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2009年10月18日 (日)

〈十字軍の遠征〉ではなく〈フランクの侵略〉

レバノン人ジャーナリストがフランス語で書いた十字軍戦争200年の通史。

『アラブが見た十字軍』アミン・マアルーフ著/牟田口義郎、新川雅子訳
(ちくま学芸文庫)


Photo この本の本章では「十字軍」という言葉は登場せず、アラブ側の呼び名「フランク」で通されている。実際、フランク(西洋人)の侵略は宗教的な動機に限らなかったわけだから、一般的にもこのほうが公平な感じがする。
さて、フランクの侵略が始まった当時、アラブの地中海方面を支配していたセルジューク帝国の内情は、内紛によって日本の戦国時代のような状況。肉親同士で領地拡大をねらって殺し合い、「敵の敵は味方」のごとくフランクと同盟を結ぶ君主までいたのは意外だった。アラブ世界が一枚岩となって聖戦を戦うのは、フランクの侵略から100年後。クルド人のサラーフッディーンがエジプトとシリアを統一してからだ。

やはりサラーフッディーンが登場すると興奮する。父や叔父、弟の功績も大きかったのだな。映画「キングダム・オブ・ヘブン」が、かなり史実に忠実なのも分かった。というかこの本を題材にしているのか。
フランク側では、ドイツ皇帝フリードリヒ1世が侵略者にかかわらずムスリム文化の理解者として好意的に書かれている。それに対してイングランド王リチャード1世は軽薄で、単なる野次馬に扱われているのが面白い。

本の中では歳月がどんどん進み、戦いに次ぐ戦いの印象なのだが、200年にわたる戦争の中では、膠着状態による平安もたびたびある。前線では互いに宴会に招待しあったり、競技を開催して楽しんだらしい。その場合は、大人同士だと支障があるから、子供に格闘技などをやらせたというのがちょっといい話。しかし、これは戦争も後期になってからのことで、初期には、大虐殺のどさくさの中、面白半分に人肉食いするフランク一派までいたという。さすが、自分たち以外は動物同然としか見なさない傾向が今も一部で見られる人種のやりそうなことだ。


ここ何年か、特定の外国で惹かれてしまうのが西アジアだ。すごく興味があるというわけでもないけれど、乾いた気候、遊牧民族の血筋、イスラム教といった、自分の日常にはない要素に満ちている。要するに異国らしさが非常に分かりやすいのがこの地域という、単純な理由からなんだけれど。

で、西洋スタイルが世界標準となっている今日、なぜこの地域が独特の文化を固持しているように見えるのか…。自分はイスラムの戒律のせいだろうくらいにしか思っていなかったが、実は2世紀以上にわたった十字軍との戦いが700年後の今日まで影響を及ぼしていると、最終章において著者は語っている。この章がとても説得力があった。

十字軍以前は、アラブ世界のほうが西洋よりもはるかに進んだ文明を持っていた。ところが十字軍以降は、勝利したのがアラブ世界なのにもかかわらず文明の中心は西洋に移ってしまう。なぜなら、この長き戦争において、侵略した側は、征服した民の言語を学び、その著書からさまざまな知識を吸収し、技術を真似て、その後発展させていったのに対し、征服された側は、相手の言語を学ぶことなど妥協や裏切りでしかないと無視し、排他的な性格を強めてしまうからだ。この心情は人間として理解できる。


 西ヨーロッパにとって、十字軍時代が真の経済的・文化的革命の糸口であったのに対し、オリエントにおいては、これらの聖戦は衰退と反開化主義の長い世紀に通じてしまう。四方から攻められて、ムスリム世界はちぢみあがり、過度に敏感に、守勢的に、狭量に、非生産的になるのだが、このような態度は世界的規模の発展が続くにつれて一層ひどくなり、発展から疎外されていると思いこむ。
 以来、進歩とは相手側のものになる。近代化も他人のものだ。西洋の象徴である近代化を拒絶して、その文化的・宗教的アイデンティティを確立せよというのか。それとも反対に、自分のアイデンティティを失う危険を冒しても、近代化の道を断固として歩むべきか。イランも、トルコも、またアラブ世界も、このジレンマの解決に成功していない。そのために今日でも、上からの西洋化という局面と、まったく排他的で極端な教条主義という局面とのあいだに、しばしば急激な交代が続いて見られるのである。


4年前の旅行で訪れた場所がいっぱい出てきたのが楽しかった。これはレバノン・トリポリの「サンジル城塞」にあった百合の花の紋。
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