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2011年12月 4日 (日)

「最初に気づいたのは、異なる空気に漂う異なるにおいだった」〜『シャンタラム』

『シャンタラム』グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ著/田口俊樹訳
(新潮文庫 2011年邦訳)

Shantaram 武装強盗で20年の刑に服していたオーストラリア人の主人公「私」が、刑務所から脱獄し、インドのボンベイ(ムンバイ)に逃亡。そこから始まる数奇な運命…。


翻訳される前から話題に出ていたから、文庫3巻の分厚さにためらうことなく飛びついた。これは本当に圧倒された! 愛について、人を信じることについて、自分の心に素直であることとはどういうことか、思い直してみたくなる傑作だ! 著者の体験をもとに書かれた小説ということだが、改めてその経歴を見たら、脱獄からボンベイでのスラム暮らし、マフィアとともにアフガン・ゲリラに加わったことまで、物語の主人公がたどった運命そのまんまで驚愕しちゃったり笑
本のキャッチコピーにもあるけど、バックパッカーには垂涎の内容であろうことがよく分かるぜー。海外旅行は大好きだが時間も金もなく、いつもガイドブックや旅番組などを見てもんもんとしている自分にも、読書が疑似ツアーのような魅力的体験となった。自分が好んで翻訳小説を読む理由が凝縮された内容ともいえる。


てことで、ディープなインドを満喫しつつも、やはり印象に残るのは登場人物たちだ。まずはリン・シャンタラム(インドでの主人公の呼び名)。地元インド人でさえも足を踏み入れないスラム街、アフガニスタンやパキスタン、イラン、パレスチナ人らで構成されるイスラム系マフィア、華やかなボリウッド、そして、主人公と同様にボンベイに住み着いた欧米人たちが集うカフェ・レオポルド……それら異なる社会にいつの間にか溶け込み、自由に行き来するリンは、とても人好きのする人物だ。彼は、貧富や人種や宗教、さらには犯罪者かどうかまで問わず、一人の人間対人間として接し、そうした人間関係の中で自分の存在の意味をさぐろうとする。人は人によって生かされている、それを実感できる環境に身を委ねることでぞくぞくする喜びを覚える。こうした主人公の抱える「人恋しさ」、そして人間への無防備ともいえる信頼、旺盛な好奇心があってこそ成り立つ物語でもあった。

そして、リンがボンベイに着いた日に出会った客引き兼ガイドのプラバカル。主人公に“リン・シャンタラム”という名前を勝手に押し付けた人物。小柄で陽気で正直者。何もかも包み込んでしまう特大の笑みの持ち主で、それだけでリンは彼のことを愛してしまう。清涼剤的存在だったので、彼のいなくなった後半はまったく違う物語になってしまった気がしたほど。読み終えても、思い出すのは実はプラバカルのことだ。
リンが父親のように慕うマフィアのドン、アブデル・カーデル・ハーンも、最後には強烈な印象を残す。リンが感じたあの失望と怒りは、まさに子が親離れをする瞬間のようではないか。この小説は、リンがインドでもう一つの人生を生き直し、インドが故郷と実感するまでの話でもあった。


もう一つ、胸にひびく言葉がたくさん散りばめられていているのも、この小説のすごみ。実際に著者がまったく異なる文化に飛び込み、おそらく数多くの危険に面してきただろう体験から導き出される言葉は、とても深いのに、とても分かりやすい。
ずいぶん前から映画化の話が進んでおり、主人をジョニー・デップがやるらしいけど、ちょっと待ってと言いたい。ぜんぜんイメージじゃないから。

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コメント

ひめさーん、こんばんは(*゚▽゚)ノ

わあ、これすごくおもしそう。。
買いたい、今すぐにでも買いたい。
が、しかし
何故か読むべき本がたまってしまっているわたしです。。

お、ところで
ひめさんは「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」読みましたか?
わたしずーと読みたいんだけれど、高いんだもの゚゚(´O`)°゚
↑早く文庫になってくれないか。。と祈るばかりです。

マキより(はあと)

マキさん、こんばんは!
私はミステリ以外、ほとんど情報集めていなくて、
「オスカー・ワオ」も知らなかったんだけど(焦って検索したw)
なるほど面白そうですね!
2500円は、ポケミスだってかなりのものよ・・・(値段気にせずに買って、毎度あとで1800円とか気づいてゲっとのけぞる)。
でも、私も文庫化を待とうかなあ。

「シャンタラム」も3巻トータルで2720円よ。
でも、1800ページ以上あるし、私の場合はほぼ1カ月かかって読んだから、むしろ安くついたかも笑
なんといっても面白かったから。
旅行が好きで長編が苦じゃない人にはぜひおすすめしたいです。

読む本、私もたまってます。古いのも読みたいし、日本の読みたいけど、最低限の新刊追って、いつも終わってるなあ。
家に帰ってくるとついテレビとかネット見てだらだらしてしまうナマケモノです。

ひめさーん、こんばんは(◎´∀`)ノ

結局、わたしどーしても我慢できずに
年末「オスカー・ワオ」買っちゃって。。なのに半分で、何故か大好きな池波正太郎の食エッセイに戻っているという。。

あ~、やっぱ
「シャンタラム」にしておけばよかった~(。>0<。)
(と、いいつつ「オスカー・ワオ」はすごいっす! 多分ひめさんも読んだら気に入るかも。。?)

年末年始、何か映画は観られましたか?
わたしは、年末丸の内の三菱美術館で「ロートレック展」鑑賞し、感動し、シネスイッチで「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」でケチをつけました。。(-゛-メ)
↑これ、あんまりだった。。

明日(今日)は、主治医の外来が終わったら、速攻で「宇宙人ポール」を観る予定なんすけど...。
(被害者、母)

マキより(はあと)

マキさん こんばんは。
やっぱり複数の本を並行して読んでますか?
私は最近内容を忘れてしまうので、ますます読みきってからじゃないと次に移れなくなってます・・。

年末年始は毎年恒例、田舎で見るものといったらテレビしかない生活を送ってました。携帯は使わないから、ネットは一切なし、本も読まずに、じゃあ何をやっていたかというと、母親のおしゃべりにずっと付き合っていました。これはふだん遠くに暮らす子の義務みたいなもので仕方ないんですけどね。

宇宙人ポールは年末に見ましたよ!
気軽に楽しい映画でした。
年齢は問わない気がするけどどうだろう。

エル・ブリの秘密・・・シネスイッチってそれほどハズレ映画をやっているイメージがないのですが、あんまりな映画ですか、、、あとでチェックしてみようかな笑

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