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2009年9月

2009年9月28日 (月)

オーストラリア産ハードボイルド

CWA最優秀長編賞受賞(2007年)の期待を裏切らない面白さでした。著者は1946年南アフリカ生まれで、80年代にオーストラリアに移住。オーストラリアの作家としては初のCWA賞受賞だそうで、オーストラリア・ヴィクトリア州という舞台の目新しさも受けたに違いない。

『壊れた海辺』ピーター・テンプル著/土屋晃訳
(ランダムハウス講談社 2008年邦訳)


捜査ミスから同僚を死なせ、心身ともに傷を負ったキャシン刑事は故郷の海辺の町に戻り、小さな警察署で働き始めた、そんな折り、隣町で篤志家として知られる老人が殺害され、彼は捜査に駆り出される。高価な時計を売りにきたアボリジニの若者たちに容疑がかかり、彼らを追い詰めた警察は2名を射殺、1名を逮捕、事は落着に見えたが、キャシンは納得しなかった。単独捜査を続けるキャシンのまえに、やがて驚くべき真相が…(文庫裏表紙より)



Brokenshore 最初はとても取っつきにくいです。主人公の背景はもちろん、次々に名前が出てくる人物についても、読者がすでに知っているとの前提で書かれたような文章で、「もしかしたら何かの続編?」と思いながら読んでいた。巻末の解説を読むと、そうでもなさそうなので、この作家のスタイルなのかしら…。ふだん翻訳ものを読まない人には手強そうな感じ。個人的には、丁寧な説明でテンポを削がれるより(日本のミステリはこれが多い)、ぶっきらぼうなほうが好きだな…と、読み終えた後なら何とでもいえるわけですが(笑)。しかし実際に、後半は、シリーズ化したら面白そうな魅力的な人物たちも多くなって、加速的に面白くなっていきました。


地方を舞台にしたこの小説では、アボリジニは陰で「黒い人」と蔑まれ、ドゥーグ(架空の地名?)と呼ばれるスラムに隔離された状態で、白人たちはその場に近寄ることも恐れるといったように、そのままアメリカの、例えばワシントンDCなどの黒人たちと似た境遇にあり、事件の真相とその背景にある病んだ事情なども、舞台をそのままアメリカに移して違和感のない内容でした。
しかし、この小説には主人公の再生というもう一つのテーマがあって、それが単なる警察ミステリに終わらない魅力になっている! 自分の捜査の過ちから同僚を死なせ、自分自身も大けがから治癒したばかりのキャシンは、一家が見捨てた海辺の広大な土地に戻り、かつて曾祖父たちが住んでいた家を自力で建て直そうとする。それを助けるのが、キャシンがたまたま知り合った渡りの労働者レッヴ。やがて育まれていく友情…。このサイドストーリーともいえる部分が、味わいがあって良かったです。


巻末解説によると、著者はエルモア・レナードやジェームズ・リー・バークなどを好きな作家として挙げている。私が最近読んだ中では、ジェイムズ・クラムリーやマイクル・コナリーのボッシュ・シリーズにも共通するところがあるように思う。要するにネオ・ハードボイルドの面白さを堪能できるということなのだけど。



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やっぱり「ハムナプトラ」は1と2が面白い〜。最後の畳みかける展開が最高だ。DVD持ってるのにまたテレビで見てしまった。字幕より吹き替えのほうが楽しい。

2009年9月27日 (日)

MAZE featuring FRANKIE BEVERLY at COTTON CLUB

ストレンジはバーテンからビールをふたつもらった。‥‥彼女が領収書を持って戻ってきたとき、メイズ&フランキー・ビヴァリーの曲を流してくれと頼んだ。少し前のある晩、ストレンジは女と酒を飲むためにこの店で待ち合わせ、そのとき、バーの奥にこのバンドのレコードがあるのを知ったのだ。メイズはワシントンDCっ子のお気に入りバンドだ。彼らがレコードを出したのは何年も前だが、いまだに街じゅうのクラブや結婚式、家族パーティやロッククリーク公園でのピクニックで、彼らの曲が流れている。「どのアルバムが聴きたい?」バーテンは訊いた。「『サザン・ガール』が入っているやつがいいな」
(ジョージ・P・ペレケーノス著『曇りなき正義』より)



