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2012年12月

2012年12月25日 (火)

「アガサ・クリスティばりだな」「まったくね!」~『サンタクロースは雪のなか』『喪失』『やし酒飲み』

『サンタクロースは雪のなか』アラン・ブラッドリー著/古賀弥生訳
(創元推理文庫 2012年邦訳)

クリスマスの季節、あたしはとっておきのサンタクロース捕獲計画を立てている。一方で父は、経済的困窮を打開するため、バックショー荘を映画撮影に貸し出すことにした。屋根修理基金を集めたい司祭がそれに便乗し、大女優に『ロミオとジュリエット』を演じてもらえることにもなった。けれど上演の夜、大雪で屋敷が孤立してしまい…(文庫カバーより)

Iamhalfsickofshadows はぅ~楽しかった! 最後はフレーヴィアと一緒に叫んだぜぃ!
化学実験(とりわけ毒物)が大好きな11歳の少女フレーヴィアのキャラクターが、個人的には4作目にしてようやくしっくりきた感じ。周りの大人や姉たちも魅力を増して……要するにこの小説の世界にすんなり入りこめるようになったということだけど、これこそシリーズ作品の醍醐味ってやつね。

化学知識だけは誰にも負けないフレーヴィアが、サンタクロースの存在は信じていて、姉たちにそれを実証するために、強力な鳥もちを開発して屋根の上の煙突に塗りつけ、サンタを生け捕りにしようとする。・・・おいおい、これのどこが「科学的な計画」なんだ? しかもサンタを捕まえたら、残りの子供たちはプレゼントをもらえなくなってしまうじゃないか。

てわけで、この底抜けの無邪気さ(たまにそそっかしい)がフレーヴィアの持ち味。しかし、事件となると、今度はその無邪気さを武器に大人を油断させるという名探偵ぶりを発揮。この作戦は、身近な人たちにはとうにバレてるらしいんだけど笑、そんなところが、大人たちの間をちょこまか走り回る姿とあいまってかわいらしくてたまらんです。

あと、負けず嫌いでもあるのね。映画の撮影隊や村人らでいっぱいの屋敷で死体が見つかり、シリーズでおなじみのヒューイット警部補が駆けつける場面。

「あたしたちは玄関広間をはさんで見つめ合った。別々の方角からやってきた二匹のオオカミが、羊でいっぱいの空き地で出会ったみたいに」

ここ、吹いたわ。フレーヴィアは本当は警部補が大好きみたいだけど、どうかこのままライバル関係を続けてくれ。

本作もほのぼのとするところ、しんみりするサイドストーリーもあって、ところどころで笑った。11歳の少女の目線で語られる物語だけど、さまざまな機微が盛り込まれているのが、またいいの。原題は"I am half-sick of shadows" 。テニスンの詩の有名な一節らしい(検索しまくった後に、扉に掲載されてるのに気づいた)。
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『喪失』モー・ヘイダー著/北野寿美枝訳
(ハヤカワ・ミステリ 2012年邦訳)

当初は単純な窃盗と思われたカージャック事件。だが強奪された車の後部座席に乗っていたはずの少女はいっこうに発見されない。捜査の指揮を執るキャフェリー警部の胸中に不安の雲が湧きだしたとき、今回とよく似た手口の事件が過去にも発生していたことが判明した。犯人の狙いは車ではなく、少女だったのか! 事件の様相は一変し、捜査に総力が注がれる。だが姿なき犯人は、焦燥にかられる警察に、そして被害者の家族に、次々と卑劣きわまる挑発を…(裏表紙より)


Gone 2012年度アメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞(エドガー賞)受賞。日本からはあの東野圭吾の『容疑者Xの献身』もノミネートされて話題になった回の受賞作だ。あの、と言いながら読んでいないけれど(映画はなんとなく見たけど)、すごく売れた「あの」を破っての受賞というのは、日本では強力な宣伝文句になるのか、ならないのか。たぶんならない気がする…。「あの」がアメリカで最も権威のあるミステリー小説賞にノミネートされたと聞いても、私は「あの」を読まなかったから。

これ、シリーズ作品の5作目だったのか…でも、それほど問題なく読めたと思う。警部がなぜたびたびホームレスと一緒に野宿するのかが不思議だったけれど。
内容は、現代ミステリーとしてはオーソドックスなものかな。真犯人が明かされていく展開とか、よくできていて面白かった。ただ、警察を欺く極めて頭のいい犯人という設定なのに、犯人が犯行を重ねた先にどういう結末をつける気でいたのかが明かされないまま終わったのは残念だったかも(私が見落としてたかな?)

