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2010年7月

2010年7月29日 (木)

井戸の中の首無し死体と幽霊船 〜『蛇、もっとも禍し』〜

長編3冊、短篇集2冊が邦訳で出ている修道女フィデルマ・シリーズ。これは長編の最新刊(他のシリーズ作品は未読)。

『蛇、もっとも禍し』ピーター・トレイメン著/甲斐萬里江訳
(創元推理文庫 2009年邦訳)

女子修道院で、頭部のない若い女性の死体が見つかった。腕に結びつけられた木片には、アイルランドの古い文字オガムが刻まれ、掌には十字架を握りしめていた。事件を調査すべく海路修道院に向かう途中、フィデルマは乗組員がいきなり消え失せたかのように無人で漂う大型船に遭遇、船内で思いもよらぬ物を発見する。王の妹にして弁護士、美貌の修道女フィデルマの推理が冴える…(文庫裏表紙より)


Subtleserpent 構成はオーソドックスな本格ミステリだが、7世紀の、それもアイルランドが舞台というのが珍しい。この時代までの修道院は男女はっきり分かれておらず、修道女と修道士が結婚して子供をもうけることが認められていたというのは、まったく知らなかったなあ。アイルランドにおいては地位や権利に男女差なく、なかでもヒロインのシスター・フィデルマは法廷弁護士であり、裁判官としての資格も持ち、でもってアイルランド五王国の一つ、モアン(マンスター)国の姫の生まれという、まだ若くして、彼女に逆らうのは愚か者くらいという立場の女性なのだ。

あとがきにもあったが、スーパーウーマンすぎて、私も主人公にそれほど魅力を感じなかったが、著者はケルト研究の権威として知られる人で、アイルランドの土着文化と結びついた、ローマから見たら辺境の地に根づいたキリスト教の話としてはまあまあ面白かった。


おそらくアイルランドの古い歴史知識なんて大抵の日本人にはちんぷんかんぷんだろうとの配慮もあり、歴史的背景の訳註がたっぷり巻末に添えられているのはうれしいが、逆に専門的になりすぎて、読む勢いを削いでしまうのが難点。最初のうちは付け合わせながら読んでいたが、途中からやめてしまった。でも、背景はなんとなく察せられるし、ストーリー理解にはまったく問題なかったと思いますよ。


2010年7月26日 (月)

ハードボイルドSF 〜「レポゼッション・メン」〜

「レポゼッション・メン」(2010年 アメリカ)
★★★★

人工臓器の進歩で延命が可能となった近未来。しかし、人工臓器は高額なため、人々は製造元のユニオン社が用意する高利のローンを組まなければならなかった。そしてひとたび滞納すれば、ユニオン社が送り込む回収人“レポメン”によって、否応なしに人工臓器を回収される非情な現実が待っていた。レミー(ジュード・ロウ)とその相棒ジェイク(フォレスト・ウィッテカー)は、そんなユニオン社の中でも指折りのレポメン…。(allcinemaより)


(以下、ネタバレ気味)

Repomen 題材はサブプライムローン詐欺を思わせて今日的だが、ストーリーやセットなどは30年40年前のSF映画をみたいだった。だからつまらないというのではなくて、原作小説(エリック・ガルシア著『レポメン』)の作風が、読んでいなくても手に取るように分かる点が、個人的にはニヤニヤしながら観られて楽しかった。要するに、SFを借りた男のハードボイルド・ロマンなんだと思う。物語に甘美で退廃の要素をつけたすのが、音楽のために悪魔と取引した歌姫の話なんてグッとくるじゃない?(私は男か?)

この映画、中盤から作風が変わってくるのがポイント。観ながらも徐々に違和感がふくらんでいく。それには理由があって、序盤でちゃんとヒントは与えられているのだが、騙された。ヒントがあったので大きな驚きはないが、余韻はしっかり尾を引く。
ジュード・ロウが渋めでかっこよく、堂々の主役をはっていた。そしてフォレスト・ウィッテカーについては、いまだ「クライング・ゲーム」のイメージが抜けません。というか、この映画を観て思い出したのかも。


2010年7月19日 (月)