てことで行ってきたー。コットンクラブでのメイズ・フィーチャリング・フランキー・ビヴァリー来日公演最終日。はあ〜、めっちゃ楽しかった!! 聴きたかった曲が次々演奏されるし、それも長く聴き馴染んできた曲ばかりだったし、客席のノリも最高でした! 皆さんサビの部分になると、一緒に大合唱するのだ。ボーカルのフランキー・ビヴァリーも、目の前の聴衆に歌を任せ、すごく嬉しそうに笑っており、それを見てこっちもまた嬉しくなっちまった。幸せな時間を過ごさせていただきました。


Maze アメリカ西海岸を本拠地とするメイズは、ペレケーノスの小説にあるように東海岸でも大人気。そもそも本国やヨーロッパではクラブ規模の会場でのコンサートは行わないそうなのだ。日本へは15年ぶりの来日で、コットンクラブでは異例の1日1ステージ構成。チケット代18,500円もやむを得ずってところですね。


フランキー・ビヴァリーは、体操のお兄さんのような全身白の、彼のトレードマークにもなっている衣装で登場したが、想像していたより年を取っていた。真っ黒だった顎ひげもすっかり白くなり…。音楽キャリアが40年以上になるから当たり前なんだが、年齢のせいか、のどの調子があまり良くない。熱唱は伝わるが、以前のキーでは高音部分が歌えなくなっていて、最初はちょっと不安にもなった。
しかし、メロディアスな部分は、ギターと2人のキーボードがそれを補っていたと思う。特にギターのJubuという人がすごくテクニックがあって、エモーショナルで良かったあ〜。トニー・トニー・トニーやネリー、ケニー・ラティモアなどと共演経験があり、ソングライターでもあるとのこと。メイズくらいになると、今も才能のあるメンバー集めに苦労しないかもだ。友だちはベースのラリー・キンペルを絶賛していた。この人も本当に上手かった。


ブラックミュージックは背骨(ドラムスとベース)がしっかりしていれば、あとは気にしないワタクシです。前半「We Are One」から「Can't Get Over You」の流れで、身も心も完全に解き放たれた! そっからはもうずっーとナチュラルハイ状態。古参のパーカッション2人も加わって、バンドの奏でるグルーブがとにかく素晴らしい! さすがのリズムの安定感! 生音によるこんなグルーブは滅多に味わえるものじゃない。特に後半、ヒット曲「Back in Stride」に続いてやった「While I'm Alone」のサウンドの気持ちよさったら半端なかった! 地味めの曲なのに、これがライブで聴くとまったく侮れなくて、もう延々とやっててくれていいよと思うくらいでした。
再度来日したら、また行っちゃうかもなあ〜。
フランキーさんが長く現役を続けられますように!


もちろん「Joy & Pain」もやってくれました。会場の盛りあがりも負けてはいなかったのではないかしら。
http://www.youtube.com/watch?v=x6DFEOFHl0w

2009年9月23日 (水)

映画メモ

7月〜9月にレンタルで観た映画。


「マスター・アンド・コマンダー」(2003年 アメリカ)
★★★★☆
ピーター・ウィアー監督。パトリック・オブライアンの世界的ベストセラー海洋冒険小説の映画化。1805年、名艦長ジャック・オーブリー(ラッセル・クロウ)が指揮する英国海軍のフリゲート艦サプライズ号は、南米沖で仏ナポレオン軍の私掠船の太平洋進出を阻止せよとの命を受ける…。広大な洋上を舞台としたアドベンチャー映画なんて久々。で、大満足! 軍艦の乗員構成は当時の英国社会の縮図になっていて、貴族の子弟はこういうふうに教育を受けていたのだなと興味深かった。天候に大きな影響を受ける船の中では、ろくに教育を受けていない身分の低い者の間で迷信が蔓延するとか、「尊敬なくして艦の規律はない」という艦長の言葉には説得力があった。艦長の親友でもある医師(ポール・ベタニー)が、ダーウィンを若干モデルにしているところも面白かった。映画館で観ておくべきだった〜。


「バンク・ジョブ」(2008年 イギリス)
★★★★
ロジャー・ドナルドソン監督。1971年にロンドンで起きた大規模な貸金庫強奪事件を映画化。盗んだのは現金や貴金属だけでなく、英国全土を揺るがすスキャンダルの種も含まれていた…。フィクションよりもよく出来ていると思わせるクライム・サスペンス映画だった。でも、クライム・サスペンスは小説で読むほうが個人的には好きだ。これを観たのが2カ月以上前で、その後テレビで同じジェイソン・ステイサム主演の「トランスポーター」2作品を観てしまったので、内容が頭の中でごっちゃになっている。


