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2012年7月

2012年7月16日 (月)

「おれは犬はちっとも好きじゃない」〜『晩夏の犬』『特捜部Q―Pからのメッセージ―』〜

『晩夏の犬』コナー・フィッツジェラルド著/加賀山卓朗訳
(ヴィレッジブックス 2012年邦訳)

猛暑のローマで、男がめった刺しにされ殺された。被害者は動物愛護の活動家で、闘犬ビジネスの摘発に関わり、マフィアの恨みを買ったと思われた。捜査を率いるローマ警察の警視ブルームはプロにしてはどこか稚拙な手口に違和感をおぼえるが、被害者が現役国会議員の夫で、大物マフィアの娘とも愛人関係にあったことから、否応なく早期解決を迫られる。そんななか捜査線上に一人の男が浮上し、時を置かず捜査チームのメンバーが殺される。やがて明かされる事件の異常な動機と、加速する死の連鎖――ブルームは犯人を追いイタリアの街を疾走するが…。(文庫カバーより)

Dogsofrome ローマ警察の警視ブルーム・シリーズ第1弾。といっても、著者はイタリア在住のイギリス人で、主人公ブルームはアメリカ人。子供の頃に両親とイタリアに滞在中に銀行強盗に巻き込まれ、両親は亡くなり、孤児になったブルームはそのままローマに住み着いたという設定。警察の中でも異色の存在だし、街の大物マフィアに歯向かえば「この古代都市、地球上で最も偉大な首都の運営方法をわしに教えようというのか? さっさと祖国に帰って勉強し直すがいい」といなされる。

600ページ以上の長編。最初は犯罪現場など一つのシーンの描写がくどすぎて、面白みに乏しいんじゃないかと危惧したが、いや、これは侮れない。読み終わるころには小説の世界にはまっていた。
第一に孤高の警視ブルームに嫌味がない。思いついたのがイアン・ランキンのリーバス警部。…というか、キャラクターがだいぶ被る。著者は絶対にあのシリーズを意識してるでしょ? マフィアのボスであるインノチェンツィの存在は、リーバス警部シリーズのビッグ・ジェル・カファティを思わせるし。あっちのシリーズが終了した今、こっちを楽しみにしたくなる。

あ、ちなみにブルームは犬嫌いだが、猫は眼中にもないとか(笑

殺人犯は、特に目新しいタイプではないが、死に際が印象に残った。本当にこんなことを考えながら死んでいくものなのかもしれないね。


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『特捜部Q ―Pからのメッセージ―』ユッシ・エーズラ・オールスン著/吉田薫・福原美穂子訳
(ハヤカワ・ミステリ 2012年邦訳)

「特捜部Q」―未解決事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の新部署である。今回「Q」のカール・マーク警部補と奇人アサドのコンビが挑むのは、海辺に流れ着いたボトルメールの謎。ボトルから取り出された手紙には「助けて」との悲痛な叫びが。書き手の名前の頭文字はP。だが手紙の損傷が激しく、内容の完全な解読は難航した。Pはどうやら誘拐されたようだが、過去の記録に該当する事件は見当たらない…。(裏表紙より)

Flaskepostfrap シリーズ3作目も楽しい!おもしろーい!!! 北欧のミステリ賞「ガラスの賞」受賞作とのことだが、この3作目がいちばん完成度が高い気はする。たぶん誰が読んでも楽しめそうという点でいうと、R・D・ウィングフィールドのフロスト警部シリーズに匹敵するのではないかしら?

