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2011年5月

2011年5月15日 (日)

溜まっていた読書メモ 〜『黄昏に眠る秋』ほか〜

読んだ順なので下に行くほど印象が薄れていて感想もいい加減になっちゃた。


『黄昏に眠る秋』ヨハン・テオリン著/三角和代訳
(ハヤカワ・ミステリ 2011邦訳)

霧深いエーランド島で、幼い少年が消えた。母ユリアをはじめ、残された家族は自分を責めながら生きてきたが、二十数年後の秋、すべてが一変する。少年が事件当時に履いていたはずの靴が、祖父の元船長イェルロフのもとに送られてきたのだ。急遽帰郷したユリアは、疎遠だったイェルロフとぶつかりながらも、愛しい子の行方をともに追う…。(裏表紙より)

Skumtimmen 近年翻訳が増えている北欧ミステリ。舞台はスウェーデン南東のエーランド島。どこだ〜?とグーグルマップで島の形を見て、以前にテレビの世界遺産紹介番組で見たのをすぐに思い出した。しかし、畜産を生業とするのどかな島の印象が、不穏な序章でいきなり覆される。

周囲の大人が目を離したすきに塀を乗り越え、生まれて初めて一人で外の世界に冒険に出た少年が、深い霧で迷子になりそうになったとき、ある男に出くわす。男は島いちばんの資産家に生まれ、子供の頃から島の問題児として恐れられていた人物だった。

物語は、この男の半生を綴るパートがスパイスとなって、飽きさせない。そして、単純に思えた少年失踪事件の真相には、複数の人物が絡むあさましく生臭い背景があったことが明らかになっていく。

夏だけ賑わう北方の島という設定は、アン・クリーヴスのシェットランド4部作に似ているが(このエーランド島シリーズも春夏秋冬の4部作になるらしい)、地域性の取り入れ方はこちらのほうが若干上手と感じた。風土や歴史、過疎化などが単なる描写に終わらず、物語の密接な要素になっているところが見事。娘に負い目を感じており、シェーグレン症候群を患いながらも犯人を追いつめていく祖父もいい味を出している。

ということで、とても面白かった。スウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀新人賞と、英国推理作家協会賞最優秀新人賞も受賞しているが、納得だ。本格ミステリの大物作家誕生と言いたいくらい。


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『はいつくばって慈悲を乞え』ロジャー・スミス著/長野きよみ訳
(ハヤカワ文庫 2011年邦訳)

元モデルの美女ロクシーは夫を射殺した。すべてを強盗の仕業に見せかけようとするが、真相に勘づいたギャングにゆすられる羽目に陥る。偶然そこに現われた傭兵ビリーは、遺産の一部とひきかえにロクシーの護衛を買ってでる。しかし事件の周辺をかぎまわる野心的な刑事や、残虐な脱獄囚の思惑がからんだ末、地元のギャング団をまきこんだ壮絶な闘いがはじまる…。(文庫カバーより)

Wakeupdead 『血のケープタウン』でデビューした作家の2作目。舞台は同じ南アフリカ・ケープタウン。文庫の帯に「酷い、凄まじい、でも目が離せない!」とあったんだけど、ほんと、そのとおりなんだよ。

人間の尊厳を捨てた世界。残忍な出来事がいともあっさりと描かれ、そんな場面がいくつも折り重なって、命の軽さを加速させていく。ここに描かれているのは、世界最悪とされる犯罪都市の現実をベースにしているといわれても、想像してみることすらもはや不可能。息苦しさを感じる間もない(さすがに子供の虐待に関する部分は辛い)。小説自体は、読み終えて清々しさまで感じさせるのはどうしたものか。わずかな救いを残すからかもしれないが、何かの作用で、すごい小説に昇華している気配がある。

南ア伝統の呪術医サンゴマが、闇では今も死体などから切り取った人体の一部を薬(ムティ)として使っているという描写にはびっくりだ〜。


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『二流小説家』デイヴィッド・ゴードン著/青木千鶴訳
(ハヤカワ・ミステリ 2011年邦訳)

ハリーは冴えない中年作家。シリーズ物のミステリ、SF、ヴァンパイア小説の執筆で食いつないできたが、ガールフレンドには愛想を尽かされ、家庭教師をしている女子高生からも小馬鹿にされる始末だった。だがそんなハリーに大逆転のチャンスが。かつてニューヨークを震撼させた連続殺人鬼より告白本の執筆を依頼されたのだ…。(裏表紙より)

Serialist いつも「いい人だけど」で終わるタイプ、ぱっとしない中年作家の「ぼく」の、いったいどこが気にいったのか分からないが常にまとわりついて、世話を焼こうとする少女クレア。このクレアが「ぼく」以上に世情に長けていてしっかりもの。おマセさんなところが魅力的で、2人のやりとりが楽しい(翻訳がはまっている)。なんだか日本の軽めの小説や漫画などによくあるコンビだよな〜と思ったし、作風もサブカル系。

