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2012年5月

2012年5月13日 (日)

「ときには、正義は待てない」 ~『真鍮の評決』ほか

『真鍮の評決』マイクル・コナリー著/古沢嘉通訳
(講談社文庫 2012年邦訳)


丸1年、わたしには一人の依頼人もいなかった。だが妻とその愛人の射殺容疑で逮捕されたハリウッド映画制作会社オーナーは弁護を引き受けてほしいという。証拠は十分、アリバイは不十分。しかも刑事がわたしをつけまわす。コナリー作品屈指の二人の人気者が豪華共演する傑作サスペンス…(文庫カバーより)

Brassvercivk “リンカーン弁護士”ことミッキー・ハラー・シリーズの第2弾。
このシリーズ1作目はマシュー・マコノヒー主演で映画化されている(日本未公開)。マコノヒーの弁護士役というと「評決のとき」の印象が圧倒的。しかし、リンカーン弁護士シリーズに、ああいう胸がすくようなリーガルサスペンスを期待すると、私みたいに要点がつかめないまま読み進めてしまうことになる。

これって要するに弁護士を主人公にしたハードボイルド小説なんだよね。弁護を引き受けた相手が「実際に罪を犯しているかどうかは関係ない」「裁判は嘘のコンテストだ」と言い放つハラー。情けとは無縁の(特にアメリカの)弁護士というものを、ある面でとてもリアルに表現していて新鮮なのかもしれない。
が、ハラーが、そんなシビアな戦場に身を置く自分を主張しすぎてうぜーと思うことが何度か。そして、法廷シーンがひどく退屈。マイクル・コナリーの小説で、途中で興味が薄れ、読み続けるのが億劫に感じたのは初めてだ。刑事ハリー・ボッシュのシリーズは毎回面白く読んできたのだが…。

本作は、コナリーお得意のどんでん返しにも特に驚きはなかった。読者サービスのように付け足されているボッシュ刑事との因縁も、なんだかなあという感じで。そういえば、これまでのコナリーの作品の主人公が共演する作品に限って、あまり好きではなかったことを思い出した。


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『修道院の第二の殺人』アランナ・ナイト著/法村里絵訳
(創元推理文庫 2012年邦訳)

煙ただよう古都、ヴィクトリア朝エジンバラ。パトリック・ハイムズは修道院で働く妻と、そこの学校の教師だった女性を殺した罪で絞首刑に処された。しかし、彼は妻の殺害は認めたが、第二の殺人は頑として否認したまま死んだのだった。彼の最後の訴えを聞いたファロ警部補は、新米医師である義理の息子のヴィンスと再捜査を始める…(文庫カバーより)

Entersecondmurderer 本国ではすでに17作まで出版されているという、ジェレミー・ファロ警部補シリーズの初翻訳。
シュークスピアとチャールズ・ディケンズとウォルター・スコットを愛する(あとがきより)という、そのお定まりすぎる趣味嗜好からして、主人公ファロがどんな人物か、どんなテイストのシリーズか、分かろうというものだ。

読みながら、日本の2時間サスペンスドラマシリーズ(それもちょっとコミカルな要素のあるやつ)が思い浮かんでしまう。設定を少しいじれば容易にドラマの脚本になると。そして結末までも、2時間サスペンスドラマなら真犯人はあの人で、動機はあれ、と想像したとおりに…。真犯人のキャスティングも思い浮かんだが、露骨にネタバレになるから遠慮せねば。
小説としては食い足りなかったので、次は読まないかなぁ。


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『ピアノ・ソナタ』S・J・ローザン著/直良和美訳
(創元推理文庫 1998年邦訳)

深夜ブロンクスの老人ホームで警備員が殴り殺された。手口から地元の不良グループの仕業と判断されたが、納得がいかない被害者のおじは探偵ビルに調査を依頼。かつて探偵の手ほどきをしてくれた老兵の頼みに、ビルは危険な潜入捜査を展開する…(文庫カバーより)