長編ブラックユーモア小説 〜『ウサギ料理は殺しの味』〜

『ウサギ料理は殺しの味』ピエール・シニアック著/藤田宜永訳
(創元推理文庫 2009年)

フランスの田舎町で起きた連続女性絞殺事件。たまたま町を通りがかった元刑事の探偵事務所調査員が、ほんの好奇心から調査に乗り出す。やがて分かったのは、町のレストランで狩人風ウサギ料理が出された木曜日の晩に限って殺人が起きるということ…。


Femmesblafardes 若干ネタ晴らしをしてしまうと、町には個性的な面々がいて、彼ら彼女らの生活習慣が風が吹けば桶屋が儲かる式につながっているのが、殺人事件を招くからくり。しかし、この小説の本当の持ち味が発揮されるのは、そのからくりが分かり事件も落着した後のパート。

元は中公文庫から1985年に刊行された仏ミステリ。再刊のタイミングや邦題などからすると『麗しのオルタンス』の次を狙ったのだろうか。あっちはネコ好きもお墨付きを与える愛らしいネコ、こっちは狩りで仕留められたのちに調理されたウサギしか出てこない点で、結びつけるには無理があるけど…。その代わり、美食や性欲ネタが豊富に入っているところがフランスらしい。もちろんブラックユーモアのセンスもどっぷりフランス。ブラックユーモア小説というと、昔はローラン・トポール、ボリス・ヴィアン、イギリスのロアルド・ダールとかけっこう好きで読んでいたのでどこか懐かしい感じもした。


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こちらは1952年に書かれたアメリカ・ノワール小説の2005年邦訳版。マイケル・ウィンターボトム監督で映画化と聞き、積ん読してあったことを思い出して読む。

『おれの中の殺し屋』ジム・トンプソン著/三川基好訳
(扶桑社ミステリー 2005年)

テキサスの田舎町のしがない保安官助手ルー・フォード。愚か者をよそおう彼の中には、実は危険な殺し屋がひそんでいた。長年抑えつけてきた殺人衝動が、ささいな事件をきっかけに目を覚ます…( 文庫裏表紙より抜粋)。


Killerinsideme なるほどこれは出版された当時としては画期的、今のほうが無理なく受け入れられる犯罪小説というのが分かる。しかし、よりによって女性への暴力を抑えられないという、許しがたきデーモニッシュな主人公の最後あたりのつぶやきが、心の叫びのように思え、美しい小説に触れたとさえ思えてしまうのはなんでだろう(翻訳もうまいです)。男の一人称で綴られるこの小説、むちゃくちゃな理屈、矛盾さえも多いのに、たまにするどい真実を突いてくる。そして「おれ」の中には殺し屋もいるが、愛をちゃんと分かっている「おれ」もいる。




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今さらになってしまうが、チャバララの豪快なゴールで始まり、カシージャスの感極まった涙で終えた2010サッカーW杯、楽しみました。
サッカーのこの大会だけは若い頃からできるだけ観ている。サッカー通でもなんでもないので、いちばんの楽しみは強豪国以外のチームの番狂わせな活躍だったりする。もちろん今大会はそのうちの一つが日本だったのがダブルの喜び。ベスト8は奇跡でもなんでもなく可能だったと感じるところが惜しくてたまらないけれど、その、あと一歩の困難さってやつが、次のドラマを生むのに欠かせないのだ。
にわか本田圭佑ファンになってしまったので、ロシアリーグの試合をテレビで観ようと思ったが、今の住環境でのスカパー契約までの道のり、視聴料の高さから断念。ネット視聴で我慢します・・・これって違法? 今晩もあります。また夜更かしをしなきゃならない。


敵は我の中にあり。〜「インセプション」〜

大好きなクリストファー・ノーラン監督、今作も期待を裏切らず!

