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2012年8月

2012年8月26日 (日)

容疑者が見当たらない 〜『ダークサイド』『The 500』『悲しきバイオリン』ほか

『ダークサイド』ベリンダ・バウアー著/杉本葉子訳
(小学館文庫 2012年邦訳)

ロンドンから遥か西へ300キロ、エクスムーア国立公園にある寒村シップコットで寝たきりの老女が殺害された。村で唯一の巡査ジョーナスは、州都から来た刑事の指揮下、犯人を追う。迷走する捜査のなか、彼は「それでも警察か?」という挑発的なメモを受け取る。近くであざ笑う犯人の影に怯えるも手がかりのないままさらなる殺人事件が起きる。そして最愛の妻にも魔の手が伸びた時、ついにジョーナスは驚愕の真犯人を捉えた…(文庫カバーより)

Darkside デビュー作『ブラックランズ』を読み、楽しみにしていた著者の2作目。
このところ読むものに田舎の巡査を主人公としたミステリ小説が多くて、これもその種のオーソドックスなやつかと思っていたら、違ったー! こういう手法はたまにあるし、途中で何かおかしいと気づきもするけど、確かに驚愕のラストだわ、めちゃくちゃ力技(笑) ん、しかし、顧みるに、介護を要する者ばかりが殺される理由はもちろん、どうして主人公ジョーナスはこうまで❍❍❍なのかとイライラさせられたことも、結末と符合している。となると、それほどむりやりな展開ではないのかな?

ジョーナスの子供時代の辛い過去、ジョーナスの妻が患っている難病、あまりに部下いじめがひどい州都警察の警部など、シリアスな要素が多くて気づきにくいが、実はこれ、基本はホラー小説で、それも映画でいうB級テイストを意識して書かれた小説なのではないか(小説の中にもいろいろなホラー映画作品の名前が登場)。そう思うと、登場人物たちの奇っ怪な行動も終盤の怒涛の展開もかなり映画的だし、その手のホラー映画と同じユーモアを感じ取ることもできる。賛否あるかもしれないが、不思議な味わいの小説。嫌いじゃないわ。


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『The 500(ザ・ファイブ・ハンドレッド)』マシュー・クワーク著/田村義進訳
(ハヤカワ・ミステリ 2012年邦訳)

ワシントンDCで最高のロビイストであるデイヴィス・グループ。そのカリスマ的総帥が、服役中の父をもつ貧乏学生のわたしをスカウトしたのは、犯罪社会で成長し軍隊でも訓練を受けた、わたしの現実世界での経験を買ったからだ。世界を動かす人々を意のままに操ろうというロビイスト活動は、綺麗事だけでは通用しないのだ。すぐに頭角を現したわたしは、高額の報酬、華麗な社交生活、そして夢の恋人までを手にするが、その行く手には意外な陥穽が…(裏表紙より)

The500 The 500とは首都ワシントンを動かしている権力者500人のこと。表向きコンサルティング会社を名乗るデイヴィス・グループは、彼らの秘密や弱点を探りだして支配し、自在に動かすことで、巨額の利益を得ている。金儲け以外の信念は持たない人たちなので、やっていることは限りなく黒に近いグレー。

要するに、「意外な落し穴があった」と主人公が本当に感じたとしたら、どれだけ初心(うぶ)なのよって話なのだけど、しかし、そんなおおらかさ、事の顛末の単純明快さも含めてアメリカらしいサスペンス小説だった。正直、もうちょっと小説の深みとか、現実のアメリカのロビイストたちの活動について詳しく書かれていることを期待しなくはなかったんだけど…。

20世紀フォックス社が高額で映画化権を取得だって。わ〜いかにも!


