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2013年2月

2013年2月16日 (土)

ランダムハウスジャパンの3作品 〜『天使の護衛』ほか

昨年暮れの武田ランダムハウスジャパン破産のニュースを受けてから読んだ3冊。ランダムハウスの翻訳ミステリ小説、比率としてはけっこう読んでいるんだよなあ。海外作品を翻訳してくれる出版社が減るのはとても残念。


『天使の護衛』ロバート・クレイス著/村上和久訳
(RHブックス・プラス 2011年邦訳)

その夜から、富豪の娘ラーキンの悪夢は始まった。深夜の街で起こした衝突事故。相手の車の後部座席の男はなぜか黙って姿を消し、車も走り去った。まもなく、消えた男は国際手配中の殺人犯、運転者は資金洗浄を疑われる不動産業者と判明、目撃者であるラーキンは命を狙われることに。娘の身を案じた父親は街一番の凄腕と評判のジョー・パイクに警護を依頼する。なおも執拗な襲撃を繰り返す敵に対して、パイクはあらゆる戦術を駆使して反撃を開始したが…(文庫カバーより)

Watchman 著者は日本でも1980年代から私立探偵エルヴィス・コール・シリーズで知られた人らしいです。本作はそのコールの相棒パイクを初めて主役に据えたサスペンス作品。
命を狙われた美しい富豪の娘を、海兵隊上がりで元警官という百戦錬磨の男が守るという、映画などではよくある題材ながら、センスよく仕上がっていたと思います。無口なうえに常にサングラスをして表情を隠しているジョー・パイクと、それとは対照的な人好きのするキャラクターのエルヴィス・コール、さらに本作から仲間入りする(のかな?)気弱でオタクっぽいロス市警科学捜査部のジョン・チェンという組み合わせが楽しいし頼もしい。続きが出たら読もうと思うが、どこかが引き継いでくれるかな?

バリー賞最優秀賞、ガムシュー賞最優秀賞受賞。アンソニー賞、国際スリラー作家賞ノミネート作。

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『アディオス、ヘミングウェイ』レオナルド・パドゥーラ著/宮崎真紀訳
(ランダムハウス講談社 2007年邦訳)

夏の嵐が過ぎ去ったハバナ。かつて文豪ヘミングウェイが暮らした邸宅〈フィンカ・ビヒア〉の敷地内から、40年程前のものと思われる何者かの他殺死体が発見された。元刑事で現在は古本屋稼業にいそしむコンデは警察の依頼を受け、捜査に乗り出す。犯人は「パパ」その人なのか? 捜査を進めるうち、コンデはかつて憧れた文豪の意外な一面を知ることになる…。事実と架空の狭間を往来しつつ文豪の実像に迫る、異色のミステリ…(文庫カバーより)

Adioshemingway なんとキューバのミステリー作家の作品! こういうレアな産地のやつがひっそりと文庫で出版されているものなのね。出版時は少しは話題になったのかな? 
主人公のコンデは幼少のときにコヒマルの海岸で晩年のヘミングウェイに遭遇しているのが自慢であり、早めに警察を引退した今は自ら小説家を目指すほどその作品には傾倒している一方で、ヘミングウェイの人間性については散々貶したりと、アンビバレンスな気持ちを抱いている。ヘミングウェイは人殺しなのか、それとも? 現代パートと交互してヘミングウェイの目線で語られるパートが、実像にかなり大胆に迫っており、なかなか面白い。
ミステリ小説じゃなく、文学扱いでいいと思います。

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『ピップスキーク!』ブライアン・M・ウィプラッド著/新井ひろみ訳
(ランダムハウス講談社 2005年邦訳)

「ピップスキークじゃないか!」剥製ディーラーのガースが、ふと立ち寄った中古品店で見つけたのは、かつての子供番組の人気キャラクター、ピップスキーク。リスの人形(剥製)だ。なんとしてでも手に入れようと、店員に交渉をはじめると、そこにタイミング悪く強盗が。しかもお目当てはこのピップスキーク!? いったいどうなってるんだ? 人形の裏に隠された陰謀に巻きこまれてしまった大人たちの痛快どーぶつミステリ…(文庫カバーより)

Pipsqueak 文庫の表紙に描かれている愛らしいリスが人間の言葉をしゃべるのか!という期待もあったが、そうではなかった。ドナルド・E・ウエストレイクのドタバタ系に近いかな? いや、一種のオタク小説か? いつまでたっても子供時代と決別できない主人公であるが、世界征服を企む悪の組織の企てもやっぱり子供じみていてショボいとしか思えなかったところが残念。

「オースティンの霊にお詫び申し上げたい」~『高慢と偏見、そして殺人』ほか

2カ月ぶりです。お久しぶりです。


『高慢と偏見、そして殺人』P・D・ジェイムズ著/羽田詩津子訳
(ハヤカワ・ミステリ 2012年邦訳)

紆余曲折の末にエリザベスとダーシーが結婚してから6年。二人が住むペンバリー館では平和な日々が続いていた。だが嵐の夜、一台の馬車が森から屋敷へ向けて暴走してきた。馬車に乗っていたエリザベスの妹リディアは、半狂乱で助けを求める。家人が森へ駆けつけるとそこには無惨な死体と、そのかたわらで放心状態のリディアの夫ウィッカムが……殺人容疑で逮捕されるウィッカム。そして、事件は一族の人々を巻き込んで法廷へ…(裏表紙より)

