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2012年8月26日 (日)

残されていた謎のメッセージ 〜『深い疵』『湿地』ほか

『深い疵』ネレ・ノイハウス著/酒寄進一訳
(創元推理文庫 2012年邦訳)

ホロコーストを生き残り、アメリカ大統領顧問をつとめた著名なユダヤ人が射殺された。凶器は第二次大戦期の拳銃で、現場には「16145」の数字が残されていた。司法解剖の結果、被害者がナチスの武装親衛隊員だったという驚愕の事実が判明する。そして第二、第三の殺人が発生。被害者の過去を探り、犯罪に及んだのは何者なのか…(文庫カバーより)

Tiefewunden_2 ドイツで人気の警察小説シリーズ3作目にして初邦訳。フランクフルト郊外のホーフハイム署の警部オリヴァーとピアのコンビが主人公。なんとなくヘニング・マンケルのヴァランダー警部シリーズを思わせる。女性警部ピアの描き方は、いかにも女性作家で、そこのところが違うけれど。
連続殺人事件の真相が、上記あらすじからほとんど読み取れることを、読み終わった後になって気づいた。読んでいるときは、そんな単純なストーリーという感じはまったくしなかった。地元の名士一族の秘められたスキャンダルを暴いていく趣向もあって、読ませます。(途中まで、ピアの恋人クリストフがものわかり良すぎて、絶対怪しいと思っていたのは内緒です笑)

日本で紹介されるドイツの小説や映画は、いまだユダヤ人やホロコースト関係のものが多いけれど、この小説に登場する人物たちの年齢を見ると、現代もので当事者が生きたまま登場するのはもう限界になっていると改めて感じる。日本の戦後という題材も同様ですね。


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『湿地』アーナルデュル・インドリダソン著/柳沢由実子訳
(東京創元社 2012年邦訳)

雨交じりの風が吹く、10月のレイキャヴィク。北の湿地にあるアパートで、老人の死体が発見された。被害者によって招き入れられた何者かが、突発的に殺害し、そのまま逃走したものと思われた。ずさんで不器用、典型的なアイスランドの殺人。だが、現場に残された3つの単語からなるメッセージが事件の様相を変えた。計画的な殺人なのか? しだいに明らかになる被害者の老人の隠された過去…(書籍カバーより)

Myrin_2 こちらはアイスランドの警察小説、エーレンデュル捜査官シリーズ初邦訳。この3作目と4作目、2年続けてスカンジナヴィア推理作家協会の「ガラスの鍵」賞を受賞。シリーズは現在11作まであり、世界40カ国で出版されているというから、東京創元社も力を入れているということかしら。実は、文庫本と思ってネットで注文して、ソフトカバーとはいえ単行本が届いたときはちょっとショックだったのだが…。
同じ時期に出た上記の『深い疵』(一人暮らしの老人が殺され、謎のメッセージが残されているという冒頭が同じ!)が文庫なのに、こっちを単行本にした理由は何だ?と、探りながらの読書となったが、犯人が老人殺しに至った経緯が明かされる終盤になってようやく納得。なるほどこれは、現在のアイスランドを舞台にしか描けない内容だ。

少々ネタバレしてしまうと、単一民族で人口が少ないというアイスランドの特殊性を利用して、現在、国の支援のもとで進められているあるプロジェクトがかかわってくるのだが、このプロジェクトの内容が不気味さをプラス。調べたらアメリカの民間研究所と世界的製薬会社が主導していると分かる。役に立つ研究だろうけど、自分がアイスランド人だったらモルモットにされている気分になると思う。

あとがきによると著者は「殺人者が最悪の犯罪者であることはめったにない」というスタンスで小説を書いているそう。この小説も、犯人が抱え込むことになった二重三重の悲しみにあぜんとするばかりだ。こんなところも単行本でも売れると判断した理由でしょうか。エンタメ度では『深い疵』のほうが上と感じたけども。


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『回想のブライズヘッド』イーヴリン・ウォー著/小野寺健訳
(岩波文庫 2009年)

第二次大戦中、物語の語り手ライダーの連隊はブライズヘッドという広大な邸宅の敷地に駐屯する。「ここは前に来たことがある」。この侯爵邸の次男で大学時代の友セバスチアンをめぐる、華麗で、しかし精神的苦悩に満ちた青春の回想のドラマが始まる…(文庫カバーより)


Brudeshead_2 ブラックユーモア系のやつを若い頃に2冊ほど読んだことのあるイーヴリン・ウォー。この本は、何かの名著100選に選ばれているのを見て購入してしばらく積んでいたが、先月読んだケイト・モートン『リヴァトン館』に影響を与えた1冊というので思い出してようやく読む。
なるほど~、設定がよく似ている。人物相関図を描いたらそっくりになりそう。その上で、『ブライズヘッド』は令嬢の愛人だった男の目線で語られる物語なのを、『リヴァトン館』では侍女だった女性の目線に置き換えてる感じ。『リヴァトン館』のほうがドラマチックな仕立て。こっちは、改宗によって崩壊していく家族を描き、ベースとなるテーマも結末もまったく別ものだけれど。

本国で2度、映像化されているらしいけど、邦題が『華麗なる貴族』(1981年)と『情愛と友情』(2008年)って…。そんなタイトルじゃ覚えられないっしょ。


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