新興宗教にまつわる犯罪というのは、北欧ミステリーの得意分野なのかな。そんなイメージ。本作では、両親の信教により狂わされた男が、同じような熱心な新興宗教の信者一家を破滅させていく。
犯人は十数年も前から同じ犯罪を繰り返しており、その最新の犯罪のリアルタイムなストーリーと、ボトルメールを手がかりとする警察の過去をさかのぼっての捜査が並行して描かれ、サスペンスフル。果たしてカールたちは犯人を突き止め、現在進行中の犯罪を食い止めることができるのか。古い未解決事件を追っているのに、最後は時間勝負になるのは1作目の「檻の中の女」と同じだ。

シリア人とされるアサドの正体は依然として明かされないが、警部補のもう一人の部下ローセまでがこんな秘密を抱えていたとは。次作も楽しみです。

70年代のラオスが舞台のミステリー「シリ先生シリーズ」ほか

『老検死官シリ先生がゆく』コリン・コッタリル著/雨沢泰訳
(ヴィレッジブックス 2008年邦訳)

シリ・パイプーン、72歳。みごとな白髪に透き通るような緑の目をした老人だが、ただの年寄りではない。ラオス国内で唯一の検死官だ。引退して年金生活を楽しもうと思った矢先に任命され、やむなく勤務することになった検死事務所は、医薬品も乏しく、設備もお粗末。しかし、障害があるが解剖の腕は抜群の助手、しっかり者のナースなど一風変わったメンバーに囲まれて、訳あり死体続々のスリリングな日々が待っていた…(文庫カバーより)

Coronerslunch 共産政権が誕生したばかりのラオス。シリ先生も若き頃は亡き妻に従って共産主義側に加わり内戦を戦った。しかし、今はあっという間に腐敗した革命政権とは距離を起き、国内唯一の検死官という立場と老齢であることを盾にのらりくらりと、洒脱自在に生きている。てことで、物語もユーモアにあふれて楽しい!

実はシリ先生のもとには死者の霊が挨拶に来たり、犬たちにはいつも吠えつかれるという不可解な点が。やがて見えてくるのは、この小説のもう一つの要素――時を超越した霊界において繰り広げられている、モン族のかつての英雄と土着の悪魔たちとの戦い。そんなご当地オカルトも盛り込みつつ、終盤、殺人犯に先生自身も狙われる展開はスリリング。犯人は絶対あの人だと思っていたのに違っていた!

著者はイギリス人で、イスラエル、オーストラリア、アメリカ、日本などで教師をしていた経験あり。その後、東南アジア各地でNGO活動をしながら漫画やコラムを執筆。現在はベトナム在住とのこと。


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『三十三本の歯』コリン・コッタリル著/雨沢泰訳
(ヴィレッジブックス 2012年邦訳)

自転車に相乗りした二人の謎の死人が運ばれてきたのを皮切りに、猛獣に首を咬みつかれ息絶えた女性が続けて現れるなど不可解な事件が頻発する。黒焦げ死体がみつかった古都ルアン・パバーンに赴いたシリは、魔力的なその地で三十三本の歯の秘密を知るのだったが…。(文庫カバーより)

Thirtythreeteeth てことで、出版されたばかりのシリ先生シリーズ第2弾。↑このあらすじでは何のことやらさっぱりだろうけど、前作よりさらに現世と霊界が混沌とした内容で、もはやミステリー小説と言っていいのかどうかも…。
エピソードもやたら多い。知識がないだけで事実に近い話が多く挿入されていそう。キム・ジョンイルもちらっと登場する。本筋とはまったく関係ないけど、いい加減におちょくられておる笑。一方で、基本的には人情味あふれる内容で、読んでいて気持ちいい。引き続き、ラオスという舞台をめいっぱい生かした、楽しく個性的な小説。

前作と表紙のイメージが違ってしまったのが残念かも。そしてシリ先生に恋していたサンドイッチ屋台のおばさんが登場しなくなったのも大きな変化。代わりに前作以上に活躍するのがナースのドゥーイ。病弱の母親を抱えていること、洗濯カゴのような大きな体で男とは縁がないのをシリ先生にはいつも不憫がられているが、助手としてはきわめて優秀。考えてみたら、先生が呪術にかかずらっている間に、探偵のような行動力で連続惨殺事件を解明したのは彼女だった。こんなところもミステリー小説としては異色かな。犬のサループの話が切ない…。


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『ジェネシス・シークレット』トム・ノックス著/山本雅子訳
(RHブックスプラス 2010年邦訳)