著者は英国エセックス生まれの女性。最近読んだものの中では、アイルランドのタナ・フレンチとイメージがかぶる。
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『やし酒飲み』エイモス・チュツオーラ作/土屋哲訳
(岩波文庫)

「わたしは、十になった子供の頃から、やし酒飲みだった」――。やし酒を飲むことしか能のない男が、死んだ自分専属のやし酒造りの名人を呼び戻すため「死者の町」へと旅に出る。その途上で出会う、頭ガイ骨だけの紳士、幻の人質、親指から生まれた強力の子……。神話的想像力が豊かに息づく、アフリカ文学の最高傑作。(文庫カバーより)

Palmwinedrinkard_2 タイトルだけは知ってたよ!今年初めて文庫になったんで買った。
まず思ったのは私が昔からよく見る夢の内容にとてもよく似ているということだ。童話のようでもある。そしてユーモアもある。こんなに有名な文学作品がこんなに読みやすくって、楽しくていいのかしら?と思ったほどだ。アフリカらしさを感じるのは「やし酒」や「ジュジュ」といった言葉くらいだ。本が刊行された60年前は新鮮だったかもしれないものが、シュールな漫画をある程度かじってきた私には、どこか懐かしい気もする、なじみを感じさせる世界だ。

ところが、巻末の文芸評論みたいな解説を読むと、「恐怖」がベースにある物語と書いてあったり、アフリカ神話とのつながりが説明されていて、しばらくポカンとしました。

2012年12月11日 (火)

ドイツの歴史ミステリ ~『首斬り人の娘』『濡れた魚』

北欧とドイツミステリの翻訳が多い昨今。他の国の続編待ちしているものの刊行が流れたり、後回しにされたりしていないかとちょと心配。
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『首斬り人の娘』オリヴァー・ペチェ著/猪股和夫訳
(ハヤカワ・ミステリ 2012年邦訳)

1659年。ドイツ南部の街ショーンガウで子供が殺された。遺体にあった奇妙なマークを見た住人たちは、魔女の仕業だと殺気立つ。そして産婆のマルタが魔女と疑われて投獄される。だが、処刑吏クィズルとその利発な娘マクダレーナは、彼女の無実を確信していた。マクダレーナに恋する医者ジーモンとともに、二人は事件の真相を探りはじめる。しかし、そこに第二の殺人が起きる。街の有力者たちがマルタの処刑を求めるなかクィズルらは真犯人を突き止めることができるのか…(裏表紙より)

Diehenkerstochter 処刑吏クィズル・シリーズ1作目とのこと。これは面白かった。ちょい軽めだけど、そのぶん歴史の知識に関係なく楽しめる話になっていて、終盤の盛り上がりもなかなかでした。

クィズルは屈強な大男。処刑吏(尋問での拷問も担当)であるとともに路上のごみ・汚物回収人でもある。この仕事は先祖代々受け継がれてきたもの。住人たちからは目も合わせないほど忌み嫌われているし、結婚相手は同じ処刑吏一族と決まっているなど、要するに被差別民ではあるけれど、一定の収入があるので暮らし向きは悪くない。さらに医術に詳しいため、薬草などをこっそり処方してもらっている住人も多い。

とまあ、弱きを助け強きを挫く正義の主人公としては申し分ないキャラ設定で、ストーリーや雰囲気はテレビの娯楽時代劇を思い出さずにいられない。ちゃきちゃきの娘っ子もいるし、お代官や悪徳商人、金さえもらえれば何でもやる流れ者集団もいるしね。

舞台になっているショーンガウは、ミュンヘンに近い小さな街で、16世紀終わりに大規模な魔女狩りが行われたことで知られる。17世紀当時の街の全景を描いた銅版画が差し込まれており、少なくとも設定は史実にのっとっているものと思われた。が、あとがきを読んでびっくり! なんと著者は、ドイツ各地で首斬りをなりわいとしてきたクィズル・ファミリーの末裔! ストーリーはまったくの創造だけど、主人公ヤーコプ・クィズルとその一家も実在した人物とか。
一族のルーツをここまでさかのぼれる資料が残っているのもすごいと思うが、それをもとに首斬り業という日陰の歴史にスポットを当てた小説を書き、世界各国で翻訳される人気シリーズになる。みごとな先祖孝行ですな~。

