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2012年12月11日 (火)

ドイツの歴史ミステリ ~『首斬り人の娘』『濡れた魚』

北欧とドイツミステリの翻訳が多い昨今。他の国の続編待ちしているものの刊行が流れたり、後回しにされたりしていないかとちょと心配。
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『首斬り人の娘』オリヴァー・ペチェ著/猪股和夫訳
(ハヤカワ・ミステリ 2012年邦訳)

1659年。ドイツ南部の街ショーンガウで子供が殺された。遺体にあった奇妙なマークを見た住人たちは、魔女の仕業だと殺気立つ。そして産婆のマルタが魔女と疑われて投獄される。だが、処刑吏クィズルとその利発な娘マクダレーナは、彼女の無実を確信していた。マクダレーナに恋する医者ジーモンとともに、二人は事件の真相を探りはじめる。しかし、そこに第二の殺人が起きる。街の有力者たちがマルタの処刑を求めるなかクィズルらは真犯人を突き止めることができるのか…(裏表紙より)

Diehenkerstochter 処刑吏クィズル・シリーズ1作目とのこと。これは面白かった。ちょい軽めだけど、そのぶん歴史の知識に関係なく楽しめる話になっていて、終盤の盛り上がりもなかなかでした。

クィズルは屈強な大男。処刑吏(尋問での拷問も担当)であるとともに路上のごみ・汚物回収人でもある。この仕事は先祖代々受け継がれてきたもの。住人たちからは目も合わせないほど忌み嫌われているし、結婚相手は同じ処刑吏一族と決まっているなど、要するに被差別民ではあるけれど、一定の収入があるので暮らし向きは悪くない。さらに医術に詳しいため、薬草などをこっそり処方してもらっている住人も多い。

とまあ、弱きを助け強きを挫く正義の主人公としては申し分ないキャラ設定で、ストーリーや雰囲気はテレビの娯楽時代劇を思い出さずにいられない。ちゃきちゃきの娘っ子もいるし、お代官や悪徳商人、金さえもらえれば何でもやる流れ者集団もいるしね。

舞台になっているショーンガウは、ミュンヘンに近い小さな街で、16世紀終わりに大規模な魔女狩りが行われたことで知られる。17世紀当時の街の全景を描いた銅版画が差し込まれており、少なくとも設定は史実にのっとっているものと思われた。が、あとがきを読んでびっくり! なんと著者は、ドイツ各地で首斬りをなりわいとしてきたクィズル・ファミリーの末裔! ストーリーはまったくの創造だけど、主人公ヤーコプ・クィズルとその一家も実在した人物とか。
一族のルーツをここまでさかのぼれる資料が残っているのもすごいと思うが、それをもとに首斬り業という日陰の歴史にスポットを当てた小説を書き、世界各国で翻訳される人気シリーズになる。みごとな先祖孝行ですな~。

著者自身によるあとがきを読んだ後、あらためて本の扉の献辞を見返したら…なるほど、ちょっと感動。
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『濡れた魚』フォルカー・クッチャー著/酒寄進一訳
(創元推理文庫 2012年邦訳)

1929年、共産主義者のクーデターが噂される春のベルリン。ゲレオン・ラート警部が、わけあって故郷ケルンと殺人捜査官の職を離れ、ベルリン警視庁風紀課に身を置くようになってから、1カ月が経とうとしていた。彼の部屋の元住人を深夜に訪ねてきたロシア人が、無残な屍体となって発見された。殺人課への異動を望み、いつまでも風紀課にくすぶるつもりのないラートは、ひそかに事件の単独捜査を開始する。それが、さまざまな陰謀と罠が渦巻く巨大な事件の発端とは思いもせずに…(文庫扉より)

Dernassefisch 前にも書いたけど、ドイツといえば小説も映画もナチス政権とユダヤ人迫害の影響下にあるものばかりが目について、正直うんざりしていたのだが、これはヒトラー台頭の少し前、「黄金の20年代」を舞台としたもので、私にはほとんど未知の世界。それだけで好印象を持ってしまうのは、まがりなりにも翻訳小説好きだからかも?

なじみのない固有名詞には注釈が付いていて助かるけど、けっこう歯ごたえあったー。読み終えるまで時間かかった。さらにシリーズ作品の1作目とは知らず、主人公もやがて自滅するノワール系かなと想像して読んでいたので、ちょっとポイントを外した読み方をしてしまったかもしれない。
この時代の雰囲気と、硬軟織り交ぜたエピソードは面白いんだけど、もうひとつ引きつけられない。とりあえず次も読んでみるかな。この時代背景は興味あるので。

「濡れた魚」とは迷宮入り事件を表す隠語。ベルリン・ミステリ賞受賞作。

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記事アップするブラウザによってHTMLタグが変わってしまうらしいことが分かったわ。

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コメント

『首斬り人の娘』は作品全体が軽いエンターテイメント性の高い作品だったのが、僕の好みと合わなかったのかもしれません。
ポケミス新世代作家の作品は読みやすい本が多くて好きなレーベルなんですが、軽すぎることもあるのかなとも感じました。

これからもブログで感想を読ませてもらいますので、よろしくお願いします。

Cozyさん>
こんにちは。
よろしくお願いします。

ポケミス新世代作家ですか・・・確かに読みやすいのが続いていますね。
いままでのポケミスのイメージと違うので、ちょっとさみしくもあります。
個人的には歴史ものというオプション付きで、これはOKだけど、
「解錠師」は違うという感じです。

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