでに翻訳済みの2002年作『病める狐』まで、漏れなく翻訳されてきたことになり、よかったよかった。やっぱり面白いわ〜。どの作品もありきたりのストーリー・構成じゃないところがいい。

作風としては『破壊者』に近いかな。特定の主人公を設けず、俯瞰的に事件の経緯と顛末を描いていくタイプの小説。といっても、最後にはある人物がこの小説の中でのヒーローになるんだけど。さわやかな最終章でよかった! その直前が暴虐すぎたゆえに余計。

母親たちのデモが、地元不良少年たちの憂さ晴らしに利用されて暴動に発展。それをなすすべもなく上空のヘリから見守る警察や救急隊。緊迫の一日が、最悪に近い結果に終わるのは冒頭ですでに明かされている。
しかし、貧困者や一人暮らしの老人たちで構成される“掃きだめ”地区の住人たちがみんな、愚かで非力だという描かれ方はしていない。そこにも当然、一人ひとりの顔がある。人種や職業、前科といった偏見(読者の先入観)を裏切っていく展開が小気味よい、というかうならせる。
少なくとも小児性愛者として服役までした男にこれほど同情を覚えたことはなかったな…。


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『青雷の光る秋』アン・クリーヴス著/玉木亨訳
(創元推理文庫 2013年邦訳)

ペレス警部は婚約者のフランを両親に紹介するべく、ふたりで故郷のフェア島を訪れていた。だが、島のフィールドセンターでひらかれた婚約祝いパーティの直後、センターの職員アンジェラが殺される。折からの嵐でシェトランド本島との交通が途絶したため、単身捜査を開始した警部だが、奮闘むなしくついには第二の殺人が…(文庫カバーより)

Bluelighting ついに「シェトランド四重奏」最終章。ひえ〜そしてこの結末か!! 衝撃的すぎる。なんと評していいか分からん。それまでのあらすじも、ぜんぶ吹っ飛んだわ。
過去をひきずった刑事が主人公という、私にはおなじみの小説がここから始まるわけだな…。しかし、アン・クリーヴスはそうした続編を書くだろうか?

バード・ウォッチングに熱狂する人々というのがちょっと勉強になった。日本の鉄道マニアみたいだね。


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『夏を殺す少女』アンドレアス・グルーバー著/酒寄進一訳
(創元推理文庫 2013年邦訳)

酔った元小児科医がマンホールで溺死。市会議員が運転をあやまり事故死。一見無関係な出来事に潜むただならぬ気配に、弁護士エヴェリーンは深入りしていく。一方ライプツィヒ警察の刑事ヴァルターは、病院での少女の不審死を調べていた。オーストリアの弁護士とドイツの刑事の軌跡が出合うとき、事件が恐るべき姿をあらわし始める…(文庫カバーより)

Rachesommer ドイツで数々の文学賞の受賞歴があるオーストリア作家によるミステリ。
主人公となる若い女性弁護士と中年刑事のキャラ、真相に近づいていく展開はきわめてオーソドックス。一気に読める質の高さはありつつ、印象に残る小説でもないかな。
なんかいろいろと単純化しすぎ。そして、事件の背景にある10年前の出来事といい、その後の関係者たちの境遇といい、忌まわしく悲惨であればあるほど読者が食いつくと思われたら嫌だなと。

ここ半年くらいを思い出して映画メモ

「ムーンライズ・キングダム」(2012年 アメリカ)

Moon 主人公の少女の家に敷かれていたあの円形の絨毯、まったく同じ見た目のがうちにも昔あった!
昨年の夏、実家の掃除をしていて、屋根裏部屋に無造作にしまわれているのを発見。ネズミが巣をつくりそうだったから、重いのを苦労して引きずり下ろして捨てたんだったわ。

公開を待ち望んでいたウェス・アンダーソン監督作品。
愛おしい映画だった〜。小さな島の共同体で子供たちを守り育てる、そんな当たり前のことにきゅんきゅんきた。前作「ファンタスティック Mr.FOX」あたりから、子供に対する監督の目線がぐんと大人っぽくなったように感じる。子育てでもしてるのかな?
ストーリーも良かったが、相変わらず小技が効いてた。最後の場面でスクリーンからはけていく少女が一瞬立ち止まり、スクリーンのこちら側をうかがうようにするところ、エンドロールでかかる「管弦楽入門」も楽しく、最後まで引きつけてやまなかった。