著者自身によるあとがきを読んだ後、あらためて本の扉の献辞を見返したら…なるほど、ちょっと感動。
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『濡れた魚』フォルカー・クッチャー著/酒寄進一訳
(創元推理文庫 2012年邦訳)

1929年、共産主義者のクーデターが噂される春のベルリン。ゲレオン・ラート警部が、わけあって故郷ケルンと殺人捜査官の職を離れ、ベルリン警視庁風紀課に身を置くようになってから、1カ月が経とうとしていた。彼の部屋の元住人を深夜に訪ねてきたロシア人が、無残な屍体となって発見された。殺人課への異動を望み、いつまでも風紀課にくすぶるつもりのないラートは、ひそかに事件の単独捜査を開始する。それが、さまざまな陰謀と罠が渦巻く巨大な事件の発端とは思いもせずに…(文庫扉より)

Dernassefisch 前にも書いたけど、ドイツといえば小説も映画もナチス政権とユダヤ人迫害の影響下にあるものばかりが目について、正直うんざりしていたのだが、これはヒトラー台頭の少し前、「黄金の20年代」を舞台としたもので、私にはほとんど未知の世界。それだけで好印象を持ってしまうのは、まがりなりにも翻訳小説好きだからかも?

なじみのない固有名詞には注釈が付いていて助かるけど、けっこう歯ごたえあったー。読み終えるまで時間かかった。さらにシリーズ作品の1作目とは知らず、主人公もやがて自滅するノワール系かなと想像して読んでいたので、ちょっとポイントを外した読み方をしてしまったかもしれない。
この時代の雰囲気と、硬軟織り交ぜたエピソードは面白いんだけど、もうひとつ引きつけられない。とりあえず次も読んでみるかな。この時代背景は興味あるので。

「濡れた魚」とは迷宮入り事件を表す隠語。ベルリン・ミステリ賞受賞作。

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記事アップするブラウザによってHTMLタグが変わってしまうらしいことが分かったわ。

2012年12月 9日 (日)

マンケルらしい犯人像 ~『ファイアーウォール』ほか

ひえ~2カ月ぶりの更新。ずぼらすぎて落ち込む。

『ファイアーウォール』ヘニング・マンケル著/柳沢由実子訳

(創元推理文庫 2012年邦訳)

19歳と14歳の少女がタクシー運転手を刺殺する事件が発生。逮捕された少女たちは金ほしさの犯行だと自供するが、ヴァランダーはその動機が理解できない。次に、一人暮らしのITコンサルタントの男が深夜にATMの前で死んでいるとの通報を受ける。検死の結果は病死だった。ところが、警察の失態から逮捕されていた少女が逃亡、単なる病死だったはずの男の死体が盗まれるという事態になり、2つの事件の関連性が疑われはじめる…。

Brandvagg ヴァランダー警部シリーズ8作目は、5作目の個人的傑作『目くらましの道』の壮大なネタバレから幕を開ける。順番に読んでおかないと損です。なんてね。

過去に手がけた事件で抱いた思いが澱のようにたまり、何かあるたびにその澱が再び舞い上がってくる。ヴァランダーは今日もくたびれています、人生に。というより、理解できないことが多すぎるこの世の中に。と言ったほうが正しいかな。で、独り身のさびしさがますます身にしみるようになった警部は、新聞の出会い欄に投稿するという、らしからぬことをするわけで…。毎度、警部自らがうっかりをやらかしていたというか、気づかずに犯人を刺激していたという伏線の設け方がうまいです。

タイトルのまんま、本作はITセキュリティとそれに依存する社会の脆さが題材に。実は原作が出版されたのは1998年。順調に翻訳されているシリーズ作品だが、依然14年ものタイムラグがある。1998年というと日本では郵便番号が7桁になり、長野オリンピックが開催され、和歌山毒物カレー事件が起きた年と、ずいぶん前のことに感じる。ましてや日進月歩のITが題材では割を食う部分もあるのでは?と思ったが、そうでもなかったかな。強く印象に残るのは犯人像のほうで、ひどく歪んだ考えの持ち主であることは確かだが、犯罪の動機については著者自身も大いに思うところがありそうな、いかにもマンケルらしいものだった。

この警察小説シリーズはスウェーデンの田舎町が舞台で、ヴァランダー警部が国から出ることも珍しいのだけど、必ずグローバルな視点を入れてくる。毎回扱う事件が国内だけで閉じていないのがユニークだなと改めて思う。