匿名作家ゆえに自分の書いてきたヴァンパイヤ小説や黒人探偵ミステリ、またはポルノ雑誌のSMコラムの熱狂的なファンから正体を隠すのに苦労するさまなどは、風刺を軽くきかせていて面白いが、特に深みはない。

著者はニューヨーク出身。映画、ファッション、ポルノ雑誌の編集などに携わってきた経歴をもつそうで、いくつかのエピソードや主人公の性格などに自身を反映させているのは容易に想像がつく。こちらはアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞ノミネート作。2作目以降が勝負でしょうか。


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『流刑の街』チャック・ホーガン著/加賀山卓朗訳
(ヴィレッジブックス 2011年邦訳)

ボストンの駐車場で夜間警備員として働く、若きイラク帰還兵メイヴン。ある晩、強盗に襲われた彼は、反撃のすえ相手を殺しかけてしまう。その翌日、メイヴンは一人の美しい女からある人物に連絡するよう伝言を受ける。メイヴンを待っていたのは元軍人だという謎めいた男ロイス。彼はメイヴンに自分のチームで働かないかと言ってきた。除隊後鬱屈した日々を送るメイヴンのような男たちを集め、麻薬組織を襲撃して街を浄化すること—それがロイスの“仕事”だった…。(文庫カバーより)

Devilsinexile 特定の都市に密着し、時代を反映した犯罪などを描く。こうした小説は一般的に「都市小説」と呼ばれるジャンルにあたるらしい(上記の『二流小説家』より)。ペレケーノスのワシントンDCや上記のロジャー・スミスのケープタウンもそうですかね。

この本もかなりハードな内容だったが、その後にスミスの『はいつくばって〜』を読んだら印象が薄れてしまった。面白いけれども、展開は読めるという点で従来通りのヒーロー小説かな。

さまざまな後遺症を抱え、平和な日常に馴染めず、また社会からも暗に拒否されて「負け犬」として生きざるを得ないイラク帰還兵たちを、さらに麻薬組織が食い物にしていくという話。主人公のメイヴンは元特殊部隊の能力を買われ、いきなり高給を手に入れる身になる一方で、置いてきぼりとなった友人のリッキーは戦場での怪我の後遺症に苦しみ、痛みを忘れるために麻薬に溺れる。この2人の友情の行方がどうなるか、そこが楽しみで読んだ。


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『氷姫 エリカ&パトリック事件簿』カミラ・レックバリ著/原邦史朗訳
(集英社文庫 2009年邦訳)

海辺の古い邸で凍った美しい女の全裸死体が見つかり、小さな町を震撼させた。被害者が少女時代の親友でもあった作家エリカは、幼馴染の刑事パトリックと共に捜査に関わることに。20年以上疎遠だった親友の半生を辿ると、恐るべき素顔が覗く。画家、漁師、富豪……町の複雑な人間模様と風土に封印された衝撃の過去が次々明らかになり、更に驚愕の…。(文庫カバーより)

Isprinsessan これも北欧のミステリ作家のデビュー作。このエリカ&パトリック・シリーズは欧州での大ヒットを受けて、すでに3作目まで翻訳されている。舞台はスウェーデン南西の、海辺の小さなリゾート地フィエルバッカ。故郷に戻ってきた女性が主人公だったりするなど、いくつかの共通項があるってだけで、『黄昏に眠る秋』を読んだあとでは印象がリセットされてしまい、事件の真相がどんなだったかまで忘れてしまった。まずいよ自分。

どちらかというと『黄昏に〜』のほうが好みだが、ロマンスを取り入れたりして主人公を身近に感じさせるぶん、こっちのほうが一般には受けがいいんだろうなと思う。次も読んでみる予定。


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『スリー・パインズ村の不思議な事件』ルイーズ・ペニー著/長野きよみ訳
(ランダムハウス講談社文庫 2008年邦訳)

家に鍵をかける習慣さえない、ケベック州の平和な小村スリー・パインズ。感謝祭の週末の朝、森の中で老婦人の死体が発見された。死因は矢を胸に受けたと見える傷。一見、ハンターの誤射による事故死に思えた。だが、凶器の矢がどこにも見当たらないことから、ガマシュ警部は顔見知りによる殺人事件として捜査を始めた…。(文庫カバーより)

Stilllife 英国推理作家協会最優秀処女長篇賞、アンソニー賞最優秀新人賞、バリー賞最優秀新人賞、ディリス賞、アーサー・エリス賞最優秀新人賞・・・華々しい。カナダのミステリ作家のデビュー作。このガマシュ警部シリーズは、アガサ・クリスティなど古典的な本格ミステリの雰囲気を受け継ぐシリーズ作品と言われているようだ。

田舎が舞台だけど、画家や詩人、ビストロを経営するゲイのカップル、書店を経営する黒人女性など、静かな環境を求めて移り住んできたハイブローな人たちが主な登場人物で、作風も知的な感じ。自分とはちょっと感性が違っていて入り込みにくく、読み終えるまでに時間がかかってしまったが、殺人事件の真相は最後まで予想がつかず、驚いた。

翻訳者が上記の『はいつくばって〜』と同じではないか! 対応範囲が広い! 


