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2010年4月

2010年4月29日 (木)

壮大な歴史的建造物に秘められたものを思い起こさせる 〜『大聖堂』〜

昨年続編が出たので、それに触発されてようやく読んだベストセラー歴史ロマン小説。

『大聖堂』ケン・フォレット著/矢野浩三郎訳
(ソフトバンク文庫 1991年邦訳)


Pillarsoftheearth いつかこの手で大聖堂を建てたいという野心を抱く石工トム・ビルダーが、凋落一途のキングスブリッジ修道院の再建をはかる院長フィリップと出会い、始まった大聖堂建立。フィリップ一派に恨みを抱く地元の豪族や私欲に走る司教からの執拗な妨害、折からの内乱、大飢饉などにより、何度も頓挫の危機を迎えながらも、やがてトムの継息子ジャックの世代となり、イングランド初のゴシック様式の大聖堂が全容を現す…。


文庫本3巻1800ページをおそれるなかれ、だった。ストーリー主体の小説なので、思っていたよりもはるかに読むのが易しい。一難去ってまた一難と、物語の佳境が短い周期で訪れる。でもって、悪い奴はとことん卑劣で、いつまでたってもそいつらがいなくなってくれないので笑、勧善懲悪の結末を求め、さらに壮大な大聖堂の竣工を楽しみに、先へと読み急ぐことになる。
面白かったです〜。小説というものを初心にかえって楽しんだ感じ。途中で何度が後ろのほうのページをのぞき見するほど。といっても、たびたび佳境を迎えるうちに、ある程度パターンが見えてきて、文学というよりは、クリフハンガー形式で何シーズンにもわたって放送されるアメリカのTVドラマでも見ている気分にふとなったりしましたが…。
しかし、長い物語というのは、じわじわとその世界に浸っていき、すっかりなじんだところでクライマックスを迎えるので、感動するのは容易いのだ。捨て子ジョナサンの出生の秘密が公になる場面では、文字通り鳥肌が立ったよ〜。ちょうど電車に乗ってるときだったので、腕まくりして確認まではしなかったが。

大聖堂竣工までの道のりは、イングランド王権争いによる1120年のホワイトシップ号の遭難から、それに続く無政府時代、王と教会の対立による1170年のトマス・ベケット暗殺(歴史の授業を思い出した!)までの半世紀を背景にしている。有名な史実と小説の中の架空の登場人物との絡ませ方が実はかなり強引なのだが、読んでいる間はそれが気にならないというのは、やはり物語がとてもよく出来ているからだろう。いちばん好きな場面は、まだ建設中の大聖堂を中心に自由民による活気ある街が出来上がっていくところかな。

 

2010年4月26日 (月)

茨の道でも自立を選んだ16歳 〜「プレシャス」〜

「プレシャス」(2009年 アメリカ)
★★★★

1987年のニューヨーク・ハーレムを舞台に、読み書きがほとんど出来ない16歳の肥満少女プレシャスが、両親による想像を絶する虐待に耐えながら生きる過酷な日常と、一人の女性教師との出会いがもたらす一条の希望を描き出す。(allcinemaより)


Precious_2 アカデミーの作品賞、監督賞、主演女優賞などにノミネート、助演女優賞を受賞した作品。予告を見た時点では、主人公プレシャス(ガボレイ・シディベ)の容姿がポイントとなる映画だと想像していた。プレシャスが太って醜く、性格も塞ぎ、魅力の欠片もない少女であることが強調されていると感じたからだ。が、容姿はこの映画のテーマにはほとんど関係ない(そもそもそんなテーマがシリアス映画になるはずがなかった)し、映画では始まってすぐにプレシャスに共感できるようになる。

辛い目に遭うたびに、セレブ・スターになった自分を空想するプレシャス。その空想(映像)の中の彼女がとてもキュートなのだ。しかし、プレシャスにとって空想は、現実逃避の手段であり、決して夢ではない。ここがまともな環境で育った子供とは違う。