トルコ東部の巨石建造物ギョベクリ・テペを訪れた記者ロブは、たちまちこの遺跡に魅了された。1万2千年前に建てられた最古の神殿で、エデンの園はここだったと説く者もいた。しかも遺跡は後に人の手で埋められていた。誰が、何を隠すためにそんな厖大な労力を注いだのか? 発掘現場で起きた不審な死亡事件を追ううち、ロブははからずも人類史の壮大な謎のなかへと踏み込んでいくことに。その頃英国では儀式殺人めいた猟奇的事件が相次いでいた…(文庫カバーより)


Genesissecret 勉強は苦手だけれど、古代文明には興味ある。そんな私ですので、ミステリー小説の題材が実在の謎多き古代遺跡というだけで飛びついた。といっても出版当時は見過ごしていたんだけどね。

クルド人居住地域にあるために発掘は進まず情報公開すら制限されているというギョベクリ・テペ遺跡には、故意に埋められた形跡があり、その理由や、秘密の多い少数派宗教ヤズィードとのかかわりなどを著者なりに追究していて、なかなか面白い! 歴史上のさまざまな民族の生け贄儀式の方法を真似た犯罪の描写にはうんざりしたけど、古代史または悪魔崇拝などに興味があれば十分楽しめるでしょう。
ただ、イギリス人の著者は経験豊富なジャーナリストということで、情報を集めて面白い読み物にするのは得意そうだけれど、小説家としてはどうかなと思いつつ読んだところもけっこうあった。


ギョベクリ・テペ遺跡の写真 http://globalheritagefund.org/slideshows/gobekli_slideshow


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『薔薇の殺意』ルース・レンデル著/深町眞理子訳
(角川文庫 1981年邦訳)

被害者は30歳の平凡な家庭の主婦。器量も平凡、顔に化粧をしたこともなく、夫と二人、つつましく、ひっそりと暮らしていた。そんな彼女の絞殺死体が牧草地の茂みで発見された。暴行めあての犯罪ではなかった。有力の手掛かりは遺品の本にあった。余白に彼女に寄せる想いが綿々とつづられていたのだ。このおよそ人目をひかない女に、これほどの想いを寄せる男がいたとは…(文庫カバーより)

Fromdoonwithdeath ウェクスフォード警部シリーズの1作目で、レンデル初の長編小説。上記のあらすじに、この小説の要点も、女性作家ならでは視点の面白さも集約されている。テーマはシンプルだし、登場する人物はみな平凡。でもやはり、ちょっとしたしぐさや情景の描写だけで引きつけて離さないと思うのは、私も女の目線でふだん物事を見ているからかも。・・・とは、苦し紛れ。2カ月前に読んで、もうあまり覚えていない。

2012年7月 1日 (日)

閉ざされた記憶 〜『尋問請負人』『悪意の森』『リヴァトン館』

せめて1カ月に1回はブログアップの目標挫折。もう7月とは…早い。
読書メモも溜まってしまって、とりあえず半分アップ。


『尋問請負人』マーク・アレン・スミス著/山中朝晶訳
(ハヤカワ文庫 2012年邦訳)

あらゆる拷問のテクニックに通じた尋問のプロ、ガイガー。民間企業、犯罪組織、政府機関から依頼され、彼は対象者から情報を引き出してきた。だが、彼には秘密があった。過去の記憶を失っていたのだ。ガイガーは今、新たな依頼を引き受けたが、事態の変転から一人の少年を救い、相棒のハリーらと逃亡の身とな る。執拗な敵と闘いながら、やがて彼は巨大な陰謀を知り、記憶を取り戻していくが…(文庫カバーより)

