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2010年6月26日 (土)

スペイン版『大聖堂』 〜『海のカテドラル』〜

『海のカテドラル』イルデフォンソ・ファルコネス著/木村裕美訳
(RHブックス・プラス文庫 2010年邦訳)

Lacatedraldelmar 物語の舞台は14世紀のカタルーニャ。領主によるたびたびの理不尽な仕打ちに絶望にした農奴バルナットは、城に囚われた妻フランセスカのもとから餓死寸前の幼い息子アルナウを救い出し、バルセロナに逃亡する。そして、陶工である義弟のもとに身を寄せるが、逃亡の際にやむを得ず殺人を犯したバルナットは、匿まわれることを条件にここでも自由を束縛され、奴隷同然の生活を強いられる。息子だけでも自由民にとのバルナットの願いは、かなえられるのか…。


以上は、この小説のほんの出だし。息子のアルナウは、やがて“海の仲仕(バスターシュ)”として“海の聖母教会(サンタマリア・ダル・マール)”の建設にかかわるが、ときに時代の渦に巻き込まれ、やっと掴んだ平安もすぐ奪われるの繰り返し。数奇な運命はどこまでも続く・・・てことで、ひと言で表すと、フューダリズムのもとで自由を渇望しながら生きた男の物語ということになる。

聖堂の完成までと並行して紡がれる時代小説というとケン・フォレットの『大聖堂』。これはそのスペイン版ともいえる。ただし、こちらの大聖堂は今も実在している(バルセロナに旅行したときに立ち寄った記憶がないのが残念だ)。また、歴史上の人物が主人公と深くかかわってくるのをはじめ、封建制を維持するための悪しき慣習、戦争、疫病とユダヤ人迫害、異端審問など、中世ヨーロッパの生々しい実話が盛り込まれ、そのえぐさといったら、この民族がのちの時代、例えば中南米などで見せた残虐さもさもありなんと思えてしまうほどだった。小説の巧みさならケン・フォレットのほうに軍配が上がるが、歴史オタクにはこっちのほうが受けるかな。


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『数学的にありえない』アダム・ファウアー著/矢口誠訳
(文春文庫 2006年邦訳)

Improbable 巨大な陰謀に巻き込まれる天才数学者。密かな人体実験で謎の研究を進める科学者。倒れることを知らない最強のCIA工作員。いくつもの物語が絡み合う超高速の追跡劇!(文庫の帯より)


日本で刊行時に翻訳ものとしてはかなり話題になった小説の文庫化。バイオレンスとユーモアも入ったサスペンス小説なんだけど、SFでもあるのかな。“ラプラスの魔”をはじめとする物理学や数学の理論、またはユング心理学などについては、ほとんど知識がないし、これを読んで多少知り得たつもりもないが、難解さを感じずに読めてしまうのは、本来人間が理論の存在など知らなくても漠然と感じていることを、娯楽小説の中で確認できるからかも。
後半のバイオレンスアクションな展開部分は、長すぎて個人的にはちょっと退屈だったが、ラスト近くで主人公が「もう一人いたんだ」と気づくところでは、おおー!そんな仕掛けがあったのか!と鳥肌が立った。確かに頭を刺激してくれる小説だ。で、映画「アイアンマン2」を観て思ったのだけれど、小説に登場する女スパイのロールモデルは、アメコミのブラックウィドウということでいいのでしょうか?


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コメント

「数学的にありえない」は、話題になってることも知らずに何気なく手にとって読んだんですけど、ホントに面白かったですねー。もう、やられたーって感じでした。
それに巻末の解説でも感動させられたし。
続編読みたい気もするし、また、全く違うテーマの本も読んでみたいと思いました。

Djangoさんのブログで、文庫化されていることを知りました(*^-^)
ミステリの面白さもきっちり踏まえた小説でしたね。ある人物が同一人物だったのも、おっ!と思ったし。人物も、特に双子の兄がいいキャラでした。
そういえば巻末の解説は、さっと眺めただけだなあ。読み直してみます!

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