「インセプション」(2010年 アメリカ)
★★★★★

空前の大ヒット作「ダークナイト」でセンセーションを巻き起こしたクリストファー・ノーラン監督が自ら書き下ろしたオリジナル脚本を、レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙はじめ豪華キャストを起用し、壮大なスケールで映画化したSFクライム・アクション超大作。相手の夢の中に入り込み、潜在意識の中の価値あるアイデアを盗み出す一流産業スパイの男を主人公に、彼と彼のスペシャリスト集団が夢の中で繰り広げる最後にして最も危険なミッションの行方を、複雑かつ巧みなストーリー展開と驚異の映像で描き出していく。(allcinemaより)


(以下、ネタバレ)

Inception 面白かったー。奇抜なアイデアに基づく難解な設定、重厚で大仕掛けな映像と音楽、主人公が抱える深い苦悩、許すべからざる犯罪のにおい、銃撃戦による派手な殺し合い、そして主人公たちのターゲットとなるあの人は、登場人物中で最も悪だと最初は予感させたのに・・・以上のもろもろの重たい要素を吹き飛ばす、思いがけず明快で、清々しく健康的ともいえる結末!(誰も不幸になっていない!…観る人によっては「プレステージ」並みの恐怖を感じるおまけがあったが、無視したい人は無視できるレベルに抑えているのもセンスいい。)
ノーラン監督、すげ〜! 今作はチームもの的要素を取り入れたことで、青少年向けエンタテインメント作品の作り手としても一級であることを証明してしまったな。そして、やはりこの監督には、リドリー・スコットとも共通するイギリス人独特のクールさを濃厚に感じる。


キャストはすみずみまで豪華だった。エレン・ペイジのキャスティングだけは最初は意外な感じがしたけれど、見終わった後では納得。映画のターゲットを考えると彼女やジェセフ・ゴードン=レヴィットのような若いスターは必要なのだろう。
ケン・ワタナベが、単なるアジア人枠ではなく、しっかりその持ち味を見込まれて起用されていたのも嬉しかった。映画の舞台は日本から始まるが、料亭らしきところのセットはキル・ビルみたいだった。キリアン・マーフィとマイケル・ケインもバットマン・シリーズから引き続きの起用。マーフィはやっぱりクセモノをにおわす役が似合う。あと、いままで意識したことがなかったけれど、トム・ハーディーはエロい笑


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「トイ・ストーリー3」(2010年 アメリカ)
★★★★☆

Toystory3 「1」も「2」も観てないのに気まぐれで、映画館に行ったついでに観たのだけれど、この1作だけ観てもぜんぜん問題のないつくりになっていた。初めてこのシリーズを観る子供も当然多いわけだから、当たり前かもしれないけれど、その点も含めピクサーの、子供はもちろん大人もしっかり楽しめる映画作りのレベルの高さはさすがだと改めて感心。
たぶん今作で初めて登場したと思われるおもちゃたちのキャラクターが、みんなちゃんと個性があって印象に残る。この描き分けがすごい。特にバービー人形ファミリーのケン人形! さすがバービーあってのケン。大いに笑わせてもらった!

2010年7月10日 (土)

題材はアメリカンコメディの定番 〜「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」〜

「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」(2009年 アメリカ)
★★★★


Hangover なーんだ、いつものコメディ映画じゃん。
と思ったんだが、最後も最後、エンディングクレジットの映像で評価が高騰! これはずるいわあ、爽やかすぎる。はちゃめちゃなのに爽やかってどうゆうことお〜?笑 それにしたってこのかなり悪趣味なところもある映画がゴールデン・グローブ賞というのは??? 他のノミネート作品がよほど弱かったか。

結婚を控えた男性のために同性の友人たちが最後の羽目外しパーティーを開く、いわゆるバチェラーパーティーを題材にした映画。
そういえば、映画館で映画が始まる前に流れた、目覚めたら土の中だった…というホラー映画(?)の予告。題名を確認しそびれたが、その始まりで思い出すのはピーター・ジェイムズのミステリー小説『1/2の埋葬』。これもバチェラーパーティーが題材だった。友人たちが花婿になる男性を酔っぱらわせて墓に埋め、目覚めた頃に掘り出すといういたずらを仕掛けるが、友人たちは交通事故で亡くなってしまい、だれも花婿の行方を知らない!という怖い話だった(小説はバカミス系で、まったく好みではなかったが)。

話を戻してと。花婿のどこかいかれた義弟を演じていたザック・ガリフィナーキスが、ジョン・ベルーシそっくりの演技をしていた。
あと、自分がヘザー・グレアムが大好きなのを忘れていた。彼女が出演していたのが、とても得した気分だった。この映画のヘザーもキュート! もう40歳ですよ…。


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