母子家庭同然で、母親(モニーク)は彼女を召し使い同然に扱い、暴力も振るう。その理由はやがて明らかになるが、プレシャスも無学のままだったら母親と同じ道を歩むことになっただろう。幸い彼女は、良い教師や級友と出会い、家庭の外とのつながりをもつことができたのだけど、行く手が多難すぎる…。おそらく厳しい現実はどこまでもプレシャスを手放そうとしないだろう。ものが分かったような大人は彼女の選んだ道に大反対するだろう。しかし、この究極の選択をせずに希望はないのも確かなのだ。

監督がアメリカ黒人だし、主な出演者も黒人なので、この作品は由緒正しいブラックムービーなのだと思うが、これまで自分が観たブラックムービーにはない親しみやすさがこの映画にはあった。監督のリー・ダニエルズがゲイであり、マッチョを誇示する黒人男性がメインの登場人物から排除されていたり、生々しいラブシーンがなかったことが大きいかもしれない。

フリー・スクール教師役のポーラ・パットンをずっとハル・ベリーと思って観てた…。なんという思い違い! ポーラ・パットンは表情が木村佳乃似だね。モニークの熱演はちょっとばかりうざい。マライア・キャリーはけっこう重要な役なので力不足な感じがしてしまうが、看護師役のレニー・クラビッツ(実はこちらも見終わったあとにレニクラと気づいた…)は違和感なかったので驚いた。登場人物の中で唯一といってもいい大人の黒人男性が、プレシャスに優しく接する看護師というところにも、監督の資質を感じる。

オプラ・ウィンフリーにまつわる話(映画の製作総指揮で本人も参加している)は日本人には分かりづらいが、貧しく無学な人がいかにテレビから影響を受けているかも表しているんでしょうね。母親がいつも家でテレビを見ている場面が登場するのには意図するところがあったのだ。それに対比して描かれているのが、教師とその同居人の知的な会話(実はどうってことのない会話なのだが)を、プレシャスが大いなる憧れをもって眺めている場面。印象に残る場面だった。

 

2010年4月17日 (土)

人間関係のパワーバランスの危うさを描く 〜『赤い夏の日』〜

弁護士レベッカ・マーティンソン・シリーズ第2弾。スウェーデン推理作家アカデミー最優秀長篇賞受賞作。

『赤い夏の日』オーサ・ラーソン著/松下祥子訳
(ハヤカワ文庫 2008年邦訳)

(前作『オーロラの向こう側」で)悲惨な事件に巻き込まれ心に傷を負ったままのレベッカは、職務に復帰した法律事務所で空虚な日々を送っていた。そんな彼女が、上司の出張に同行して故郷のキールナへ戻ってきた。だがそこで待っていたのは、またしても殺人事件だった。教会の女性司祭が夏至の夜に惨殺されたのだ。ふとしたことから被害者の周囲の人々と関わることになったレベッカは否応なしに事件の渦中へ…(文庫裏表紙より)


Detblodsomspillts_2 今作も面白かった。人間関係のドロドロを描いたら女性作家は強いなあ。身体の大きさや腕力で上位に立つ男に対し、女は相手の心理を操ることで負けない方法を学ぶからだろうか。その結果、すごくドロドロした部分が強調される。支配するとか服従するとか、ふだんそんな人間関係からはできるだけ距離を置くようにして生きているつもりでも、相手の対抗意識をちらりとでも感じ取ると、ついこちらも力関係を意識せずにいられなくなるというのは日々よくある。しかし、相手にしてみれば先に威圧してきたのはお前だと思っていないとも限らず…。疑心暗鬼の対象とならぬよう、自分は楽して、そんな人間関係からは逃げるほうを選んでしまう笑 おかげで競争社会からは脱落し続けている。