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『モンタルバーノ警部 悲しきバイオリン』アンドレア・カミッレーリ著/千種堅訳
(ハルキ文庫 1999年邦訳)

舞台はシチリア。頑固で女好き、孤高のインテリ中年警部モンタルバーノは、ひょんなことから、人妻惨殺事件の第一発見者となってしまう。捜査を進めるうちに浮かんでくる被害者の意外な素顔、さらに警部を追い落とそうとする署内部の陰謀が絡み、事件は混迷の色を深めていく。そして遂に、警部は捨て身の反撃を決意する…(文庫カバーより)

Lavocedelviolino イタリアで爆発的に売れたモンタルバーノ警部シリーズは18作まであるらしいけど、日本で翻訳されているのは2冊のみ。そして、これはそのシリーズ4作目。ユーモアを散りばめた警察小説で、全体を通してスケベでグルメなところはイメージするイタリアのまんまだー! マフィアは登場しません笑 シチリアだけど。

薄めの本の割に登場人物が多くて、名前とキャラクターを把握するのに若干苦労。シリーズ1巻目から読んでいればそんなことはなかったと思うが。


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『世界を支配する秘密結社 イルミナティの知られざる真実!』有澤玲
(5次元文庫 2009年)

秘密結社イルミナティっていったい何だ? その誕生から壊滅、“発展”まで徹底解明。歴史上確かに存在した“現実”のイルミナティは、どのように憶測や伝説が加わって“虚構”の存在へと変化したのか。現代でもなお根強く残る都市伝説「秘密結社が世界支配を目指している」という陰謀のカラクリも分かってきます。かつてなかった決定的イルミナティ論です…(文庫カバーより)

Illuminati イルミナティ、フリーメイソン、ユダヤ人、薔薇十字団、テンプル騎士団、アサシン派、グノーシス主義などなど、ネット上で目に付く欧米発の陰謀論。眉にツバつけながら接しても、面白いからつい読んでしまうんだよね。背景には世界的な貧富の差の拡大があるんだろうけども、最近の日本においても震災・原発事故とかTPP問題とか、社会的な不安が広がると、これら古くて新しい陰謀論との関連付けが行われて勢力を増してくる。私も場合によっては面白半分で信じてしまうクチなんだけどさ。

この本は、これら陰謀論の歴史をさかのぼり、その出どころとなった文献や出来事などを取り上げて、論破していくとともに、各時代における陰謀論の変遷もまじめに紹介している本で、おどろおどろしい表紙・タイトルから想像される内容とは正反対になっているのが面白い。意外と単純な誤解や捏造から始まったんだな〜と分かる。ざっと知っていて損はない感じ。
陰謀論者にしてみたら、このタイトルと内容のギャップこそが、陰謀を隠すための陰謀だと言うのかもしれませんが。

残されていた謎のメッセージ 〜『深い疵』『湿地』ほか

『深い疵』ネレ・ノイハウス著/酒寄進一訳
(創元推理文庫 2012年邦訳)

ホロコーストを生き残り、アメリカ大統領顧問をつとめた著名なユダヤ人が射殺された。凶器は第二次大戦期の拳銃で、現場には「16145」の数字が残されていた。司法解剖の結果、被害者がナチスの武装親衛隊員だったという驚愕の事実が判明する。そして第二、第三の殺人が発生。被害者の過去を探り、犯罪に及んだのは何者なのか…(文庫カバーより)

Tiefewunden_2 ドイツで人気の警察小説シリーズ3作目にして初邦訳。フランクフルト郊外のホーフハイム署の警部オリヴァーとピアのコンビが主人公。なんとなくヘニング・マンケルのヴァランダー警部シリーズを思わせる。女性警部ピアの描き方は、いかにも女性作家で、そこのところが違うけれど。
連続殺人事件の真相が、上記あらすじからほとんど読み取れることを、読み終わった後になって気づいた。読んでいるときは、そんな単純なストーリーという感じはまったくしなかった。地元の名士一族の秘められたスキャンダルを暴いていく趣向もあって、読ませます。(途中まで、ピアの恋人クリストフがものわかり良すぎて、絶対怪しいと思っていたのは内緒です笑)

