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2010年9月12日 (日)

「コーヒーでもどうだ?」 〜『夢果つる街』〜

『夢果つる街』トレヴェニアン著/北村太郎訳
(角川文庫 1988年邦訳)

各国の移民たちが破れた夢を抱えて生きる吹き溜まりの街、ザ・メイン。この街を知り尽くすラポワント警部補は、ある晩、見知らぬ男の奇妙な死体を発見する。犯罪の絶えないこの街で、嫌疑をかけられる人間は山ほどいたが、街をよく知るラポワントには彼らが犯人でないことは分かっていた。難しい捜査の末に浮かび上がる意外な真相とは…(文庫裏表紙より)


Themain かつてフランス系移民とイギリス系移民が大通りを隔てて住み着いた街。その後、さまざまな国籍を持つ移民が流れ込んで境界はあいまいになり小さなゲットーがいくつも生まれ、しかし、やがて成功した移民や二世は街を去り、老人と負け犬ばかりが残った——カナダ・モントリオールに実在する街を舞台にした小説だが、ザ・メインという個性のない街の名前のせいか、1976年に書かれた古めの作品のせいか、ずっと架空の街を描いた物語と思いこんで読んでいた。

その原因は主人公のラポワント警部補の人物造形にもある。新婚当時に妻を亡くし、以来ずっと独り。ときどき妻と2人の娘とともに郊外の庭付きの家に幸せに暮らしている自分を想像するのが慰めとなっている。街の治安は自分が維持しているとの誇りを持っているが、上司からは古くさいタイプの警官として煙たがられている。さらに彼は心臓の近くに手術不可能な動脈瘤を抱え、いつそれが破裂してぽっくりいっても不思議ではないと医者から宣告されている。舞台といい、主人公といい、ハードボイルドな雰囲気を醸し出すお膳立てが揃いすぎているのだ。

でも、それがとても心地いいんだよ〜、この小説の場合は。 『夢果つる街』という邦題も、気づいたときには冷徹さと自制心で武装してきたタフな心を見失い、老いに向かって加速している主人公の心情とマッチしていてとても良い。あらためて思ったのは、街とそこに暮らす人々の営みを描くのに、警官を主人公にした小説はうってつけということだ(ただし古いタイプの)。私自身、警察小説のそういうところに一番魅力を感じているので、毎度似通ったストーリーにもかかわらず、飽かずに読めるのだと思う。


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コメント

トレヴェニアンはすべての作品がまったく違うタイプの作品だけど、私みんな大好きです。「アイガー・サンクション」とか「シブミ」とか、もう最高です。(ヒメヒカゲさんが読むタイプの本ではないかもしれないけど・・・)

>Djangoさん
トレヴェニアンは日本の古い文化が好きと後書きに書いてありましたけど、これなんか日本の時代小説バージョンを作っても違和感ないんじゃない?と思いましたよ。「シブミ」のほうも読んでみますかね。

それからDjangoさんのブログにあった『ベルファストの12人の亡霊』買いました。今月中には読む予定です。

(◎´∀`)ノひめさん、こんばんは♪

ひめさんのレビューを読んで
さっそく注文♪

そーいや、今妹が「ミレニアム」シリーズ(計六冊・・って・・)
を読んでいるんですが
「なんかさあ、もう日本のミステリとか読めないよね?」と言ってました。
わたしも、最近同じように感じてて。
だって~
日本のミステリってせこいんだもーん( ̄ー+ ̄)
(あ、もちろん良い作品もあるけれども。。)

あと、わたし日本の(特に女の人の)自分の感性がえんえん書いてある小説も苦手です。。

今は阿部和重の「シンセミア上・下」を読み直しています。
(わーんグロテスク~泣)

マキより(はあと)