「マルタのやさしい刺繍」(2006年 スイス)
★★★★
スイスの保守的な田舎町。夫に先立たれて生きる気力を失っていた80歳のマルタは、若かりし頃の夢であったランジェリーショップをオープンさせようとするが、周囲から破廉恥と非難され…。出だしの場面展開で騙されそうになり、つかみはバッチリ。細部や終盤はちょっと甘いが、おばあちゃんたちがそれぞれの特技を身につけ、商売を軌道に乗せていく展開にわくわくさせられる。つつましやかながら柔軟な心をもつマルタ役のおばあちゃん女優がいい。母も自宅で洋裁の仕事をやっていたので、姿が被る。


「少女の髪どめ」(2001年 イラン)
★★★★
マジッド・マジディ監督・脚本・製作。テヘランの建設現場で働く青年(松山ケンイチ)が、アフガン難民の少女(薬師丸ひろ子…昔の)に無償の愛を捧げる…。後半はもう冷や冷やして見てらんない。ちょっと反発して、自分の中に潜むエゴを正当化したくなる要素もあるが、ヒューマニズム的な愛ではなくて、恋情を扱っているので素直に良い映画と思えた。心情を言葉ではなく、動きや風景だけで表現していく映像が魅力的。女性が髪を見せるのを禁止されている国というのを最低限理解していないと、青年が突然恋に落ちる理由が分かりづらいかもしれない。


「トウキョウソナタ」(2008年 日本/オランダ/香港)
★★★★
黒沢清監督。父はリストラにあったことを家族に隠し、長男は突然アメリカ軍に入隊、次男は親に内緒でピアノ教室に通い、母はバラバラな家族に対し虚無感を募らせていく…。デフォルメされていてありえない場面の連続なんだけれど、見入ってしまう。ショッピングモールの清掃員たちが、ロッカールームも与えられず店内の脇のほうで黙々と着替える場面に苦笑い。現実にそんなことはないのかもしれないが、人間がこういうふうに扱われていることに差はないと感じる。父親役の香川照之が走りながらゴミに何度も躓く場面がくどい。あと、泥棒役の役所広司に違和感。この人だけコメディの質が違うので映画の雰囲気を壊していると思った。


「ツォツィ」(2005年 南アフリカ/イギリス)
★★★☆
南アフリカのスラム街に生きる冷血非道の若者が、車と一緒に赤ん坊を盗んでしまったことから人間的感情を取り戻す…。切ねえー。主演の若者役の人の表情の変化がうまい。ラストは確かに少し物足りなかったが、かといってDVDにおまけで収められている2種類の「幻のエンディング」は興ざめ。


「ヘルボーイ ゴールデン・アーミー」(2008年 アメリカ)
★★★
アメコミ原作の第2弾。ギレルモ・デル・トロ監督。★は3つだけれど、不満があるわけじゃない。いろんなクリーチャーが楽しい。そのデザインは監督自身もやっているのだろうか。雑食の小さい生き物は「パンズ・ラビリンス」を思い出させた。ボス(Bosch)の絵に登場するのに似たのや、人面瘡もあった。お相撲さんヘアのヘルボーイの部屋には美人画の浮世絵ポスター。テーマ曲はバリー・マニローの「Can't Smile Without You」。人間世界と対立する魔物世界(人間以外の自然界)の王子が言った「自分では人間を滅ぼすことを止められない」という言葉はけっこう深い。


「エリザベス ゴールデン・エイジ」(2007年 イギリス/フランス)
★★★
続編と知らずに観てしまった。前作は観ていないけれど、ケイト・ブランシェットのための映画になっているからさほど問題なし。一生に一度だけの男性とのキスで「死んでもいい」とか、予言にすがるしかない女王の孤高が痛いほど。女王の無数のかつら、衣装も見応えあり。「女王」と書くときに、いつも「じょうおう」と入力してしまう。ほかにも「石油」を「せきゅう」と入力してしまうなど、いまだ抜けない方言のせいかな。


「DISCO ディスコ」(2008年 フランス)
★★★
ディスコブームの真っ只中に青春を過ごした中年オヤジたちが、久々に開かれる地元のダンスコンテストでの優勝を狙う…。離婚で別れて暮らす息子に会うためという理由からもう少し広げて、例えば不景気な地元の町を元気にするような要素を期待してしまった。最近、フランス映画を観ると邦画のヒット作とよく似ていると感じる。扱うテーマや、テレビドラマのような作風、何か物足りないところなど。音楽担当がミシェル・ルグランなのが意外。かかった往年のヒット曲の中ではカール・ダグラスの「カンフー・ファイティング」が好き。しかし、この時代のディスコの勢いはすごかったのね。ディスコには国境がないというのが分かった。