島に嵐が上陸し、住民が高台の教会に避難するところは、東日本大震災を思い起こした。映画製作のタイミングからして穿ちすぎと思うが、あの大震災があったとき、上映中(または上映直前)だった「ファンタスティック Mr.FOX」に急きょ、監督からの字幕お悔やみメッセージが追加されていた。あの対応の早さに感動したんだっけ。


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「シュガーマン 奇跡に愛された男」(2012年 スウェーデン/イギリス)

米国アカデミーのドキュメンタリー長編賞受賞作。
これも良かった! 幻のシンガー、ロドリゲスの身の上に起きた奇跡とやらは二の次で、ロドリゲスのたたずまい、歩んできた人生からうかがい知ることができる気品にやられたよ! 証言の中に出てきた「地に足がついた男」という表現がほんとぴったり! 音楽ドキュメンタリーととらえていたから、こんなところで感動させられたのは意外だった。

どこかで音楽に興味のない人には退屈かもしれないという評を見たが、いやいやそれは違います。中高年じゃないとこの映画の感動どころが分からないかもしれない、と言い換えておく。


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「愛、アムール」(2012年 フランス/ドイツ/オーストリア)

ミヒャエル・ハネケ監督。こちらはカンヌのパルムドール賞、アカデミーの外国語映画賞など、各国の賞を受賞しまくり。
ジャン=ルイ・トランティニャン主演を楽しみにしていたが、妻役のエマニュエル・リヴァの演技がすさまじかった。
夫は最後、どこへ行ったんだろ? わからなかったよ〜。
映画の冒頭はしっかり目を凝らしておく必要があったんだろうな。しかし、2度目を見るには内容が重い…。

2013年4月14日 (日)

「リーチャーを呼んでくれ」~『アウトロー』『スケアクロウ』ほか

2カ月ぶりの更新…。パソコン壊れてしばらく更新できなかった。言い訳だけど。メモっておきたかった記憶がすでにあやしい。


『アウトロー』リー・チャイルド著/小林宏明訳
(講談社文庫 2013年邦訳)

平和なダウンタウンで起きた、ライフル狙撃による無差別殺人。容疑者は6時間後に特定された。証拠はこれ以上ないほどに揃っており、誰もが容疑者の有罪を確信していた。だが容疑者は黙し、たった一言だけを発した――「ジャック・リーチャーを呼んでくれ」。全米ベストセラー・シリーズ、待望の最新刊…(文庫カバーより)

Oneshot_2 このシリーズ、やっぱり楽しいわ~! 主人公ジャック・リーチャーが相変わらず無敵だ。身長195センチ、体重113キロの巨体(映画では小柄なトム・クルーズが演じているが)。 喧嘩も強いけど、それ以前に頭が切れて相手の一歩先を読めるのでいつも冷静でいられる。信頼できる人間とできない人間をすぐに見極めることができ、騙されて痛い目に遭うようなこともまずない。

さらに、リーチャーはさまざまな束縛から自由だ。無職のうえに住所不定のホテル暮らし。信用できると思った人間や目に止まった女性とは、すぐに打ち解け親しくなるが、しがらみになるのを避けるため1カ所に長くとどまることはない(この小説の去り際も実にあっさりしている)。荷物も持たない。トータルで40ドルくらいのスーパーで売っている安い衣類を数日着て、汚れたら捨てて買い換える。使い捨てカミソリなどを加えても必要なものは1日当たり10ドルで賄えるとか、このあたりは妙に現実的(笑。

とまあ、現実逃避したい男性にはうってつけ、さらに女の私が読んでもおそらく遜色のない面白さ。これだけ様式の定まった無敵のヒーロー小説なのに、物語が薄っぺらいという感じがしない。万人が楽しめるエンタメ小説ですね。


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『スケアクロウ』マイクル・コナリー著/古沢嘉通訳
(講談社文庫 2013年邦訳)

人員整理のため2週間後に解雇されることになったLAタイムズの記者マカヴォイは、ロス南部の貧困地区で起こった「ストリッパートランク詰め殺人」で逮捕された少年が冤罪である可能性に気づく。スクープを予感し取材する彼を「農場(ファーム)」から監視するのは案山子(スケアクロウ)。コナリー史上もっとも不気味な殺人犯登場…(文庫カバーより)