Concourse 中国系女性リディアと白人中年男性ビルの探偵コンビが活躍するシリーズ第2弾。1996年度シェイマス賞最優秀長編賞受賞作。
リディアが主人公だった1作目は、リディアのキャラクターが普通の女の子すぎて、探偵としての魅力に欠けるという個人的な理由から、あまり面白くなかった(女探偵なら、ちょー勝気な性格だったり、ダラしない人間だったり、暗い過去をもっていたり、ついそんな要素を期待してしまう)。
そこで、このシリーズをいったんは放棄したが、最近のシリーズ作品もとても評判がいいので、思い直して再び手に。
うん、ビルが主人公のほうがたぶん好きだ。内容も面白かった。老人にも街の不良にも、そして野良ネコの親子にも、やさしく温かい。この真っ当さがいいね。


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『わが目の悪魔』ルース・レンデル著/深町眞理子訳
(角川文庫 1982年邦訳)

アーサー・ジョンソンの孤独な日常生活は何者にも妨げられることはなかった。人知れずアパートの地下室で行う快楽の儀式も…。すべてを狂わせたのは新たな入居者、アントニー・ジョンソンだった。発端はこの同姓の若者宛の手紙を、誤ってアーサーが開封したことであった。これがアーサーの隠れた狂気を誘発する…(文庫カバーより)


Demoninmyview 1976年度CWA賞受賞作。
ふうー、これは名作だった。なんといっても、単に偏屈で臆病な、よくいるタイプの孤独な男に見せかけて、実は異常心理の持ち主であることがヒリヒリと伝わってくるアーサーの人物造形が見事で、心躍る(悪趣味!)。
話の展開が読めない構成も巧み。そしてアパートに同姓の入居者がいる設定を「そこでも生かすのか!」と感心してしまった結末の鮮やかさ。

ルース・レンデルすげ~。まだ4作品しか読んでいないので、これから入手できる限りでコンプリを目指すことにしました。

調べたら、この作品は映画化もされていて、アーサー・ジョンソン役をアンソニー・パーキンスが演じている(日本未公開)。それも主演作としては遺作。晩年もこんな異常者の役をやり続けてなくなったんだ。どんな心境だったんだろうか。楽しみながら演じ続けたならいいんですけどね。


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『新世界より』貴志祐介
(講談社文庫)

1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。(文庫カバーより)

Shinsekaiyori 2008年の日本SF大賞受賞作。
久々にSF・ファンタジー小説を読んだ〜。面白かった〜。懐かしい田園風景のなかに登場してくる異形のいきものたちの描写が、妙になまなましくて、何晩か夢にまで見た。GW中だったので一気に読めたのが良かった。

一つ気にかかったのは、バケネズミの奇狼丸の最期。あの作戦を奇狼丸自身が思いついたものであったなら、美しい最期という見方もできるが、そうではなかったので、居心地が悪い。しかし、思い返せばこの居心地の悪さは、ひどく醜い生き物として描かれるバケネズミの登場の場面から、その出自が明らかになる終盤まで一貫しているので、作者の狙った効果どおりだったかなという気も。

2012年5月 6日 (日)

超シンプル! 〜「ル・アーヴルの靴みがき」〜

裸眼0.1なのにメガネを忘れて映画館に行ってしまった…。


「ル・アーヴルの靴みがき」(2011年 フィンランド/フランス/ドイツ)

北フランスの港町ル・アーヴル。かつてパリでボヘミアン生活を送っていたマルセル。今はここル・アーヴルで靴みがきの仕事をしながら、愛する妻アルレッティとつましくも満たされた日々を送っていた。しかしある日、アルレッティが倒れて入院してしまう。やがて医者から余命宣告を受けたアルレッティだったが、そのことをマルセルには隠し通す。そんな中、マルセルはアフリカからの密航者で警察に追われる少年イドリッサと出会い、彼をかくまうことに…(allcinemaより)


Le_havre アキ・カウリスマキ監督の最新作。「ラヴィ・ド・ボエーム」の続編的な内容らしい。

何が驚いたってそのテーマのシンプルさ! ラストシーンのあの満開の花の見たときに、これは仏教的な、もしくは日本の古いことわざがベースか。と思ったが、同じような考え方はどこにでもあるね、きっと。そして、つましい庶民の暮らしが、めっちゃ愛おしく描かれている。ここも昔の日本の映画みたいだった。

正直いって、カウリスマキ作品としては物足りなく感じる内容だったが、無言の人物の表情など描写だけで多くを語ってしまおうとするスタイルはブレない。
冒頭、アジア系移民の靴みがき仲間と駅でお客を待つマルセル。しかし、通りすがる人はみなスニーカー。そこにようやく現れた革靴の男がおもいっきり怪しいとか、ニヤリとしてしまう場面は相変わらず多い。そして、相変わらず1本のタバコがうまそう笑 
音楽については、男女の感動的な場面になると、古い映画のBGMみたいなのが流れる。

ところで、白髪リーゼントのロッカー、リトル・ボブを演じたロベルト・ピアッツァって誰?


