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2010年8月 1日 (日)

って、有用植物レベルかい! 〜『素粒子』〜

いつもは行かない書店に行ったら、いつもは目に入ってこない本が目立つところに置いてあり、買ってきた1冊。

『素粒子』ミシェル・ウエルベック著/野崎歓訳
(ちくま文庫)

文学青年くずれの国語教師ブリュノ、ノーベル賞クラスの分子生物学者ミシェル——捨てられた異父兄弟の二つの人生をたどり、希薄で怠惰な現代世界の一面を透明なタッチで描き上げる。充溢する官能、悲哀と絶望の果てのペーソスが胸を刺す近年最大の話題作…(文庫裏表紙より)


Elementaires 生き物はやがて老いて死ぬ。自分(人間)もそうだと実感を持って感じ始めるのは平均的に40歳前後くらいかな。精神的な若さと老いていく肉体のギャップ、自分はまだ何もやっていない、こんな人生を送るはずじゃなかった、残された時間はあとどのくらいか、などと考えている世代が読むと、たまらなく切ない小説だと思う。

しかし、最後のうっちゃりにはびっくりだわ。弟ミシェルがいずれ何か大きなことをやらかすのは予告されていたのだが、こんなブラックユーモアな結末が待っていようとは。おまけに、こんなふうにユーモアとともにこの物語を受け止めるような態度も最後には打ち砕かれるのが人生さ、と釘を刺すのを忘れない。へこむ笑

あとがきによると、著者は農業技術学校の出身という。てことは、この最後の展開は、人類の有用植物開発の歴史が土台になっているのだろう。人間と植物を同レベルで俯瞰する発想が、フランス人らしいのではないかと思う。

肉体的な死から逃れられないことが、今日の人類の抱えるさまざまな苦しみの根源。弟ミシェルはその苦しみを絶つ方法を見つけることで、アナベルの愛に彼なりの誠意をもって応えたんだと美しく解釈しておく。


追記。
それにしても皮肉だ。最後に姿を見せる語り手は、それまでの人類にとって有用な特性を備えているのであって、しかし、その人類は死に絶える前提であること。さらに、新種の彼らは「苦しみ」を感じないのかどうかという疑問も残る。「人間の観点から言えば幸福」とか「旧人類の目から見れば楽園」という言い回しに、新たな絶望が広がっている気配を感じなくもない。


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