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2010年12月16日 (木)

恐怖の正体がすりかわる 〜エアーズ家の没落〜

『エアーズ家の没落』サラ・ウォーターズ著/中村有希訳
(創元推理文庫 2010年邦訳)

かつて隆盛を極めながらも、第二次世界大戦終了後まもない今日では、広壮なハンドレッズ領主館に閉じこもって暮らすエアーズ家の人々。かねてから彼らと屋敷に憧憬を抱いていたファラデー医師は、往診をきっかけに知遇を得、次第に親交を深めていく。その一方、続発する小さな“異変”が、館を不穏な空気で満たしていき…。(文庫カバーより)


Littlestranger 家財や土地を売ってなんとか食いつないでいる名家の未亡人と、決して美人ではない娘、戦争での傷害を抱えた息子。大きな屋敷で明かりや暖房も切り詰める哀れな生活に追い打ちをかけるように、屋敷の中では不可解な出来事が相次いで起き、一家を不幸の底に追いやっていく・・・という内容(上のあらすじのままですけど)。屋敷での出来事はよくある心霊現象の類のようだし、人物や英国社会の描写が丁寧ではあるが、結局はオーソドックスなホラーものに落ち着くのではないかと思った。が、そうではなかった。

小説の語り手であるファラデーは医師ということもあり、超常現象など信じず、一家が体験したことはすべて心的ストレスが原因と決めつけて譲らない。そんなやりとりが長々と繰り返される。進展のなさにいい加減にじりじりしてくる。しかし、途中から、実はこの小説が描こうとしている本当の恐怖は、屋敷以外のところに潜んでいるのではないかという気がしてきて落ち着かなくなる。


この作品は、読み手によって何が恐怖かを自由に解釈できるように書かれた、案外と斬新なホラー小説ではなかろうか。オカルト系にさほど興味のない私も、読み終えて思わずうなった。若干ネタばれになるけど、私が主人公のファラデー医師よりも、一家の、特に娘のキャロライン側に立って物語を読ませられていたことによって、下巻の後半の展開こそが不快さと嫌な予感がいっぱいで、ハラハラさせられた。

サラ・ウォーターズは貴族の女性や、それに仕えるメイドを描かせるとうまいな〜。さすが百合小説の人だ(本作にその要素はなし)。原題は「The Little Stranger」だけど、邦題もなかなか。この人の作風に合っていると思われる。


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