日本で紹介されるドイツの小説や映画は、いまだユダヤ人やホロコースト関係のものが多いけれど、この小説に登場する人物たちの年齢を見ると、現代もので当事者が生きたまま登場するのはもう限界になっていると改めて感じる。日本の戦後という題材も同様ですね。


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『湿地』アーナルデュル・インドリダソン著/柳沢由実子訳
(東京創元社 2012年邦訳)

雨交じりの風が吹く、10月のレイキャヴィク。北の湿地にあるアパートで、老人の死体が発見された。被害者によって招き入れられた何者かが、突発的に殺害し、そのまま逃走したものと思われた。ずさんで不器用、典型的なアイスランドの殺人。だが、現場に残された3つの単語からなるメッセージが事件の様相を変えた。計画的な殺人なのか? しだいに明らかになる被害者の老人の隠された過去…(書籍カバーより)

Myrin_2 こちらはアイスランドの警察小説、エーレンデュル捜査官シリーズ初邦訳。この3作目と4作目、2年続けてスカンジナヴィア推理作家協会の「ガラスの鍵」賞を受賞。シリーズは現在11作まであり、世界40カ国で出版されているというから、東京創元社も力を入れているということかしら。実は、文庫本と思ってネットで注文して、ソフトカバーとはいえ単行本が届いたときはちょっとショックだったのだが…。
同じ時期に出た上記の『深い疵』(一人暮らしの老人が殺され、謎のメッセージが残されているという冒頭が同じ!)が文庫なのに、こっちを単行本にした理由は何だ?と、探りながらの読書となったが、犯人が老人殺しに至った経緯が明かされる終盤になってようやく納得。なるほどこれは、現在のアイスランドを舞台にしか描けない内容だ。

少々ネタバレしてしまうと、単一民族で人口が少ないというアイスランドの特殊性を利用して、現在、国の支援のもとで進められているあるプロジェクトがかかわってくるのだが、このプロジェクトの内容が不気味さをプラス。調べたらアメリカの民間研究所と世界的製薬会社が主導していると分かる。役に立つ研究だろうけど、自分がアイスランド人だったらモルモットにされている気分になると思う。

あとがきによると著者は「殺人者が最悪の犯罪者であることはめったにない」というスタンスで小説を書いているそう。この小説も、犯人が抱え込むことになった二重三重の悲しみにあぜんとするばかりだ。こんなところも単行本でも売れると判断した理由でしょうか。エンタメ度では『深い疵』のほうが上と感じたけども。


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『回想のブライズヘッド』イーヴリン・ウォー著/小野寺健訳
(岩波文庫 2009年)

第二次大戦中、物語の語り手ライダーの連隊はブライズヘッドという広大な邸宅の敷地に駐屯する。「ここは前に来たことがある」。この侯爵邸の次男で大学時代の友セバスチアンをめぐる、華麗で、しかし精神的苦悩に満ちた青春の回想のドラマが始まる…(文庫カバーより)


Brudeshead_2 ブラックユーモア系のやつを若い頃に2冊ほど読んだことのあるイーヴリン・ウォー。この本は、何かの名著100選に選ばれているのを見て購入してしばらく積んでいたが、先月読んだケイト・モートン『リヴァトン館』に影響を与えた1冊というので思い出してようやく読む。
なるほど~、設定がよく似ている。人物相関図を描いたらそっくりになりそう。その上で、『ブライズヘッド』は令嬢の愛人だった男の目線で語られる物語なのを、『リヴァトン館』では侍女だった女性の目線に置き換えてる感じ。『リヴァトン館』のほうがドラマチックな仕立て。こっちは、改宗によって崩壊していく家族を描き、ベースとなるテーマも結末もまったく別ものだけれど。

本国で2度、映像化されているらしいけど、邦題が『華麗なる貴族』(1981年)と『情愛と友情』(2008年)って…。そんなタイトルじゃ覚えられないっしょ。


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