Scarecrow_2 これも面白かった!一気読み! 上記の『アウトロー』とは違って、こっちは犯人側が神みたいな存在。データセンターに勤務しながら、インターネット網を通じて個人のパソコンや監視カメラのデータをハッキング。欲しい情報はほとんど手に入れられてしまうのだから。しかし、自らの欲望には歯止めが効かず、調子にのってボロを出してしまったわね。そうでないと困りますが。

新聞記者マカヴォイを主人公にした前作『ザ・ポエット』は読んでいないよ、すみません。でも、コナリーの小説の警官、弁護士、記者が主人公のうちでは、このマカヴォイがいちばん一般人に近いというか、共感をもって読める気がする。コナリー小説ではおなじみの女性FBI捜査官が早々に登場してマカヴォイが危機を免れるところは都合が良すぎると感じたが、犯人側に情報が筒抜けの状況では、これくらいのハンディを設けないと、バランスがとれないでしょう。

殺人を疑いをかけられた黒人少年とその家族の描写が、いかにもハードボイルド小説作家コナリーらしいと感じた。


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『宙の地図』フェリクス・J・パルマ著/宮﨑真紀訳
(ハヤカワ文庫 2012年邦訳)

1892年、地底への入口を発見すべく南極探検船がニューヨークを出港した。だが南氷洋で船は氷に閉ざされてしまう。折しも奇妙な飛行物体に乗って現われた怪物が探検隊を襲い、死闘が繰り広げられる。そして約70年後の1898年、小説『宇宙戦争』を発表して大好評を得たH・G・ウエルズのもとを、ロンドン警視庁特殊捜査部の特別捜査官クレイトンが訪れる。小説と同じ飛行物体が出現した現場に来てほしいというのだが…(文庫カバーより)

Elmapadelcielo_2 スペイン作家による、ジャンルは何になるんだろうか? 古典SF小説やSF映画へのオマージュを盛り込み、19世紀の実在の人物たちもたくさん登場するSFエンタテインメント小説かな。
『時の地図』の続編にあたり、その前作も読まずに言うのはなんだけど、長くてくどいドタバタ劇って感じで、読むのにすごく時間がかかったわりには頭を刺激される要素にも、読み終わった達成感にも乏しく、ただただ疲れた~。ま、向いていなかったということで。
最後にあの牧師が再び登場し…というオチを予測したが、それも外れた。


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この1カ月ほどは、5月に一人旅を予定しているトルコ・イスタンブール関連の本ばかりを読む。ガイド代を節約する代わりに本で予習ってところ。しかも古本がほとんど。

『コンスタンティノープルの陥落』塩野七生(新潮文庫)
この人の小説、初めて読んだ。すごいリサーチ力と知識だ。
『黄金のビザンティン帝国 文明の十字路の1100年』ミシェル・カプラン(創元社)
図柄が豊富。内容は頭に入ってこず…。
『オスマン帝国 イスラム世界の「柔らかい専制」』鈴木董(講談社現代新書)
ビザンティン帝国とオスマン帝国は共通点が多い。
『イスタンブル歴史散歩』鈴木董(河出書房新社)
少し古いけど、観光の予習にはぴったり。
『イスタンブル歴史散歩』澁澤幸子(新潮社)
歴史を重視しているので、通常の旅行ガイドブックでは触れられていない名所がちゃんと紹介されていて良かった!
『すぐわかるイスラームの美術』桝屋友子(東京美術)
建築の構造や装飾にも多くのページが割かれ、わかりやすく楽しい。すぐれもの!
『トルコのもう一つの顔』小島剛一(中公新書)
1970~80年代のトルコ政策の暗部を暴く。旅行記にもなっている。
『イスラムの怒り』内藤正典(集英社新書)
日本で垂れ流される欧米発のイスラムに関するニュースに接する前に、これくらいは知っておけ的な内容。
『愛の旅人 詩人ルーミーに魅せられて』ロジャー・フーズデン(地湧社)
小説。スピリチュアルすぎてよくわからない。

時間があったらジェイソン・グッドウィンのミステリ小説『イスタンブールの群狼』『イスタンブールの毒蛇』も再読しよう。

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