追記)リトル・ボブは、リトル・ボブの名でル・アーヴルを拠点に長年活躍しているロッカーとのこと。カウリスマキ映画の音楽シーンは、ちょっと凝った「箸休め」みたいもので、これも毎度楽しみだ。

2012年5月 4日 (金)

「あなたは大切な子」忘れないで 〜「ヘルプ 心がつなぐストーリー」

「ヘルプ ~心がつなぐストーリー〜」(2011年 アメリカ)

キャスリン・ストケットの全米ベストセラーを映画化した感動のヒューマン・ドラマ。人種差別意識が根強く残る1960年代のアメリカ南部を舞台に、勇気ある行動で世の中に大きな波紋を投げかけた作家志望の若い白人女性とメイド(ヘルプ)として働く黒人女性たちとの友情の軌跡を綴る…(allcinemaより)


Help 南部のミシシッピ州、「分離すれども平等」の欺瞞がまだ根強く残る時代という舞台設定において、白人と黒人の間に築かれる友情が題材と聞くと、ひねくれものの私は一応警戒してみるのです。安易に泣かせたいだけの映画ではないのかと。ここにも欺瞞を見つけて嫌な気分になってしまうのではないのかと。

で、実際に観たら、泣けた〜笑 隣の席に自分と同世代の、やはり一人で来ていた女性が座っていたのだが、涙を拭うタイミングがいちいち同じで、途中から気まずくなった〜笑

アカデミー賞でもゴールデン・グローブ賞でも、エイビリーン役のヴィオラ・デイヴィスが主演女優賞のノミネートに終わり、ミニー役のオクタヴィア・スペンサーが助演女優賞を獲得って、何か不公平な気がしてしまう。デイヴィスの役柄・演技のほうが好きだった。スペンサーの顔つきや役柄って、昔からアメリカ映画で好まれてきた黒人そのものじゃない? やっぱひねくれてるか、わたし笑


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気づいたら観たい映画がいろいろ上映中で困るよまったく。昨年度の映画賞で話題だった映画もこの時期に集中するからかな。1日2本消化も考えたけど、いまの私には贅沢だってことで、1日1本、厳選していくしかない。

次はアキ・カウリスマキの「ル・アーヴルの靴みがき」。「ブライズメイズ」などコメディー系もたまには観たいし、ロバート・ファン・ヒューリック原作の「王朝の陰謀」、話題の史実を扱った「オレンジと太陽」も気になる。しかし、そんなことを言っていたらアカデミー賞の「アーティスト」は観ないで終わってしまいそう。うん、たぶん観損なうだろうな。その後もアレクサンダー・ペインの「ファミリー・ツリー」、アルモドバルの「私が、生きる肌」などが控えている。忘れないように自分用にメモしておく。

落日のスパイたち~「裏切りのサーカス」〜

「裏切りのサーカス」(2011年 イギリス/フランス/ドイツ)

英国のMI6とソ連のKGBが熾烈な情報戦を繰り広げていた東西冷戦時代。英国諜報部<サーカス>のリーダー、コントロールは、長年組織に潜んでいるソ連の二重スパイ“もぐら”の情報をつかむも独断で作戦を実行して失敗、責任をとってサーカスを去る。コントロールの右腕で彼とともに引退した老スパイ、スマイリー。ある日、英国政府のレイコン次官から“もぐら”を突き止めろという極秘の指令が下る。ターゲットとなるのは、コードネーム“ティンカー”、“テイラー”、“ソルジャー”、“プアマン”という4人の組織幹部。さっそく信頼を置くかつての部下ピーターらと組み、調査を開始するスマイリーだったが…。(allcinemaより)


Tinkertailorsoldierspy 面白かった!! ひさびさの大満足映画だったなあ。
原作が同じく有名なところで、「L.A.コンフィデンシャル」の出来のよさに近いものを感じた。

監督のトーマス・アルフレッドソンはスウェーデン人。ジョン・ル・カレの『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』が原作。ル・カレは製作にも携わっている。

観る前に気になっていたのはゲイリー・オールドマンが超地味男のスマイリーをあの外観でどうやって演じるの?ということだったが、映画としてはちょうどいいくらいの華だったのではないかしら。
また、難解な映画との前評判はともかく、ル・カレの小説自体(この原作は読んでいないけど)、読む人を選ぶというイメージがあり、理解できるのかとの危惧もあったが、映像や音楽があると違うね。セットや衣装、小物なども含めて見事な世界が出来上がっていたし、友情や裏切りといった感情面に重きを置いたエピソードの数々は、意外とシンプルで分かりやすい。どっぷりはまって堪能しました!


