« 2011年7月 | トップページ | 2011年9月 »

2011年8月

2011年8月28日 (日)

グラスゴー舞台の、ラストは痛快ミステリ 〜『扉の中』〜

『扉の中』デニーズ・ミーナ著/松下祥子訳
(ハヤカワ・ミステリ 1999年邦訳)

二日酔いの頭を抱えたモーリーンが目の端でとらえた鮮やかな赤色。彼女の自宅の居間には、幾重にも巻きつけられた紐が皮膚にくいこみ、頭がごろりと落ちてきそうなほど深く切りつけられた喉元から、身体中の血を噴き出して息絶えた恋人の無残な姿があった……過去の精神病歴が災いし、警察や家族から殺人犯と目された彼女は、嫌疑を晴らすため自ら辛い過去の記憶を手繰り寄せる…(裏表紙より)

Garnethill グラスゴー出身の女性作家のデビュー作で、英国推理作家協会賞最優秀処女長篇賞受賞。どこかで書評を見かけてかなり前に買ってあった本だが、なぜとっとと読まなかったのか。なるほど、これは面白い!

殺人の背景には、多くの犠牲者を出しながら表に出ることのなかった忌々しい事件があった。こういうことって、どこにでも潜在していていそうで恐ろしいな。
ミステリ小説としても読ませるが、それ以上に登場人物たちの生き生きとした日常の描写に引き寄せられる。過去の出来事の亡霊に怯え、エキセントリックな性格にすら思えた主人公モーリーンが、話が進むにつれて本来のたくましさを露呈していき、警察すらも欺く活躍を見せるのが頼もしい。女同士の青春友情小説という側面もあって、読後感がすがすがしかった。

あとがきに掲載されたインタビューで「プロットにはさまざまな倫理的ジレンマを盛りこんだ」と語る著者。主人公モーリーンの周辺だけみても、本人はアル中気味だし、殺された恋人とは不倫の関係だったし、弟は麻薬の売人だし、まあそれぞれ欠点だらけ。でもそういう人間観みたいなものに共感する。
大した根拠があるわけでもないけど、スコットランドの小説とは相性がいいかもしれないと改めて思った。他のも出たら必ず読むよ。


ウィンズロウ2作 〜『サトリ』『夜明けのパトロール』〜

最近、過眠症のような体調(いくら眠っても眠気が消えない、起きている時にもひんぱんに夢を見る)が続き、ブログを更新する気力もなくて。でも、本に敬意を払うために簡単な感想くらい書こうと自分に言い聞かせたら、少し力がわいた。溜まっているけど、少しずつ。


『サトリ』ドン・ウィンズロウ著/黒原敏行訳
(ハヤカワ・ノヴェルズ 2011年邦訳)

1951年東京、ニコライ・ヘルは巣鴨拘置所で服役中、CIA局員ハヴァフォードの訪問を受ける。ハヴァフォードは釈放と引き換えに、ある人物の暗殺を依頼。ニコライはフランスの武器商人を装うことになり、ソランジュという美しい女性から完全なフランス人になる訓練を受ける。やがてハヴァフォードから標的について明かされる。朝鮮戦争が始まり、中国とソ連の連携が深まることを警戒したアメリカは、中国で暗躍するKGB幹部を暗殺して互いを反目させようと企んだのだ。そして準備が整い、ニコライは北京に乗り込む…。(書籍カバーより抜粋)

Satori 日本的精神の真髄〈シブミ〉を会得した孤高の暗殺者ニコライ・ヘルは、いかにして暗殺者となったのか。トレヴェニアンの『シブミ』では省かれていたこの部分を、青春タッチの冒険小説も得意とするドン・ウィンズロウが小説化。

ジェームズ・ボンド風という感想を見かけたが、中国とベトナムを舞台にした異国趣味のスパイ活劇、美女の役回りなど、まったく同じことを思った。私が思い浮かべたのは昔、映画で見たそれだけど。

普通に面白く読んだが、細かなところで記憶に残るのはトレヴェニアンの小説のほう。オリジナルは強し。また、トレヴェニアンのほうが作家の個性を鮮明に感じるせいもある。ウィンズロウは以前は経歴に「アメリカ政府の対アフリカ諜報活動に従事」とあったけど、最近の本の著者紹介ではそこらへんは具体的に触れられていないみたい?


***************************


『夜明けのパトロール』ドン・ウィンズロウ著/中山宥訳
(角川文庫 2011年邦訳)

カリフォルニア州最南端、サンディエゴのパシフィックビーチ。探偵ブーン・ダニエルズは、夜明けのサーフィンをこよなく愛する。まわりには波乗り仲間 “ドーン・パトロール”5人の面々。20年ぶりの大波の到来にビーチの興奮が高まる中、新顔の美人弁護士補がブーンのもとを訪れた——仕事の依頼。短時間で解決するはずの行方不明者の捜索は困難を極め、ブーンの中の過去の亡霊を呼び覚ます…(文庫カバーより)

Dawnpatrol 日本では『サトリ』の次に出版されたものだから、その影響を探してしまったが(日系アメリカ人らが登場したりするもので)が、執筆順としてはそれより前。『フランキー・マシーンの冬』の次に書かれたもので、サンディエゴという舞台、サーフィンという題材が共通している。著者自身はニューヨーク出身だが、現在は南カリフォルニアに住んでいるそうで、この作品は新たなご当地小説シリーズになる。

“ドーン・パトロール”という言葉が、小説の中では、ブーンらサーフィン仲間の愛称であるとともに、ある卑劣な犯罪の隠語として登場する。終盤、その両方をシンクロさせてしまう描き方がエグいよ。2つの言葉の意味合いにギャップがありすぎてなんとも。個人的には『フランキー・マシーンの冬』のほうが好みだな。

でも、カリフォルニアのサーフィンの歴史や、サモア人やハワイ出身者などのオセアニア・コネクションの存在などに詳しいので、ちょっとした勉強をした気分になる。

あと、生まれながらのサーファーである主人公ブーンが、南カリフォルニアのサーフィンを“いかしたライフスタイル”の小道具に変えてしまった主犯として、ビーチ・ボーイズを何より恨んでいるのが面白い。もとい“ライフスタイル”という言葉そのものが嫌いなのだ。この点は大いに共感。ライフスタイルって、小金持ちに何かを売りつけるために考え出された言葉というイメージしかない。


« 2011年7月 | トップページ | 2011年9月 »

インデックス

無料ブログはココログ