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『ミノタウロス』佐藤亜紀
(2007年刊行 講談社文庫)

帝政ロシア崩壊直後のウクライナ地方、ミハイロフカ。成り上がり地主の小倅、ヴァシリ・ペトローヴィチは、人を殺して故郷を蹴り出て、同じような流れ者たちと悪の限りを尽くしながら狂奔する。発表されるやいなや嵐のような賞賛を巻き起こしたピカレスクロマンの傑作。第29回吉川英治文学新人賞受賞。(文庫カバーより)

Minotaur 最初に20〜30ページほど読んで、内容がさっぱり頭に入ってこず放っておいた。しばらくして再度、最初から挑戦したら、あれ、面白いじゃないか。その後、4分の3あたりまでは良かった。けど、主人公のことをはじめ、何を表現したかったのか、自分にはよく把握できないまま終わってしまった。

こういう小説はもっともっと長編で、枝葉が充実しているといいと思うのだけど、そうしないと人間が浮き上がってこない気がするのだけど、日本人作家がこのようなマイナーな地域の歴史を題材にするには限界があるだろうか。


2011年5月 8日 (日)

傍迷惑な一家 〜「キッズ・オールライト」ほか

ブログ更新しなきゃと思いながら更新しないでいると、結局はパソコンの前にじりじりと座っている時間ばかりが増えて、ずぼらなダメ人間の生活にはまっていく。


「ファンタスティック Mr.FOX」(2009年 アメリカ/イギリス)

Fantasticmrfox ウェス・アンダーソン監督の作品は、美術的なセンスはもちろん、題材は毒を含んでひねりがきいているようで、実はとてもピュアなもの——大人が忘れてしまっている天真爛漫さとかナイーブさとか——に接したような気持ちになるのがたまらなく好き。このロアルド・ダール原作のコマ撮りアニメファンタジーもその監督らしさがしっかり出ていて良かった。原作は読んでいないが、アンダーソンの多くの作品と同様、父親と息子の関係が強調されてる部分はあるのかな。

映画「ライフ・アクアティック」で子供がビニール袋に入った虹色のタツノオトシゴに見入る場面と、このアニメの中で、唯一人間とは距離を置いて生きるオオカミが登場する場面とが、印象として繋がっている。

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「トゥルー・グリット」(2010年 アメリカ)

Truegrit ジョン・ウェイン主演の西部劇「勇気ある追跡」の原作となった小説を、コーエン兄弟が再映画化。コーエン兄弟独特のユーモアが、少女が主役の物語では相性が悪いというか、上滑りしている気がしたが、酔いどれ保安官を演じたジェフ・ブリッジスのための映画だったんだと後で気づいた。途中、退屈な場面もあったけれど、保安官が少女を抱えて走る場面にぜんぶ持って行かれた。

あともう一つ、後日談に登場する、タフな少女が大人になった姿が気に入った。これが普通のマッチョ映画だったら、ああいう雰囲気をもった女優は絶対使わないだろうと思い、とても可笑しかった。
ジョシュ・ブローリンやバリー・ペッパーも出番は少ないけれど、役に馴染んでいて良かった。一方で、マット・デイモンのコミカルな演技が、私にはどうにもわざとらしく見えて苦手。

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「キッズ・オールライト」(2010年 アメリカ)

Kidsareallright 女性の同性愛カップル(アネット・ベニング、ジュリアン・ムーア)と、人工授精によって授かった2人の子供たちとの家族ドラマ。ほろっとくるヒューマンコメディに落ち着くと思ったら甘かった。途中までは気軽な気持ちで見ていたが、精子提供した男性(マーク・ラファロ)を勝手に巻き込んでおきながら一方的に断罪し、その後に何のフォローもなく終わってしまったもんだから、相当に手厳しいなと思った。

同性愛カップルにも父性と母性があるようで、ベニングが父性のほうなのだが、演技も男勝りでかなり真面目に演じている。ほかの家族がラファロと親しくなっていくにつれて、自分の存在が薄れていくような焦りや嫉妬を感じたのだろうか。だんだんにそれが威圧感となって伝わってきて怖い! だからラファロに対する一家の拒絶は、それぞれが思いやっての行動というより、ベニングに怯えての行動に見えてしまったほどだ。
しかし、一方で、世間的には不自然とされる同性カップルの家族だから、家庭を築くことへの努力も半端じゃなかっただろうし、侵入者をあそこまできっぱり拒絶する気負いを持つのはむしろ当然かもしれない。家族の不倫相手とその後、何事もなかったように付き合っていくというのも変だし。
でも、この映画、やっぱりもやもやが残る。監督のリサ・チョロデンコも同性愛者だろうって分かってしまうのが、いいのか悪いのか、この映画の場合は分からない。

出演者の中ではミア・ワシコウスカが、いかにも素直で賢そうな娘という感じで良かった。使われてる音楽にもときどきはっとさせられた。


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