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2010年3月 7日 (日)

一生の後悔が癒えるとき 〜昼が夜に負うもの〜

アルジェリア出身作家が故国を舞台に描いた、一人のアラブ系男性の生涯の恋と友情にまつわる物語。


『昼が夜に負うもの』ヤスミナ・カドラ著/藤本優子訳
(早川書房 2009年邦訳)


Cequelejourdoit 物語は1930年代のフランス領アルジェリアの農村から始まる。「父は幸福だった。そんなことがあの父にありえるとは信じがたかった。いつもの不安から解き放たれた父の顔つきに、私は胸騒ぎさえ覚えたものだ」……長い貧困生活のすえ、その年ようやく豊作となった小麦畑を前にして、父親の笑顔というものを初めて目にした少年ユネスの悪い予感は当たっていた。小麦畑は収穫直前に放火されるという理不尽な仕打ちに遭い、父祖伝来の土地も借金のかたに奪われ、一家は身一つで都会に出て、出口なしの極貧生活に陥ってしまう。

でも、まだこれはほんのさわり。都会でも再び災難に遭い人生に絶望した父は、薬局を営みフランス人を妻とする兄にユネスを託す。アラブ系ながら碧眼で天使のような顔をした彼は、そこでフランス風にジョナスと名前を変えさせられ、フランス系やユダヤ系など入植者の子弟と同じ学校に通い、やがて友人にも恵まる。しかし、誰もが目を奪われる美しい少女エミリーをめぐって、さらにアルジェリア独立を目指す先住者と入植者の対立が広まるにつれ、ユネスと友人たちの関係はぎくしゃくしていく…。


80代となった老人ユネスが自分の青春時代を回想するというかたちを取るこの小説。最後に旧友と再会する章での哀歓を超越した余韻が素晴らしい! これぞ人生って感じ? 「過去にいろいろあっても、年老いて思い出すのは美しい出来事ばかり」との登場人物の言葉に励まされるとともに、一輪の薔薇の話は何度思い出しても切なくて目頭が熱くなる。そして実の父と母、妹の身の上のことも…。なんという救いのない貧困。翻訳がきっといいのだと思うが、文章も魅力的で満喫した〜。


内容をひと言でいえば、報われなかった愛があり、しかし別の愛でそれを補うこともできるというようなものか。要するに愛がテーマ。アルジェリア独立運動を背景に、時代に翻弄された人々の物語としても読めるが、硬派な読み物にしないために、あえて書かれなかったこともたくさんあったように思った。
たとえば、民族対立の様相が明らかになってきてからのユネスへの友人たちの不自然な対応にはアラブ人への差別視があったと思うが、それが具体的に描かれることがない。また、ユネスはきわめて穏和(悪くいえば鈍感)で、傍目でもいらいらするほどに煮え切らない人間として描かれる。それがもとで一生の深い後悔を抱え込むことになるが、そんな性格だったからピエ・ノワール(入植者)の友人たちとの友情は長らえたのではないか。

民族の違いも宗教の違いも、個人同士の関係にはまったく影響を与えないという思いが込められていると感じた。

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