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2010年8月29日 (日)

たまっていた読書メモ

比較的最近出たミステリー系ばかり(いつもながら)。


『血のケープタウン』ロジャー・スミス著/長野きよみ訳
(ハヤカワ文庫 2010年邦訳)

銀行強盗で指名手配されたジャックは、妻子とともにアメリカから南ア・ケープタウンへ逃亡する。だが、ある夜自宅に押し入った強盗を殺した彼は再び自分が破滅の罠に落ちたことを悟る。その強盗にたかっていた悪徳警官に目をつけられてしまったのだ。事件を目撃した元ギャングの夜警や悪徳警官を追う内部捜査官らを巻き込み、男たちの運命は破局へ向かい走り出す…(文庫裏表紙より)


Mixblood南アフリカの作家が描くノワール小説。ジャックが再出発の地としてよりによって犯罪と隣り合わせのケープタウンを選ぶところが(アメリカ人らしく?)間抜けというか大ざっぱなのだが、作家が在住の地とあって、おそらくここに書かれていることは想像する以上にリアルなんだろう。ということで、アパルトヘイト廃止後の無秩序が残る南アという舞台の目新しさと、ジャック以外の登場人物たちのキャラクターが面白かった。ジャックはなんというか、矛盾だらけで、そのあたりもアメリカ人らしいかもしれないね。

最も醜悪に描かれるのが街を牛耳る白人警官で、最も善人ぽく描かれるのが自由を得るためにギャング一味の殺し屋から足を洗った黒人の夜警というのは、エンタメ小説としてはまずは鉄則だ。そして、その夜警も、またエリート黒人の内部捜査官も、何か一つ行きすぎれば狂気に転びそうな危うさを秘めているのが良い。フィリップ・ノイス監督で映画化が予定されていて、その映画では内部捜査官の視線で描かれるのかな、もしかして。


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『音もなく少女は』ボストン・テラン著/田口俊樹訳
(文春文庫 2010年邦訳)

原題は『Woman』。生まれつき聾唖の娘イヴ、麻薬売人の夫の暴力に怯えながらも信仰心から離婚はせずにイブの将来の幸せだけを案じる母クラリッサ、ナチスの断種法の被害者で、若き日に最愛の人とともに子宮も奪われたフラン。そしてイブの恋人の妹で、やはり犯罪者の実父につきまとわれる聾者の少女ミミ・・・NYブロンクスを舞台に、辛い経験を共有しあい互いの愛情を深めていきながら、虐げる者たちへの抵抗を試みる3世代の女たち。しかしやがて追い詰められ、男たちが創り上げてきたこの世の不公平に対する怒りを爆発させる…。


Womanこんなふうに書くと、スカッと感が味わえる結末を期待してしまうが、プロローグを読むだけでそうじゃないと分かる。読後に至っても絶望に近い憂鬱しか感じない。
ボストン・テランを読むのはミステリー小説として評判になった『神は銃弾』以来になるが、この小説は先へ読み進んでも、意外な展開に乏しく、もちろん謎解きの楽しみもない。弱き者=なんらかのハンディを持った女たちの真面目で善良な部分ばかりが強調されているのも重苦しい要因の一つ。気を紛らわす要素は、イヴがカメラマンとしての才能を開花させていくところくらい。
この閉塞感は相当なもの。題材は良いのかもしれないけれど、小説そのものが生真面目すぎて私にはトゥーマッチであった。しかしそれがこの作家の持ち味なのだろう。


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『警視の孤独』デボラ・クロンビー著/西田佳子訳
(講談社文庫 2010年邦訳)

テムズ川沿いに建つ、大物政治家所有のヴィクトリア時代の建物が放火され、焼け跡から女性の殺人死体が見つかる。若き女性消防士の協力のもと、警視キンケイドとパートナーのジェマは、被害者の身元を特定しようとするが、候補者が何人も浮かぶ事態に…。


Inadarkhouse_2 警視キンケイド・シリーズは本作で10作目になるそうだが、ずいぶん前に1作しか読んでいない。ストーリーは悪くないけど、事件と関係ないところの、実質夫婦のキンケイドとジェマの家庭の問題や、男女間のやりとりが出てくると途端に薄っぺらくなる気がする。人物の思考回路が生理的に受けつけなくて、途中で投げ出したくなったことも何度か。
著者のシリーズの登場人物たちに対する思い入れが過ぎるんじゃないかという気もして、この巻だけ読んでも、キンケイド警視がどんなタイプの男性なのかさっぱり掴めない。邦題も意味不明……辛口ですみません。でも、このタイトルに釣られ、裏切られた感が残るんだよなあ。


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