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2012年10月

2012年10月14日 (日)

騙し騙されてインド 〜『6人の容疑者』『シューティング・スター』ほか

『6人の容疑者』ヴィカース・スワループ著/子安亜弥訳
(RHブックス・プラス 2010年邦訳)

悪名高い若き実業家ヴィッキー・ラーイがパーティの席で射殺された。何度も悪行をとがめられながら、州内務大臣の父親の威光と金の力で難を逃れてきた男だった。容疑者は会場に居合わせた6人。人気女優、大物政治家、元高級官僚、泥棒、部族民、アメリカ人旅行者――それぞれに動機があり、しかも全員が拳銃を隠し持っていた。境遇も地位もまったくバラバラの彼らを殺人現場に引き寄せたものは何だったのか? 6つの数奇な人生の物語が今明かされていく…(文庫カバーより)

Sixsuspects 映画「スラムドッグ$ミリオネア」 の原作『ぼくと1ルピーの神様』の作者の2作目。犯人は誰だ?というミステリ小説の形式を頂きつつ、内容はまったく異なる境遇にある6人の容疑者の、そこに至る物語を通して、現代インド社会を風刺を込めてさまざまな視点から描いた群像劇といったところ。

印象に残るのは、文通で知り合ったインド人女性と結婚式を挙げにインドまでやってきたアメリカ人男性の話と、盗まれた村の宝を取り戻しにアンダマン諸島からやってきた絶滅危機にある部族の青年の話。どっちも冒険譚になっており、どっちもさんざん騙されまくるのだけど、味わいは異なる。アメリカ人のほうはおとぼけ具合に笑わせられるし、部族の青年の話はうるうるせずにいられない。
あと、お金を騙し取られる話がやたら多いのだけど、インドが舞台だからか、それで絶望感に満たされるとか、まったくそんな気になってこないのが不思議なところ。

しかし、あのラストの死はなあ…。そこまで辛辣にすることないじゃんと思ったけど。入れ子式のような凝った構成になっているのはわかるけど、ストンとは腑に落ちない。でも面白かったよ。


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『シューティング・スター』ピーター・テンプル著/圭初幸恵訳
(柏艪舎 2012年邦訳)

かつて軍人、警官と二つの職業を経験し、心に深い闇を抱えたフランク・コールダーは、現在交渉人を生業としている。命の危険にさらされることも少なくない、不安定極まりない仕事である。そんな彼に、経済界を牛耳るカーソン一族の長パット・カーソンから突然の依頼が入る。パットの曾孫が誘拐され、犯人に身代金を届けてほしいというのだ。警察に助けを求めず、自分に頼む理由は何なのか、疑問を胸にフランクはカーソン一家の住む屋敷に向かった…(単行本カバーより)

Shootingstar 『壊れた海辺』で英国推理作家協会最優秀長編賞(2007年)を受賞したオーストラリアの作家の邦訳2作目。作品順はこっちのほうが先に書かれたもので、オーストラリア推理作家協会最優秀長編賞(2000年)を受賞している。

ハードボイルド小説で、雰囲気としては“オーストラリアのマイクル・コナリー”という感じなのだけど、その作品よりも乾いた印象を受けるのは、この作家独特の語り口にあるかな。『壊れた海辺』もそうだったけど、余計な説明がなく、読者が物語の展開を予想して楽しむといった遊び要素に乏しい。とてもぶっきらぼうなので、作家のイメージも無骨で不器用なオーストラリア男そのものなのだ(実際にオーストラリア男がそうなのかは知らない)。
人物紹介も淡々としていて、のちにとても重要となる要素を見落としがち。要するにミステリの作風ではない。なので、最後に明かされるある真実が突拍子もなかった。ここまで入り組んだ話だったのか!なんて虚しい死!と気づくが、その真実すら改めてじっくり説明されることがない。主人公はすべてを心得ているらしいが、いまいち共感しかねる。なにかとても惜しい。でも、あとでじわじわくる小説ではあった。『壊れた海辺』のほうが余韻も含めて好きだけどね。


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『チューダー王朝弁護士シャードレイク』C・J・サンソム著/越前敏弥訳
(集英社文庫 2012年邦訳)

16世紀イングランド。国王ヘンリー8世の摂政クロムウェルの命により、弁護士シャードレイクはスカーンシアの修道院で起きた殺人事件の真相究明に向かう。彼を待ち受けていたのは曲者ぞろいの修道士や修道院の暗い秘密――。自身を追い詰める劣等感と戦いつつ奔走する彼だったが、やがて自らの信念を揺るがす衝撃の事実が明らかになる…(文庫カバーより)

Dissolution 歴史上でこのヘンリー8世の時代が本国では人気が高いということなのだろうけど、イギリスで大ベストセラーになっているという歴史ミステリ、マシュー・シャードレイク・シリーズの第1弾。

主人公のシャードレイクは、幼少時から背骨が曲がってしまう病気に苦しんできた亀背の小男。そのコンプレックスは、結婚を申し込んだ女性にふられた過去と相まって、中年になっても薄れることなく、女性と浮名を流す若い助手マークへの嫉妬を抑えることが難しい。また、忠誠を誓ってきたクロムウェルがアン・ブーリン王妃処刑にどう関わっていたかを知るに及び大いに動揺するなど、かなり人間臭く描かれているところが面白い。

イギリスの宗教改革で、腐敗もひどかったローマ・カトリック修道院がどのように解体させられたかもよく分かる。後世の第三者からしたら、歴史遺産がこんなふうに失われたのは少し残念な気がする。


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『毒杯の囀り』ポール・ドハティー著/古賀弥生訳
(創元推理文庫 2006年訳)

1377年、ロンドン。老王エドワード三世の崩御と、まだ幼いリチャード二世の即位により、政情に不穏な気配が漂うさなか、王侯相手の金貸しも営む貿易商のトーマス・スプリンガル卿が自室で毒殺される。下手人と目される執事は、屋敷裏で縊死していた。トーマス卿の部屋の外は、人が通れば必ず“歌う”、通称〈小夜鳴鳥の廊下〉。この廊下を歩いた者は、執事ただひとりなのだが…(文庫扉より)

Nightingalegallery 人気の歴史ミステリ作家による、アセルスタン修道士シリーズの第1作目。貧しい地区の教会に派遣させられ修行を積んでいる若き修道士アセルスタンは、殺人事件などがあると、巨漢で酒好きの検死官クランストンにその都度呼び出されて、書記役を務めさせられる。要するにコンビものなのだけど、この1作を読む限り、推理を働かせて事件を解明するのは書記のアセルスタンのほう。

密室殺人があり、最後に関係者全員を集めて種明かしが行われるという様式のミステリはそれほど興味がないし、題材もあまり面白くなかった。歴史ミステリの読み応えでは上記のシャードレイクのほうがはるかにあるし。でも、最終章を読んで、アセルスタンと貧しい教会区民との関係にちょっとほろりさせられて、このシリーズにはこのシリーズの良さがあると感じた。他のも読んでみるかどうか悩ましい。

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