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2012年2月

2012年2月11日 (土)

「だけどこれは求愛行為なんだ」~『破壊者』ほか

『破壊者』ミネット・ウォルターズ著/成川裕子訳
(創元推理文庫 2011年邦訳)

女は裸で波間にただよっていた。脳裏をよぎるのは、陵辱されたことではなく手指の骨を折られたことだった。――そして小石の浜で遺体が見つかる。死体発見現場から遠く離れた町では、被害者の3歳の娘が保護されていた。なぜ犯人は母親を殺し、娘を無傷で解放したのか? 凄惨な殺人事件は、被害者をめぐる複雑な人間関係を暴き出す…(文庫カバーより)


Breaker 欠かさず読んでるM・ウォルターズ。新作登場!といっても『病める狐』や『蛇の形』よりも前の、1998年の作品だった。もっとぽんぽんと出して欲しいな。まあ、未翻訳だった作品といっても内容にそれほど遜色はなく、日本で出版されるだけでもありがたいと思わなければ。

本作はドーセットの田舎警官が主人公の扱いになっていて、警察の捜査を主軸に、最後に真犯人が明らかになるという、割とオーソドックスな形式のミステリー。田舎警官の慎ましやかな恋も描かれる。
にもかかわらず、というべきかどうか、事件関係者の証言の中に「自慰」や「うんち」という言葉が何度も登場するのがインパクト大! もともとウォルターズは、普通なら題材とするのを避けたりオブラートに包んで書くようなことも、さらっとさらけ出してくるのが面白い。こっちのうろたえをよそに、著者自身はいたってクールな様子だ。

終盤は、ちょっとしたどんでん返しが仕組まれているといえるだろうか。事件解決後は一転ほのぼのとした空気に包まれるのだが、それと並行して書かれている真犯人の自白が、子供じみてて拍子抜け。かえって不気味さをあおる。「破壊者」というより「壊れちゃってる人」という感じだよ。
あと、事件解明にはたくさんの偶然が重なっていたことに読み終わって気づく。下手な作家だったらあまりにご都合主義的な作品と言われかねない。でも、ウォルターズは読ませてしまう。出だしで死体が発見されるあたりの目撃者たちの描写はとても生き生きとしているし、最終章では男女のロマンスの合間に小さなクモの死の話を挿入するあたり、本当にうまいと思う。


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『緋色の十字章 警察署長ブルーノ』マーティン・ウォーカー著/山田久美子訳
(創元推理文庫 2011年邦訳)


名物はフォアグラ、トリュフ、胡桃。風光明媚なフランスの小村で、長閑な村を揺るがす大事件が発生する。戦功十字章を授与された英雄である老人が、腹部を裂かれ、胸にナチスの鉤十字を刻まれて殺害されたのだ。村でただひとりの警官にして警察署長のブルーノは、平穏な村を取り戻すべく初めての殺人事件の捜査に挑む…(文庫カバーより)

Brunochiefofpolice フランス南西部ドルドーニュ県、ラスコー洞窟に近い(架空の?)田舎町が舞台。地域の人に愛される交番のお巡りさんみたいな主人公は、独身で、特におばちゃんたちの人気ばつぐん。料理の腕前にもすぐれているのだ。自家製の「胡桃ワイン」てどんな味なんだろう、気になる〜。過去の戦争の傷跡、近年勢力を増している移民排斥などを題材にしながら、ジャンルとしてはコージー・ミステリーに入る作品かな。

著者は英国ガーディアン紙の記者だった人。フランスを舞台にした小説を外国人が書くと、グルメの話題が多くなってしまうのは仕方ないのだろうか。面白いのは、美食のフランスに対して、イギリスの食べ物はなぜあんなにひどいのかを、本書の中で町に滞在するイギリス人女性に弁明させているところね。産業革命によってどこよりも早く工業国になったことが原因らしいよ。


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『装飾庭園殺人事件』ジェフ・ニコルスン著/風間賢二訳
(扶桑社ミステリー 2011年邦訳)

ロンドンのホテルで、男の死体が見つかった。睡眠薬自殺と思われたが、美しい未亡人はそれを否定。遺体は高名な造園家で、いまは地方で装飾庭園を手がけているはずだった。それがなぜロンドンに? 調査をはじめた未亡人の前に次々現われる奇妙な関係者たち。見えてくる夫の知られざる顔。混迷していく真相探し… …そして、全員を一堂に会して驚愕の謎解きが行われるとき、思いもよらぬ世界が現前する…(文庫カバーより)

Knotgarden なんだこれは〜。いまどき翻訳もので「○○殺人事件」なんて題名がついている時点で、ひとくせもふたくせもある小説と気づけよと反省。最初、未亡人が事件の調査を一人の探偵ではなく、ホテルの警備員や精神科医や文学教授など、それぞれ得意分野をもった人を何人も雇って当たらせるところが画期的!なんて考えた自分がおぼこすぎた。こんな結末を読ませられて、感心もしなければ、驚きもない、面白くもなんともないぞー!
訳者あとがきには「西欧の庭園文化史を内包しつつ、英国式庭園の作庭法をそっくりそのままポストモダンなミステリーにインポーズした傑作」とあり、いろいろ難しいことが書いてあって、さらに困惑。


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『暗闇の蝶』マーティン・ブース著/松本剛史訳
(新潮文庫 2010年新訳)


イタリアの山奥、小さな町に私は移り住んだ。表向きは蝶を描く画家、地元の人にはミスター・バタフライと呼ばれている。しかし、実際は闇の世界の罪人。世界中を転々とし、一箇所に留まることはない。とはいえ、そろそろ潮時だ。あと一回だけ仕事を受けて、この町に落ち着こう。そんな折、謎の男が「私」を追い始める。いったい誰が、何の目的で?(文庫カバーより)


Averyprivategentleman 95年に出版された『影なき紳士』の新訳本。ジョージ・クルーニー主演で映画化され、昨夏「ラスト・ターゲット」のタイトルで日本でも公開されたらしいけど、まったく気づいていなかった。スチールだけ見ると原作の雰囲気は出ている。クルーニーが適役かどうかは別として。

特にネタばれというわけではないと思うので書いてしまうと、主人公は暗殺用の銃器作りを請け負う「職人ではなくアーティスト」(先日読んだ『解錠師』を思い浮かべる)。そして「自分は歴史を変える側の人間」を自負している。過去にこなしてきた仕事の自慢話などもあって、まあ鼻持ちならない。

それはさておき、物語は終盤まで特に大きく動くことなく、主人公が身を潜めたイタリア中部の小さな町での、のどかな生活が淡々と綴られる。ワインなどの話も豊富で、イタリアの田舎を謳歌する内容のほうが印象に残る。


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『最低の犯罪』レジナルド・ヒル著/宮脇孝雄ほか訳
(光文社文庫 2000年)

Worstcrime 読み残していたヒルの短篇集。短篇小説の醍醐味をよく理解できない私ですので、大好きな作家といえども、つい後回しにしてしまい、購入したまま忘れていた。最初に収められているダルジール&パスコーのクリスマス作品がいちばん好きだな。どうしても思い入れてしまう。

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