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『新生の街』SJ・ローザン著/直良和美訳

(創元推理文庫 2000年邦訳)

新進デザイナーの春物コレクションのスケッチが盗まれた。次いで5万ドルの現金の要求。身の代金受け渡しの仕事を持ち込まれた探偵リディアは、相棒ビルを援軍に指定の場所に赴いたが、不意の銃撃をへて金は消える。汚名返上のため、ファッション界に真相を探ろうとするリディアとビルだったが(文庫カバーより) 

Mandarinplaid ニューヨークはチャイナタウンに暮らす小柄な中国系女性リディアと、大柄な中年の白人男性ビルという凸凹探偵コンビが活躍するシリーズ3作目。本作の主人公はリディアだが、物怖じしない大胆な行動を見せ、1作目で感じた、探偵なのにあまりにも普通の女の子という物足りなさが払拭されました。うん、面白い! 次も読む。

現在のニューヨークが舞台の、いわゆるご当地ミステリシリーズって、実はそれほど多くはないのではないかな。私が読んでいないだけか?

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『8(エイト)』キャサリン・ネヴィル著/村松潔訳

(文春文庫 1998年邦訳)

革命の嵐吹きすさぶ18世紀末のフランス。存亡の危機にたつ修道院では、宇宙を動かすほどの力を秘めているという伝説のチェス・セット「モングラン・サーヴィス」を守るため、修道女たちが駒を手に旅にでた。世界じゅうに散逸した駒を求め、時を超えた壮絶な争奪戦が繰り広げられる。壮大かつスリリングな冒険ファンタジー…(文庫カバーより)

Eight フランス革命時に秘密を抱えてヨーロッパ各地に身を潜めることになった修道女たちと、1972年にOPECのコンピュータシステム担当としてアルジェリアに派遣されることになった若きアメリカ人女性が主人公。

歴史上の有名人物がわんさか登場したり、砂漠であやうく行き倒れになりそうになる文字通りの冒険パートは面白い! しかし、歴史やチェスや数学などの知識がないとついていけないと感じるところがある一方で、知っていたら知っていたで相当に都合良く強引だなと感じる部分もあり、どうも集中して読めなかった。ラストは壮大な設定のわりには、ごく狭い範囲で決着がつくしなあ…。それも星のさだめだからと言われればそれまでだが。

あと、才色兼備な主人公とハンサムでミステリアスな男によるハーレクインロマンス的な雰囲気を盛り込まれるとそれだけで、ああアメリカのエンタメ小説だよなと思って、こういうのが近頃ではすっかり苦手なものになっていることが判明。著者の華々しい経歴を見てさらに一歩引いてしまった自分がいる笑

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『引き攣る肉』ルース・レンデル著/小尾芙佐訳

(角川文庫 1988年邦訳)

ヴィクターには或る恐怖症があった。14年の刑期を終えて出所した今、彼はその恐怖の因となるものをいずれ目にすることを予測していた。彼のもう一つの関心は、フリートウッドという元刑事のことだった。ヴィクターは女を襲って追われる途中、フリートウッドを銃で撃ち、逮捕されたのだ。彼は半身不髄となったが、クレアという恋人と幸福に暮しているという。不思議な運命の糸に操られたかのように、ヴィクターは彼らと出会った。クレアを含む3人の間に生じた、奇妙で危険な関係…(文庫カバーより)

Liveflesh レンデル読むのも7作目です。これは犯罪者の視点で描かれるノンシリーズのサスペンス。

ヴィクターには逮捕されるきっかけとなった事件以外にも、衝動的な犯罪癖あり。しかし、刑期を終えて出所してからは、なんとかセーブして社会に順応しようとしている。傷つきやすい子供のようなところがあり、少し同情を覚えなくもないのだ。ところが被害者との再会を考えだすあたりから、少しずつ心情と行動に奇異なものが混じり始める。

人間心理の正常と異常の紙一重なところをじわじわとページ数を割いて掘り下げ描いていくあたり、さすがレンデルだよねー、うまいなー、徹底して神目線の意地悪さだよなーと感心しつつ、長くてちょっと中だるみしました。

CWA賞受賞作。最後に明かされるそもそもの発砲事件の謎については、あとがき読むまで気づかなかった…orz

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しばらく投稿しない間に、HTMLのタグが見慣れないものになっていて、アキ行を入れる方法がわからないんだけど???

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