この小説には、北欧の小さなコミュニティを舞台に、人間関係を作っている暗黙のパワーバランスがいろんなパターンで登場する。力関係が生ずるのは人間に限らず動物が生き抜いていくための本能だとでも言うように、雌狼の話が短い章で挟まれる。

主人公レベッカは今のところ事件に巻き込まれてしまう人物という位置づけだが、次作からはストックホルムの弁護士事務所を辞め、これまでの作品と同じスウェーデンの最北都市キールナ(キルナ)で検察の仕事を手伝うようになるとのこと。キールナは最近は氷のホテルで知られるようになり、日本人観光客も増えていることが本の中にも登場する。


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『ホット・ロック』ドナルド・E・ウエストレイク著/平井イサク訳
(角川文庫 1972年邦訳)

長い刑期を終えて出所したばかりの盗みの天才ドートマンダーに、とてつもない仕事が舞い込んだ。それはアフリカの某国の国連大使の依頼で、コロシアムに展示されている大エメラルドを盗み出すというもの。報酬は15万ドル。彼は4人の仲間を使って、意表をつく数々の犯罪アイディアを練るが…(文庫裏表紙より)


Hotrock 10作目の『バッド・ニュース』が面白かったのでさかのぼってみた“不運な泥棒”ドートマンダー・シリーズの1作目。やはりこの作家さんはアイデア捻出力がぴかいち。そして、キャラクター描写も楽しい。が、ストーリーは絵本や児童書によく見られる繰り返しで笑いを誘う様式を、細部付け足して長くしたものなので、何日もかけてダラダラ読んでいると退屈でいらいらしてくる。

こういうのはすぱっと1日、2日で読み終える能力がほしい。


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『捕虜収容所の死』マイケル・ギルバート著/石田善彦訳
(創元推理文庫 2003年邦訳)

第二次世界大戦下、イタリアの第一二七捕虜収容所でもくろまれた大脱走劇。ところが、密かに掘り進められていたトンネル内で、スパイ疑惑の渦中にあった捕虜が落命。紆余曲折をへて、英国陸軍大尉による時ならぬ殺害犯捜しが始まる。新たな密告者の存在までが浮上するなか、果して脱走は成功するのか…(文庫裏表紙より)


Deathincaptivity 各所の2003年翻訳ミステリーベスト10で1位または2位となった作品だが、書かれたのは1952年。作者自身の北イタリアでの捕虜収容所体験を背景に生かしたミステリってことで、まあ退屈はしなかったけれど、どうしてそんなに評価が高いのか。史実と冒険小説と本格ミステリの塩梅が良かったのかな。

 

2010年4月11日 (日)

生活保護を受けるエイリアンという設定がおもろ! 〜第9地区〜

もうしばらく行きたくないと言いながら懲りもせず新宿ピカデリーで、公開日に観てきた。



「第9地区」(2009年 アメリカ/ニュージーランド)

★★★★

District9 故障した巨大宇宙船が漂着したのは南アフリカ・ヨハネスブルグの上空。人類はその宇宙船のエイリアンたちをやむなく難民として受け入れ、第9地区に隔離して住まわせる。しかし、それから20年後。エイリアン居住区のスラム化が問題となり、彼らを新たな難民キャンプへ移住させる計画が施行され、エイリアン対策を請け負う超国家企業MNUの社員ヴィカス(シャールト・コプリー)が責任者に抜擢される…。監督は南アフリカ出身のニール・ブロンカンプ、製作にピーター・ジャクソンが参加。


これがアカデミー作品賞ノミネートというのが(10作品に増えたとはいえ)面白い!笑 例えばジョン・カーペンターの「ニューヨーク1997」や「エスケープ・フロム・L.A.」がアカデミー作品賞にノミネートされるなんて想像つかないじゃないか! そうなのだ、この映画のテイストは“B級映画”の巨匠ジョン・カーペンターの作品にかなり近かったのでした。