冒頭に出てくるのがサーカスのリーダー宅で、自宅なのに仕事の書類で埋まっていて味気ないところが、人生のすべてを国に捧げてきた諜報部員というものだなあと感慨をおぼえ、そこからもう映画の世界に魅せられた。
幹部のスマイリーの下には、その手足となって動くギラムがいて、その下にもっと若いリッキー・ターがいる。それぞれの愛する人への接し方、感情のコントロールが、スパイとしてのキャリアの違いを感じさせて面白かった。ター役のトム・ハーディは前からお気に入りの俳優だけど、ギラム役のベネディクト・カンバーバッチも良かったわ。これからチェックしよう。
もぐらの犠牲となる実動部員を演じたマーク・ストロングが、これまでのイメージと最も違っていたかも。あんな繊細な表情を見せるなんてね。ほかの俳優もひとくせある顔つきばかりで、それぞれが印象に残る。面白い映画の必須条件。


すでにイギリスのスパイなんて米ソから利用される程度のものにすぎなくなっていると、当のイギリスのスパイたちが感じているという時代背景が、実はこの映画の重要なエッセンスになっているのではないかと思う。なのに、孤独に身をおき、命がけのゲームをいまだ繰り広げているというのがたまらなく切ない。

回想で出てくるサーカスのホリデーパーティーの場面で、ロシア国歌を流して盛り上がるのも好きな演出だ。東側と長く接してきたスパイたちにとって、ソ連は嫌いとか、そういう単純な感情の対象ではない。彼らは実は誰よりもソ連マニアだったのだと思う。パーティーの場面ではル・カレ自身も出演していたらしい。

2012年5月 3日 (木)

Big Daddy Kane with special guest Kurtis Blow

4月26日にビッグ・ダディ・ケインを来日ライブをビルボード東京で見る。

これでもオールドスクール世代のラップは当時よく聴いていて、なかでもこの人は、自分にとってそのちょっと後に登場する2パックと並ぶ(ピンのラッパーとしてはだけど)特別な存在だったのだ。なんといってもかっこよかったもん。大人の男のカリスマ性あったよ。LL・クール・Jなんかは目じゃなかったぜ!

先輩ラッパーのカーティス・ブロウと一緒に来日することは前から知っていたが、懐具合等から断念する気でいた。でも、本当に偶然だったのだが、ネットで知ったConnie Price & the Keystonesというバンドの音源をYoutubeで探していて、そしたらビッグ・ダディと共演しているライブ動画があり、なんと彼らも一緒に来日するではないか!ということで、行くことにしたのだ。生バンドがバックならまずはハズレはないと。

Connie Price & the Keystones feat Big Daddy Kane pt1‬
Connie Price & the Keystones feat Big Daddy Kane pt2‬
Connie Price & the Keystones feat Big Daddy Kane pt3‬

ということで、どんなライブだったかは上の動画を参照。
満席とはいえない会場(私が行った回だけど)でコール&レスポンスを長々とやるのは若干さびしいものがあったし、カーティス・ブロウと一緒にステージに立つコラボもなかったけれど、やっぱりビッグ・ダディ・ケインのアダルトな声と、タメのあるラッピングが好きだわ〜。きっちりしたスーツ姿でのステージにまだまだ現役でやるぜ〜という意気込みを感じたね。

対してカーティス・ブロウは全身白ジャージ。ライブ中盤で登場して2曲ほどやったけど、この人のスタイルはまさにパーティーラップで、違いがくっきり。お客をステージに上げてダンスさせたりして盛り上げていた。1曲くらいは2人の共演が見たかったけど、歌での共演と違って、ラップでの即興共演は無理があるよね…。

若かりし日のお二人。
BigdaddykaneKurtisblow




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