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2011年9月25日 (日)

狭いコミュニティの濃〜い人間関係 〜『野兎を悼む春』『探偵稼業は運しだい』〜

『野兎を悼む春』アン・クリーヴス著/玉木亨訳
(創元推理文庫 2011年邦訳)

シェトランド署のサンディ刑事は、帰省したウォルセイ島で、祖母ミマの遺体の第一発見者となってしまう。ウサギを狙った銃に誤射されたように見えるその死に、漠然とした疑惑を抱いたペレス警部はサンディとふたりで、彼の親族や近くで遺跡を発掘中の学生らに接触し、事情を探ることに…(文庫カバーより)


Redbones 捜査する側も被害者や事件関係者と古い知り合いだったり親戚だったりする、非常に狭い世界での犯罪を描いているのが個性的な〈シェトランド四重奏〉の第3章。
第1章は島に移り住んできた子持ち画家フラン・ハンターがメイン人物だったが、この章は恋人のジミー・ペレス警部にすっかりその座をとって変わられた。しかし、閉鎖的な島に根ざした犯罪を毎回扱うシリーズなので、流れとしてはこっちのほうが自然。

とても安定感があり、変わらず面白かった。サンディ刑事の初々しさ、自信のなさ、それを見守り必要なときは励ますペレス警部が良かった。こうなってくると、アン・クリーヴスの作品のもつ雰囲気はますますP・D・ジェイムズに似ていると思うのだけど、どうだろう。残念だったのは、サンディ刑事が前作ではどういうふうに描かれていたのかをもう忘れてしまっていたことだなあ。さぞかし頼りない刑事だったろうという気はするけど。


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『探偵稼業は運しだい』レジナルド・ヒル著/羽田詩津子訳
(PHP文芸文庫 2011年邦訳)

仕事を解雇され、やむなく私立探偵となった冴えない中年男、ジョー・シックススミス。口うるさい伯母に厳しく育てられ、いまだ独身。同居人は黒猫のホワイティ。無聊をかこつ彼のもとに、「一族の創設したゴルフ・クラブで不正をしたという疑いを晴らしてほしい」と、一族の跡継ぎが訪ねて来る。この相談が、まさか、こんなことになるなんて!…(文庫カバーより)

Roarofbutterflies 著者のヒルが「ダルジール&パスコーとはまったく違う主人公を描きたかった」と語っていたシリーズ。1作目と2作目はポケミスだったけれど翻訳が途絶えてしまい、最新作の5作目がPHP文庫から登場。しかし、原作も前作(4作目)から約10年を経て書かれたものなので、本当に久々なのだ。

ジョー・シックススミスはアフリカ系の元旋盤工。地元サッカーチームを愛する典型的なブルーカラー気質。イギリスの本格ミステリ小説というと探偵も上流階級というイメージが強く、まずはそこを裏切ってみたところが、設定から遊ぶヒルならではと言える。そのうえで、本作は、主人公とはまったく住む世界が異なる上流階級のセレブ紳士を依頼人として登場させ、愛好するスポーツ、着るもの、食べるもの、乗る車など、両者の隔たりを強調してみせてユーモアを醸す。

と、ここまで書いて、いまどきそんな小説面白いか?と自分でも思うのだけど、主人公をはじめ登場人物を多民族が暮らす現在に置き換えた以外は、ものすごくオーソドックスな英国ユーモア小説に仕上げているところがたぶんユニークなのだ。

原題は〈The Roar Of The Butterflies〉。P・G・ウッドハウスがゴルフを題材にした本の中で「ゴルファーは隣の草地で蝶が羽ばたく音にも集中力を狂わされることがある」と書いていることが題材になっている。ウッドハウスで自分が読んだのは『比類なきジーヴス』のみだけど、ヒルはウッドハウスのユーモアのテイストをかなり意識してこの小説を書いているのではないかしら。

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