ということで、個人的には楽しい作品だった。主人公ヴィカスの小者風なキャラクター(通常こういう映画だと最初に死ぬタイプ)もあって、笑いを誘うところが何カ所かあった。終盤で思わず吹いてしまったが、周りでは誰も笑ってなかった…。
エビに似ているから“エビ”と呼ばれるエイリアンたちは猫缶(キャットフード)に目がない。そして、エイリアン相手に隔離地区で商売する黒人ギャングのボスのいかれっぷりが、B級感をぐっと高める。ギャング組織はエイリアンに人間の娼婦まであてがって金を搾り取っており、てことは、エイリアンたちは地球から生活保護を現金支給で受けているわけで、その設定がまずは面白いではないか!(兵器と物々交換もしてましたが)

映画はアパルトヘイトにヒントを得て作られているというのを以前にどこかで読んで、かなりシニカルな内容かもと想像していたが、実際は違っていた。「アバター」のほうが政治的なにおいは強い。エイリアン居住区の撮影にソウェト地区を使っていたり、エイリアンにクリストファーなんていういかにも白人の名前を強要して識別しているところは、多少それらしい感じがする。

MNUに雇われた軍人と、黒人ギャング、ヴィカスたちの死闘が繰り広げられる中で、MNUのステッカーを頭に貼ったりしてるエイリアンの子供が可愛かったなあ。クリストファーのパパっぷりも良かった。苦みを残したラストも好きだな〜。どうしても続きを想像してしまうではないか。


2010年4月 3日 (土)

中年版「500日のサマー」 〜マイレージ、マイライフ〜

3週間前に観に行ったのだ。

「マイレージ、マイライフ」(2009年 アメリカ)
★★★☆

「JUNO/ジュノ」「サンキュー・スモーキング」のジェイソン・ライトマン監督がウォルター・カーンの同名小説を基に、現代人を取り巻く様々な問題をスマートに描き出すハートフル・ヒューマン・ストーリー。リストラ宣告人として全米を飛び回り、煩わしい人間関係を回避して身軽で気ままな人生を送ってきた主人公が、2人の女性との出会いをきっかけに、それまでの生き方や人とのつながりについて見つめ直していく姿を、シニカルな中にも優しい眼差しを込めて綴る。(allcinemaより)


Upintheair(以下、ネタバレあり)

期待していたのだが、何か腑に落ちない。リストラ宣告人が主人公の話なら、坂口憲二主演のドラマ「君たちに明日はない」もけっこう面白かった(最終回を見損ねたけど)。リストラ宣告人という題材は興味を引くが、それを目当てに見ると、まったく物足りないという感じでしょうか。

でも、ヴェラ・ファーミガ(写真右)がいいのだ! 主人公(ジョージ・クルーニー)だけでなく、私も騙されたー! ダメ押しに電話でああいうふうに言われたら、ショックだわ〜。だったら、ごく私的な家族の結婚式なんかに付き合ってんじゃないわよ! まあ、彼女もついやりすぎてしまったことは承知しているのでしょう・・・。嫌な女なのに憎めない、むしろかっこよく見えてしまうのが、ファーミガの繊細な演技のなせるところ。あの親しみやすい笑顔もクセモノだ。

この、クルーニーとファーミガが出会ってからの一連のやりとりはとても面白かった。クルーニーは、わずかな間に白髪頭の冴えない中年になって空港に姿を現す場面が印象的だった。からっぽの人生かぁ・・・いやいや〜身につまされる。まったく他人事じゃないし!笑 マイルがあるだけいいじゃないか。


仕事でビデオ会議システムのメーカーとかかわりがあるのだが、今は映像と音声がほとんどズレないうえに画質はHD。テレビを見ているのとほとんど変わらない状態で双方向やりとりができるのだ。導入した企業では、実際に出張費削減に大きな成果を挙げているが、逆に会議が増えてしまったという話もある。

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