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2011年2月 7日 (月)

中部ヨークシャーのアンタッチャブルとか! 〜『午前零時のフーガ』〜

ダルジール&パスコー・シリーズ長編22作目。

『午前零時のフーガ』レジナルド・ヒル著/松下祥子訳
(ハヤカワ・ミステリ 2011年邦訳)

ダルジール警視は周囲の反対を押し切って職場に復帰した。しかし体調はすぐれず、仕事の勘も戻らない。そんなある日、古い知り合いの警視長パーディーから、7年前に失踪した部下の刑事について調べて欲しいと依頼される。パーディーは部下の死亡推定を前提に、その妻と再婚するつもりだった。だが最近妻のもとに夫と思われる人物の写真が掲載された雑誌が送られてきたのだった。ダルジールは非公式に捜査をはじめるが、背後には危険な影がうごめく…(裏表紙より)

Midnightfugue ヒルは毎回趣向を凝らしてくる。本作は24時間もの。そのためか、いつもよりスピーディで、作風も少し若返ったふうもあるが、中身は濃厚だ! この1冊に、たった1日の出来事の中に、いったい何人の人生が描かれていることか。73歳にしてこれだけ入り組んだプロットの作品を整然と書き上げられる能力に感嘆。そして、ところどころニヤリとさせられるオチをつけてくる文章も相変わらず楽しい。至福の読書タイム!

前から言っているが、ヒルは気丈な女たちを描かせると実にうまい。失踪した刑事の妻の苦悩については、パトリック・ルエル名義の作品を思い出させた。最後の章は、ヒル作品としては異色の展開で、読者へのサービスとして付けられたオマケみたいなものかな。この章がないと、若い読者にはモヤモヤが強く残ってしまうだろう。
長く続くシリーズ作品だと、途中から読むのに抵抗を感じる人も多いが、本作は映画のような展開で取っつきやすい。初めて読む人にも十分に楽しめる作品になっていると思う。入門編としてぜひおすすめしたいなあ。


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化学大好き少女探偵フレーヴィア・シリーズ第2弾。

『人形遣いと絞首台』アラン・ブラッドリー著/古賀弥生訳
(創元推理文庫 2010年邦訳)

教会の墓地で、11歳の少女フレーヴィアは、テレビで有名な人形遣いルパートとアシスタントのニアラに出会った。ヴァンが壊れてしまったのに、修理するお金がないらしい。そこで、デンウィン司祭の提案で、教会区ホールで『ジャックと豆の木』を上演してもらうことになったんだけど、豆の木が切られたときに降ってきたのは巨人じゃなくて…。(文庫扉より)

Hangmansbag こちらも70歳台の作家による、ほのぼの田園ミステリ。
フレーヴィアちゃんが周囲の大人をなめまくりなところが楽しい。住居侵入などもしほうだい笑
さらに、前作『パイは小さな秘密を運ぶ』で死体を発見して以来、死に魅せられるようになり「とりわけ腐敗という化学現象にはうっとりしている」とのたまう11歳。無敵!




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昨年のベストミステリにランクインしていた本。サラエボの国立博物館所蔵の、実在する稀覯本を題材にした歴史フィクション。

『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックス著/森嶋マリ訳
(武田ランダムハウスジャパン 2010年邦訳)

Peopleofthebook 長い間ゆくえが知れなかった「サラエボ・ハガダー」が発見され、一般展示に先立ち、オーストラリア人のハンナのもとに古書鑑定の依頼が舞い込む。それは、500年前にスペインで作られた美しい挿絵入りのユダヤ教の書。ハンナはページの間に挟まっていた小さな遺物や羊皮紙の染みから、古書がたどってきた数奇な運命をひもといていく。絵画的表現がユダヤ教の戒律に背くとされていた時代になぜこのような細密画で彩られた本が作られたのか、異端審問やユダヤ追放などの迫害の歴史をどうやって乗り越えられたのか…。

ハンナを主人公にした章と、ナチス占領下のサラエボから19世紀末のウィーン、17世紀のヴェネチア、15世紀のタラゴナ、セビリアまでさかのぼって古書を手にしてきた人々の運命を綴った章から成り立つ本書。ハンナの私生活のあれやこれやが絡んでくる現代のパートより、後者のほうがだんぜん面白く、短篇集のような風合いがある。しかし、なぜミステリ小説として評価されたんだろう? ちっともミステリじゃないぞ。まんまと騙されたかな。

本書を通じて強調されるのが、かつてスペインには宗教の異なる人々が共存していたコンビベンシアと呼ばれる時代があり、この書物はその時代の遺産ということ。その趣旨はよしとして、個人的には、小説半ばでハンナが自分の出自を知り、実はユダヤ系だったと分かるところでだいぶ鼻白んだ。そんな設定がなければ、ハンナが500年前の挿絵画家と改めて対面する場面はもっと感動的だったと思うのだが。


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コメント

ハヤカワ・ミステリの装丁を担当された方が亡くなられたそうですね。新しいデザインも悪くないけど、なんだか寂しい気もします。頻繁に読んでる訳じゃないですが・・・。

どうも作品の話じゃなくて済みませんでした。

>k.m.joeさん
そうなんですよ。装丁の勝呂忠さんが昨年亡くなって、でもその後に出た数冊の表紙はまだ勝呂さんのものだったので、本当にぎりぎりまで仕事を続けていたのではないかと想像しました。
寂しいですけど、表紙が変わったことで、ポケミスに対するというイメージも変わって、新しい読者がつけばいいなと思います。

文庫より高級感があって、でも単行本ほどかしこまった感じがしないポケミスのスタイルが好きです。

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