「正しい恋愛小説の作り方」(2006年 フランス)
★★☆
日本未公開のロマンチックコメディ。トレンディドラマのような内容で、これは未公開でも仕方なかったかな。米アカデミー賞受賞女優のマリオン・コティヤール主演ということでDVD発売になったようだが、役柄的には、いい年をしていまだに格好だけのダメ男ばかりに振り回されている恋愛ロマン小説家の姉、ジェリー・ドパルデューのほうが主演ではないかと思う。

2009年9月22日 (火)

どこもかしこも人出が多すぎて

ここなら空いててよいだろうと思って行った美術館が、あてが外れて50分待ちの混雑。館内にぎゅうぎゅうに並ばされている様子を見て、ぞっとして退散! しかたなく隣の博物館の常設展で時間を潰しました。年に2回しかない無料デーにかかわらずこっちは空いていてラッキー。阿修羅展のときに寄ったばかりだったが、ちょっとずつ展示品が変わってるのね。


その前日は映画。できるだけ気軽に見られるやつと思って選んだのが、「男と女の不都合な真実」(2009年 アメリカ)★★★


Uglytruth ラブコメというのは、結局は昔からあるストーリーの焼き直しになってしまうのでしょうが、主人公の女性がテレビ番組のプロデューサーという設定が、もういいよという気分。でも、理想の男性の条件に、犬好きよりも猫好きという項目が入るのは、いかにも昨今の傾向ではないかと思った。

主演のキャサリン・ハイグルが、「無ケーカクの命中男」のときと同様に下ネタを臆面もなく演じて、下品にならないところが良かったです。しかし、ラブコメの女王となるには落ち着きがあって、やや老けて見えるのが障害かも。彼女のアシスタント役のブリー・ターナーが可愛らしい。よく見る女優さんだと思って調べたら、出演作を1、2本しか見てない。それにしては記憶に残る顔。ジェラルド・バトラーは、売れっ子だけれど、女性にも人気というのがいまいち分からない。ほかの出演作も見てみよう。

2009年9月21日 (月)

やつが手を下したに決まっている

1965年に出版されたスウェーデンの著名な警察小説マルティン・ベック シリーズ第1作。

『ロゼアンナ』マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー著/高見浩訳
(角川文庫 1975年邦訳)


Photo_2 運河の浚渫作業中、泥土と一緒に若い女性の一糸まとわぬ死体が上がった。「死因は絞殺。陰湿な性的暴行と関係あり。内出血甚だし。」マルティン・ベックは地元警察の警部アールベリとともに粘り強い捜査を続けるが、3カ月が過ぎた頃、アメリカの刑事からの電報で、ようやく被害者の身元が判明する。そして間もなく、ロゼアンナという名前のアメリカ人女性は一人でヨーロッパを旅行中で、運河を通る遊覧船に乗っていたことが分かり…。


犯人の手がかりのないままじりじりと時間だけが過ぎていき、生前の被害者はどんな娘だったのかという妄想だけがどんどん膨らみ、捜査が空振りに終わるたびに憔悴し、それでも諦めずにわずかな手がかりを追い求めるマルティン・ベックやアールベリ、コルベリ警部らの執念で読ませます。


一方で、こういう本当に仕事熱心な刑事たちが、冤罪を生んでしまう可能性もふと思った。犯人逮捕への執念が強くなりすぎて、間違った方向へ行ってしまうこともあるのではなかろうかと。
本作は冤罪こそ生まなかったものの、犯人逮捕になんとも後味の悪いおまけが付いてしまい、ちょいと鬱になりました。

やはり風俗描写が面白い

王命捜査担当、ニコラ警視の事件シリーズ第2弾。

『鉛を呑まされた男』ジャン=フランソワ・パロ著/吉田恒雄訳
(ランダムハウス講談社 2009年邦訳)


1761年パリ。ルイ15世の娘アデライード王女の側近であるリュイセック伯爵の館で、変死体が発見された。醜くしぼんだ老人のような遺体は、なんと伯爵の若き子息のものだった。現場は密室で、伯爵も息子は自殺したのだと主張するが、警視ニコラは殺人だと直感する。伯爵は何を隠そうとしているのか? 持ち前の妄想力と正義感で捜査を始めたニコラは、事件の裏に、ある秘密組織の存在を嗅ぎつけ…。(文庫裏表紙より)


Photo 死体の顔が老人のようにしぼんでいたのは、漏斗を使って溶けた鉛を呑まされるという拷問にあったからでした・・・本のタイトルになっているのでネタバレとは言えまい?


