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2012年12月 9日 (日)

マンケルらしい犯人像 ~『ファイアーウォール』ほか

ひえ~2カ月ぶりの更新。ずぼらすぎて落ち込む。

『ファイアーウォール』ヘニング・マンケル著/柳沢由実子訳

(創元推理文庫 2012年邦訳)

19歳と14歳の少女がタクシー運転手を刺殺する事件が発生。逮捕された少女たちは金ほしさの犯行だと自供するが、ヴァランダーはその動機が理解できない。次に、一人暮らしのITコンサルタントの男が深夜にATMの前で死んでいるとの通報を受ける。検死の結果は病死だった。ところが、警察の失態から逮捕されていた少女が逃亡、単なる病死だったはずの男の死体が盗まれるという事態になり、2つの事件の関連性が疑われはじめる…。

Brandvagg ヴァランダー警部シリーズ8作目は、5作目の個人的傑作『目くらましの道』の壮大なネタバレから幕を開ける。順番に読んでおかないと損です。なんてね。

過去に手がけた事件で抱いた思いが澱のようにたまり、何かあるたびにその澱が再び舞い上がってくる。ヴァランダーは今日もくたびれています、人生に。というより、理解できないことが多すぎるこの世の中に。と言ったほうが正しいかな。で、独り身のさびしさがますます身にしみるようになった警部は、新聞の出会い欄に投稿するという、らしからぬことをするわけで…。毎度、警部自らがうっかりをやらかしていたというか、気づかずに犯人を刺激していたという伏線の設け方がうまいです。

タイトルのまんま、本作はITセキュリティとそれに依存する社会の脆さが題材に。実は原作が出版されたのは1998年。順調に翻訳されているシリーズ作品だが、依然14年ものタイムラグがある。1998年というと日本では郵便番号が7桁になり、長野オリンピックが開催され、和歌山毒物カレー事件が起きた年と、ずいぶん前のことに感じる。ましてや日進月歩のITが題材では割を食う部分もあるのでは?と思ったが、そうでもなかったかな。強く印象に残るのは犯人像のほうで、ひどく歪んだ考えの持ち主であることは確かだが、犯罪の動機については著者自身も大いに思うところがありそうな、いかにもマンケルらしいものだった。

この警察小説シリーズはスウェーデンの田舎町が舞台で、ヴァランダー警部が国から出ることも珍しいのだけど、必ずグローバルな視点を入れてくる。毎回扱う事件が国内だけで閉じていないのがユニークだなと改めて思う。

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『新生の街』SJ・ローザン著/直良和美訳

(創元推理文庫 2000年邦訳)

新進デザイナーの春物コレクションのスケッチが盗まれた。次いで5万ドルの現金の要求。身の代金受け渡しの仕事を持ち込まれた探偵リディアは、相棒ビルを援軍に指定の場所に赴いたが、不意の銃撃をへて金は消える。汚名返上のため、ファッション界に真相を探ろうとするリディアとビルだったが(文庫カバーより) 

Mandarinplaid ニューヨークはチャイナタウンに暮らす小柄な中国系女性リディアと、大柄な中年の白人男性ビルという凸凹探偵コンビが活躍するシリーズ3作目。本作の主人公はリディアだが、物怖じしない大胆な行動を見せ、1作目で感じた、探偵なのにあまりにも普通の女の子という物足りなさが払拭されました。うん、面白い! 次も読む。

現在のニューヨークが舞台の、いわゆるご当地ミステリシリーズって、実はそれほど多くはないのではないかな。私が読んでいないだけか?

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『8(エイト)』キャサリン・ネヴィル著/村松潔訳

(文春文庫 1998年邦訳)

革命の嵐吹きすさぶ18世紀末のフランス。存亡の危機にたつ修道院では、宇宙を動かすほどの力を秘めているという伝説のチェス・セット「モングラン・サーヴィス」を守るため、修道女たちが駒を手に旅にでた。世界じゅうに散逸した駒を求め、時を超えた壮絶な争奪戦が繰り広げられる。壮大かつスリリングな冒険ファンタジー…(文庫カバーより)

Eight フランス革命時に秘密を抱えてヨーロッパ各地に身を潜めることになった修道女たちと、1972年にOPECのコンピュータシステム担当としてアルジェリアに派遣されることになった若きアメリカ人女性が主人公。

歴史上の有名人物がわんさか登場したり、砂漠であやうく行き倒れになりそうになる文字通りの冒険パートは面白い! しかし、歴史やチェスや数学などの知識がないとついていけないと感じるところがある一方で、知っていたら知っていたで相当に都合良く強引だなと感じる部分もあり、どうも集中して読めなかった。ラストは壮大な設定のわりには、ごく狭い範囲で決着がつくしなあ…。それも星のさだめだからと言われればそれまでだが。

あと、才色兼備な主人公とハンサムでミステリアスな男によるハーレクインロマンス的な雰囲気を盛り込まれるとそれだけで、ああアメリカのエンタメ小説だよなと思って、こういうのが近頃ではすっかり苦手なものになっていることが判明。著者の華々しい経歴を見てさらに一歩引いてしまった自分がいる笑

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『引き攣る肉』ルース・レンデル著/小尾芙佐訳

(角川文庫 1988年邦訳)

ヴィクターには或る恐怖症があった。14年の刑期を終えて出所した今、彼はその恐怖の因となるものをいずれ目にすることを予測していた。彼のもう一つの関心は、フリートウッドという元刑事のことだった。ヴィクターは女を襲って追われる途中、フリートウッドを銃で撃ち、逮捕されたのだ。彼は半身不髄となったが、クレアという恋人と幸福に暮しているという。不思議な運命の糸に操られたかのように、ヴィクターは彼らと出会った。クレアを含む3人の間に生じた、奇妙で危険な関係…(文庫カバーより)

Liveflesh レンデル読むのも7作目です。これは犯罪者の視点で描かれるノンシリーズのサスペンス。

ヴィクターには逮捕されるきっかけとなった事件以外にも、衝動的な犯罪癖あり。しかし、刑期を終えて出所してからは、なんとかセーブして社会に順応しようとしている。傷つきやすい子供のようなところがあり、少し同情を覚えなくもないのだ。ところが被害者との再会を考えだすあたりから、少しずつ心情と行動に奇異なものが混じり始める。

人間心理の正常と異常の紙一重なところをじわじわとページ数を割いて掘り下げ描いていくあたり、さすがレンデルだよねー、うまいなー、徹底して神目線の意地悪さだよなーと感心しつつ、長くてちょっと中だるみしました。

CWA賞受賞作。最後に明かされるそもそもの発砲事件の謎については、あとがき読むまで気づかなかった…orz

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しばらく投稿しない間に、HTMLのタグが見慣れないものになっていて、アキ行を入れる方法がわからないんだけど???

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