Inquisitor 尋問のプロフェッショナルという異色の職業に期待して読むが、割と普通のヒーロー小説だったかな。
スパイものでも探偵ものでも、拷問場面が苦手で早く読み飛ばしたくなるほうだが、この小説の主人公ガイガーは、肉体へのダメージをほとんど与えることなく、言葉などによって巧みに相手に恐怖心を植え付け、聞きたいことを聞き出すことに長けているという設定なので、安心だ。そしてまた、ガイガーの職業上のライバルとして、残虐な拷問を得意とするダルトンを登場させることで、ガイガーのヒーローとしての正当性をにおわせているわけだけど…。だからといって魅力的な主人公になるわけでない。無粋なことを言えば、いろいろと無理がある。

続編があるとしたら、ガイガーは尋問の得意な探偵として再登場するんではないだろうか。そこからが本編という気がする。この小説は探偵ガイガーの序章として読めばそこそこおもしろい。かな?


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『悪意の森』タナ・フレンチ著/安藤由紀子訳
(集英社文庫 2009年邦訳)

うだるような夏のある日。ダブリン郊外の森の中で、少年と少女が忽然と姿を消した。あの日から20年。同じ森の近くの遺跡発掘現場で少女の他殺体が発見される。捜査にあたった刑事のロブとキャシーは、少女の家族が隠し事をしていると感じる。一方、発掘隊の中にも疑わしい言動を取る者がいた。やがて少女の姉 がロブに接近し、虐待を匂わす証言をするのだが…(文庫カバーより)

Inthewoods アイルランドのダブリン郊外の町を舞台としたミステリー小説で、数々の新人賞を受賞。
表紙の画像をいただこうと思いamazonにアクセスしたら、カスタマーレビューの評価が悪すぎて驚くとともに、やっぱりなという思いも。読み終わってなんとなく男性受けは悪い気がしていた。
実際に低評価をくだしているのが男性かどうかわからないし、ほかにも評価しない理由があるのだろうが、第一に、男性主人公ロブが最後まで情けないままで終わったことが要因ではないかと…。私自身は、若干エキセントリックなところのある女性主人公キャシーが、どこかでまた心に大きな痛手を受けはしないかとひやひやしながら見守っていたので、最後の展開は痛快で、青春小説としても予想外に軽やかに終わったことが好印象だった。
逆に、例えば上記の『尋問請負人』みたいなのは、あまり魅力を感じないので、読書というのはやはり個人的なものなのでしょう。

ぐだぐだと余計なところにページを割いているという評価は分かる。自分も上巻は「ひたすら長い」と感じながら読んでいたし、「大人の男女の間でこんな友情、成り立つわけないだろー、いつまで青春ごっこやってるんだよ」という思いもありイライラしたかな、そういえば笑。しかし、後半はミステリー小説としても十分に面白かった。
個性的な書き手には違いないので、次も読んでみて好き嫌いがはっきりしそうな気がする。


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『リヴァトン館』ケイト・モートン著/栗原百代訳
(RHブックスプラス 2012年文庫化)

老人介護施設で暮らす98歳のグレイスのもとへ、新進気鋭の女性映画監督が訪れた。「リヴァトン館」という貴族屋敷で起きた70年前の悲劇的な事件を映画化するため、唯一の生き証人であるグレイスに取材をしたいと言う。グレイスの脳裏に、リヴァトン館でメイドとして過ごした日々があざやかに蘇ってくる。そして、墓まで持っていこうと決めていたあの惨劇の真相も…。(文庫カバーより)

Shiftingfog グレイスが侍女として仕える令嬢ハンナと、何かの映画のキーラ・ナイトレイがだぶって仕方ない……。20世紀初頭、戦争などの時代の波に翻弄されてたそがれゆくイギリス貴族社会を舞台に、悲劇的な愛を描くドラマというのは、小説でも映画でもすでに一種の様式なのだろうね。だから、本国ではなく外国の、このオーストラリアの女性作家のほうが、その様式をよほどちゃんと把握していて、その様式が大好きな人たちの期待を裏切らずに書けるんだろうね。様式なので目新しさを問うのはお門違いなんだろうね。

イギリスでは2008年に、図書館で最も多く貸し出された本として『ハリー・ポッターと死の秘宝』に次いで第2位になったらしいよ。


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