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2011年9月18日 (日)

スウェーデンミステリーシリーズ 〜『背後の足音』『黒い氷』〜

『背後の足音』ヘニング・マンケル著/柳沢由美子訳
(創元推理文庫 2011年邦訳)

夏至前夜、三人の若者が公園でパーティーを開いていた。18世紀の服装、料理、ワイン。彼らをうかがう目があるとも知らず…。イースタ警察署に、夏至前夜に友人と出かけて以来行方不明の娘を捜してくれという母親の訴えが出された。その捜査会議に刑事のひとりが無断で欠席する。几帳面な人物がなぜ? 不審に思ってアパートを訪ねたヴァランダーの目の前に、信じられない光景が…(文庫カバーより)

Stegetefter 本国スウェーデンだけでなく英国BBCでもドラマ化されているヴァランダー警部シリーズ第7弾。この本が出版されたのは1997年なので、かなりのタイムラグがあって日本では翻訳されているわけだけど、あまり時間のずれは感じない。お隣のノルウェーで多数の死者を出した銃乱射事件の第一報に接したときに、真っ先に頭に浮かんだのがこのシリーズで、「ついに大惨事に至ったか」という気までしたほどだ(昨年・今年とスウェーデンでもテロ未遂が起きている)。ヴァランダー・シリーズでああいう動機がテーマになったことはなかったと思うが、移民問題についてはときどき触れられ、警部は常に、市民が警察を信用しなくなり排他的な自警団が増えていることを危惧している。

このシリーズは、ミステリ小説としても面白いが、とても生々しい感じが伴っている。なぜかを考えてみるに、まずは著者のヘニング・マンケルがパレスチナ・ガザ支援船に自ら乗り込むほどの社会派であること(社会の問題に繊細であること)。そして、マンケルが主人公の心の動きを、場面ごとに彼の身になってとことん掘り下げて想像し、書いているからだろうと思う(ときにくどく感じるほど)。結果として、主人公ヴァランダーはとても標準化された感性の持ち主となり、扱われる事件や犯人の動機の異常さが際立つことになる。その落差が、現実の社会で自分たちが感じている違和感と共鳴する。

シリーズ常連の刑事スヴェードベリが何者かに殺され、捜査するうちに同僚の誰もが驚く秘密を彼が抱えていたことを知る。このギャップも1作目から読んできた者としては生々しかった。あと、犯人については、過去に同様の題材を扱った小説がありそうだと思った。


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『黒い氷』オーサ・ラーソン著/松下祥子訳
(ハヤカワ文庫 2009年邦訳)

傷を負ったのは、身体だけではない。心も深く傷ついていた…長い療養生活の後でようやく退院したレベッカは弁護士を辞め、故郷のキールナへ戻った。乞われて地元の特別検事の職に就いた彼女が立ち直りはじめた矢先、凍結した湖で女性の惨殺死体が発見され、またも事件に関わることになる。被害者の身辺を調べると、複雑な背景が浮かび上がってきた…(文庫カバーより)

Svartstig 税法弁護士レベッカ・マーティンソン・シリーズ第3弾。今回の殺人事件の被害者は、世界規模で事業を展開する新興企業カリス鉱業の女性広報部長インナ。カリス鉱業は、彼女の弟ディディと、その友人で現オーナーのマウリ・カリスが、大学時代に始めた株取引と天然資源採掘の利権売買によって拡大してきた企業だが、ハイリスクなアフリカでの事業で内紛に巻きこまれ、大きな負債を抱えようとしていた。そんな矢先に起こった広報部長の死。

てことで、今日的なテーマを背景に取り入れつつ、でも、このシリーズの面白さは、心に傷を負った女性の描き方。レベッカもそうだけど、この本ではなんといってもマウリの妹エスターの存在が強烈すぎて、後を引く。
あと、レベッカの元上司への思いが、前作からずいぶん飛躍してたので驚いた。

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