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2011年12月

2011年12月 8日 (木)

デンマークの警察小説シリーズ2作目 〜『特捜部Q ーキジ殺しー』

『特捜部Q ーキジ殺しー』ユッシ・エーズラ・オールスン著/吉田薫・福原美穂子訳
(ハヤカワ・ミステリ 2011年邦訳)


「特捜部Q」――未解決の重大事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の新部署である。見事に初の事件を解決したカール・マーク警部補と奇人アサドの珍コンビ。2人が次に挑むのは、20年前に無残に殺害された10代の兄妹の事件だ。犯人はすでに収監されているが、彼一人の犯行のはずがない。事件の背後には政治経済を牛耳るあるエリートたちの影がちらつく。警察上層部や官僚の圧力にさらされながらも、カールは捜査の手を休めない…(裏表紙より)

Fasandraeberne 今作も安定してるわ〜。まず導入部分の気の引き方(つかみ)が上手い。扱われている事件は陰惨だし狂ってもいるが、ユーモアがあるから重くならない。ひとくせあるが優秀な部下が、次々と捜査のお膳立てをしてくれるので、話がずんずん進む。これだけのページ数があるのに「ここは退屈だけど我慢して読み進めよう」と感じるページがない。さらに、サイドストーリーとなる主人公の周りの動向が気になって次も読まざるを得ない仕掛けがある。
エンタメ小説として、個人的には文句なしです。欧州でベストセラーって分かる!
強いて弱点を挙げれば、情緒とか趣みたいなものがとてもあっさりしていることかな。しかし、それも楽しい小説を届けようとする著者の潔さかもしれない。軽そうで、軽いとは言い切れない緻密さがあるんだよね。

2011年12月 4日 (日)

「最初に気づいたのは、異なる空気に漂う異なるにおいだった」〜『シャンタラム』

『シャンタラム』グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ著/田口俊樹訳
(新潮文庫 2011年邦訳)

Shantaram 武装強盗で20年の刑に服していたオーストラリア人の主人公「私」が、刑務所から脱獄し、インドのボンベイ(ムンバイ)に逃亡。そこから始まる数奇な運命…。


翻訳される前から話題に出ていたから、文庫3巻の分厚さにためらうことなく飛びついた。これは本当に圧倒された! 愛について、人を信じることについて、自分の心に素直であることとはどういうことか、思い直してみたくなる傑作だ! 著者の体験をもとに書かれた小説ということだが、改めてその経歴を見たら、脱獄からボンベイでのスラム暮らし、マフィアとともにアフガン・ゲリラに加わったことまで、物語の主人公がたどった運命そのまんまで驚愕しちゃったり笑
本のキャッチコピーにもあるけど、バックパッカーには垂涎の内容であろうことがよく分かるぜー。海外旅行は大好きだが時間も金もなく、いつもガイドブックや旅番組などを見てもんもんとしている自分にも、読書が疑似ツアーのような魅力的体験となった。自分が好んで翻訳小説を読む理由が凝縮された内容ともいえる。


てことで、ディープなインドを満喫しつつも、やはり印象に残るのは登場人物たちだ。まずはリン・シャンタラム(インドでの主人公の呼び名)。地元インド人でさえも足を踏み入れないスラム街、アフガニスタンやパキスタン、イラン、パレスチナ人らで構成されるイスラム系マフィア、華やかなボリウッド、そして、主人公と同様にボンベイに住み着いた欧米人たちが集うカフェ・レオポルド……それら異なる社会にいつの間にか溶け込み、自由に行き来するリンは、とても人好きのする人物だ。彼は、貧富や人種や宗教、さらには犯罪者かどうかまで問わず、一人の人間対人間として接し、そうした人間関係の中で自分の存在の意味をさぐろうとする。人は人によって生かされている、それを実感できる環境に身を委ねることでぞくぞくする喜びを覚える。こうした主人公の抱える「人恋しさ」、そして人間への無防備ともいえる信頼、旺盛な好奇心があってこそ成り立つ物語でもあった。

そして、リンがボンベイに着いた日に出会った客引き兼ガイドのプラバカル。主人公に“リン・シャンタラム”という名前を勝手に押し付けた人物。小柄で陽気で正直者。何もかも包み込んでしまう特大の笑みの持ち主で、それだけでリンは彼のことを愛してしまう。清涼剤的存在だったので、彼のいなくなった後半はまったく違う物語になってしまった気がしたほど。読み終えても、思い出すのは実はプラバカルのことだ。
リンが父親のように慕うマフィアのドン、アブデル・カーデル・ハーンも、最後には強烈な印象を残す。リンが感じたあの失望と怒りは、まさに子が親離れをする瞬間のようではないか。この小説は、リンがインドでもう一つの人生を生き直し、インドが故郷と実感するまでの話でもあった。


もう一つ、胸にひびく言葉がたくさん散りばめられていているのも、この小説のすごみ。実際に著者がまったく異なる文化に飛び込み、おそらく数多くの危険に面してきただろう体験から導き出される言葉は、とても深いのに、とても分かりやすい。
ずいぶん前から映画化の話が進んでおり、主人をジョニー・デップがやるらしいけど、ちょっと待ってと言いたい。ぜんぜんイメージじゃないから。

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