Deathcomestoremberley 1920年生まれ!の著者の最新作は、ジェーン・オースティンの人気作品『高慢と偏見』(1813年)の続編。原作から6年後の設定で、原作の登場人物のキャラクターを生かしつつ、得意のミステリー作品に仕立ててみましたという内容だ。
『高慢と偏見』は以前テレビドラマ版を見ただけだが、プロローグでざっと内容のおさらいがされていて助かった。実はこのプロローグがとても面白く、ジェイムズらしさがしっかり出ていると思う。「殺人捜査にエリザベスを巻き込んでしまって、オースティンの霊にお詫び申し上げたい」という扉の一文も洒落ている。ミステリー作品としては、ややインパクト不足と思うが、これは原作の持ち味を尊重した結果なのだろう。私みたいにジェイムズ作品のコンプリートを目指す人間や、オースティン作品好きは読んで損はないはず。

それにしても、90歳を超えてこれだけしっかりした長編が書けることに圧倒させられる。さらに、著者自身がオースティンのファンで、同じオースティンのファンたちに向けて書かれたと思われる同人誌的な作品なので、純粋に小説を紡ぐことへの情熱のみがいっそう際立って感じられ清々しいほどだ。
ところで、ダルグリッシュ・シリーズは前作の『秘密』でやはり完結したってことかな。

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『どこよりも冷たいところ』S・J・ローザン著/直良和美訳
(創元推理文庫 2002年邦訳)

マンハッタンの建設現場で工具が頻繁に消え、さらにはクレーンの操作係が失踪する。疑わしい班長の素行調査を請け負った私立探偵ビル・スミスは、レンガ工として覆面捜査を開始したが、すぐに工員が瀕死の重傷を負う。ピアノを愛する中年の白人探偵と相棒のリディアが、こみいった事件の最深部に見たものとは…(文庫カバーより)

Nocolderplace 若き中国系女性リディアと白人中年男性ビルが交互に主役を務める私立探偵シリーズ4作目。これはアンソニー賞最優秀長編賞作。
「建設現場ほど寒いところはない」という文から始まる本作。建築中の建物には命は宿っていない。しかし、大きくなっていくにつれて現場で働く人間から命をちょっとずつ取り込んでいき、過去を溜め込むとやがて息をし始める。そうやって生き物になった瞬間は、生き物特有の温もりによってはっきりわかると…。
以前、私にも建築作業員の知り合いがいた。その人はいつも腰痛で苦しんでいた。きつい仕事だ。でも、自分が携わった建築物が完成した姿を見るときの喜び・満足感に代わるものはないと話していたことを思い出した。成長した我が子を見るような思いなのかな。

今はたまに建設途中で鉄筋が錆びつくままに放おっておかれている物件を見かけ、金策が尽きたのかな、建築会社や建材会社はちゃんとお金をもらえたのかなと想像してみるが、この小説を読んだらいちばんがっかりきているのは現場作業員かもしれないなと思った。リディア&ビル・シリーズは、何ものにも縛られず自分自身の信念を貫くビルの性格も魅力だが、脇役に毎回、ほっとする人柄の人物が登場するのがいいね。本作はレンガ工仲間のディメイオだ。そして、いろいろあったけど、ビルやディメイオたちの仕事が流れてしまわなくて良かった。


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『火怨 北の耀星アテルイ』高橋克彦
(講談社文庫)

辺境と蔑まれ、それゆえに朝廷の興味から遠ざけられ、平和に暮らしていた陸奥の民。8世紀、黄金を求めて支配せんとする朝廷の大軍に、蝦夷の若きリーダー・阿弖流為は遊撃戦を開始した。北の将たちの熱い思いと民の希望を担って。古代東北の英雄の生涯を空前のスケールで描く、吉川英治文学賞受賞の傑作…(文庫カバーより)

Kaen これを原作としたドラマが、この冬にNHKBSで大沢たかお主演によりドラマ化。阿弖流為(アテルイ)の親友であり参謀の母礼(モレ)役として北村一輝も出演!てことで、いつも海外ミステリーばかりを読んでいるが、たまには違ったタイプの小説で頭の柔軟体操もすべきだろうと思い読んでみる。
思ったより時間がかかり、タイミング的にはドラマと同時進行の読書となったんだけど、小説はドラマよりははるかに面白いから! というか、ドラマがひどすぎた〜。原作とうたっているが、結局、史実として分かっているわずかな部分しか共通点がないくらい内容も違っていた。しかし、ドラマを同時に鑑賞したことで、小説のほうもほとんどが創作で、史実と勘違いするのを避けられたのは良かったと思う。

噂ではよく聞く話だけど、テレビドラマだと、女性も重要な役として登場させなければならないルールがあるようだ。こういうところで男女平等扱いはほんとくだらない。原作は男だらけなんだからそれでいいのに。そんな昔の時代の話、誰も文句は言わないよ。女優が出るからという理由で視聴率が上がるとも思わないしな。

小説は内容もいかにも男性好み。何度も襲い来る数万の朝廷軍に対し、勝手知ったる地の利を生かして少数精鋭でふるさとの空と大地を守りとおす蝦夷たち。どうやって戦うかに重点が置かれ、映画「レッドクリフ」を思い出す(『三国志』みたいと言いたいところだけど読んでないからね)。
感極まって男泣きという場面が何度も出てくるのがおかしくて、最初はとまどいつつも、上巻の終わりくらいから私でも面白さが分かってきました。

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