マキさん、こんばんは。

「ミレニアム」は文字小さくして3冊に収めて欲しいよ。
でも、文庫になっても冊数は変わらないんだろうな。
いま、本はやめて映画版を先に見てしまおうかと迷い中です。

日本のミステリはあまり読んでいないのでいい加減なことしか言えないけど、
ミステリ小説といわゆる純文学は別もので、
でも翻訳ものはそういうジャンル分けは無意味なものが多いイメージです。
確かに日本のミステリは読んで虚しくなるものが多くて
あまり読まなくなった気がするなあ。

>あと、わたし日本の(特に女の人の)自分の感性がえんえん書いてある小説も苦手です。

私も。「どうでもいい」とイライラしてくるかも笑
なんか自分の心の中にしか興味のない小説、多すぎませんか。
あと、どうして女はドロドロしてたりメンヘラでないといけないのかとか、
要するに生理的にダメなのがたまにあります。

阿部和重は2冊読んだきりだけど、「ピストルズ」は題材的にも面白そうだね。

ひめさーん、こんばんは(◎´∀`)ノ

本、届きました!
まだ読んではいないんですが
これから楽しみです♪

>確かに日本のミステリは読んで虚しくなるものが多くて
>あまり読まなくなった気がするなあ。

同感です。
平ったい人間ばかりが、常用句を駆使して
薄っぺらい物語ばかり・・(泣)

いや、わたしだって小学生の頃は
図書館で借りて読んでましたよ、赤川次郎の三毛猫シリーズとか。

最近、嫌なのが
なんでも心の闇に始末を押し付ける展開です。


>なんか自分の心の中にしか興味のない小説、多すぎませんか。

わかる~
それ、わたしも声を大にしていいたい。
はんちくな私小説?みたいなものにはうんざりです。

心が病んでる私はむなしいのよ、あなたにはわからないでしょうね・・
って知るかっ、んなもん。
みんな苦しみをしっていて
悲しみのそばで呼吸しているんです。
(こんな自分が大嫌い)と言いながら
切ない私に自己中毒してるんだもんっっっ
読めるか、そんな本っっ!

あ、熱くなってしまいました。
まあ、わたしもりっばなメンヘル女の一人ですから
つい己の病んだ部分が刺激されちゃって
攻撃的に読んでしまうんでしょうけど・・
って、さすがにそっち系は身銭切ろうとは思わないけど。。。

今、片桐はいりの『もぎりよ 今夜も有難う』を(も)読んでいますが、いいかも。
もしかして、ひめさんも好きなタイプの本かも・・・。
(外したらごめりんこヽ(´▽`)/)

マキより(はあと)


>マキノコさん
こんばんは。
スイス帰りで半日爆睡してしまいました。明日からの時差ぼけが心配。

>最近、嫌なのがなんでも心の闇に始末を押し付ける展開です。

これ本当に多いよね。文庫本のあらすじを読むだけでパスしてます。人間を平べったくしか描いていない物語で、これをやるから受けつけません。
だったらテレビで2時間ドラマでも見るよと思うもん。

あと、トリックがメインな「本格ミステリ」というやつも、時間を無駄にした〜と思うことが多いかな。


勝手なイメージですが、日本のミステリは上記2タイプ以外を探すのが、実は難しかったりしてね。
片桐はいりか、チェックしてみます。

ひめさーんこんにちは♪

複数読みの悪い癖が邪魔して、時間が少しかかりましたが、とってもよかった!最後はジンとしました。 (またその余韻がいい〜)

読んでる最中は
母親に
「おまえはひよっこだっ!」とか(こんなセリフないのに)警部補になりきり言いまくって嫌がれてました\(^〜^)/

本当によかったので
次は親父にまわします!
ひめさん、ありがとう。

マキより(はあと)

>マキさん こんにちは。
最近パソコン立ち上げても、自分のブログをチェックし忘れるし…。
気づかずにゴメン。

え、病院ですか? 通院ならいいけど。

この小説、安定剤みたいなところあるでしょ?
心が病んでいる小説と比べると、真っ当さが際立つ気がします。

「おまえはひよっこだっ!」・・・分かるわ、その感じ笑
というか、マキさんとこの家族関係が面白い(゚▽゚*)

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