本作も1作目と内容に遜色はないと思うけれど、1作目のほうがサクセスストーリーという分かりやすいテーマがあっただけに楽しめた。本作は、ポンパドゥール夫人とアデライード王女の確執、イエズス会追放など、フランスの歴史をある程度詳しく知っていないと本当の面白みは分からない気がする。歴史小説の側面がより強くなった感じ。文庫の表紙はこんなんだし、主人公も正統派すぎるけれど、歴史好きには意外と歯応えのある内容かと思います。

それにしても風俗描写は、本作もまるで見てきたように鮮やかでした。

2009年9月20日 (日)

“シェトランド四重奏”夏編

CWA受賞作『大鴉の啼く冬』に続くシェトランド島を舞台にした英国ミステリ第2弾。

『白夜に惑う夏』アン・グリーヴス著/玉木亨訳
(創元推理文庫 2009年邦訳)


Whitenightsjpg 白夜の夏を迎え、シェトランド島にも観光客の一団が目につくようになった。地元警察のペレス警部は、以前の事件で知り合った子持ち女性フランと静かな愛を育みつつあった。フランはこの夏、島の名士でもある画家ベラと合同で絵画展を開催。しかし、そのオープニングパーティは何者かの妨害ビラにより、客が集まらない惨めな結果となったうえ、パーティで目撃された見知らぬ男が翌日、画廊近くの桟橋の小屋で首吊りの他殺体となって発見される。やがてその男が、パーティ中止の妨害ビラをまいた犯人だったことが判明。男は何者で、目的は何だったのか。そして誰に殺されたのか…。


前作よりもシェトランドの風土が濃厚に感じられる本作でした。途中でシェトランドの画像などをネットで検索したり…。大きな樹木などはほとんどない島。短い夏には海鳥ウオッチングや古代遺跡、音楽祭などを目当てにツアー客が訪れるようで、小説の中には空港で飛行機を待つ「日本人観光客の一団」という描写も。観光地を扱った小説には必ず登場するんだよね、日本人の団体ツアー。国際的な観光地の証になっているのではないかと思う。


ペレス警部を含めすべての住民がなんらかのつながりがあり、顔見知りばかりの小さな集落が舞台。そんな環境での事件捜査は、本土から捜査の指揮をとるために駆けつけたテイラー主任警部にとっては、手ぬるく、ちんたらしていているように見えて仕方ない。でも、それは田舎(島)だから捜査ものんびりしているというのではなくて、小さな集落特有の人間関係というものを島育ちのペレス警部がよく理解していたからなのでした。
互いに知りすぎているからこそ自分だけの秘密を抱えるようになり、他人のことはあまり穿鑿しないことで成り立つ社会というのは島に限らず、うちの田舎もそうだと思う。それゆえか自殺者の割合がとても高い。

2009年9月 6日 (日)

ごまかしなしの西部劇映画だった!

シネコンを出たら、例の雑誌のアンケート調査の人につかまって「バラッドどうでした?」と聞かれたけど、いい年してひとりでそんな映画、観るわけないじゃん。


「3時10分、決断のとき」(2007年 アメリカ)
★★★★

Yuma エルモア・レナード原作、1957年製作の西部劇映画のリメイク。話が進行するにしたがって、ラッセル・クロウ演じるお尋ね者のベン・ウェイドがだんだんとそれほど悪い人間には思えなくなっていくところが面白いのだが、割と早い時点でそのことがみえみえになってしまう。捕まってからの余裕で構えているときの、何を考えているか分からない不気味さに欠ける。
片や、お尋ね者を護送する役目を名乗り出る貧しい牧場主にはある思いがあったのだが、演じているのがクリスチャン・ベイルなので、ウェイドの心変わりを決定づける告白場面の感動に欠けるというか、もっと小柄で情けない風体の俳優が演じていたらどうだったのかなと思う。

どうも、最近、おなじみの俳優が出てると「またか」と思って、話に入りこめないで困る。子供の時分、その時代に観ていたら普通に面白かったと思う。

マカロニウェスタン風のオープニングテーマ曲にニヤニヤ。雰囲気やセットなどもできるだけ往年の西部劇映画に忠実につくろうという意気込みが感じられた(映画のセットを真似たセットに見えてしまったところがおかしかったけれど)。客席の年齢層が高く、きっと懐かしい思いで観ていた人が多かったでしょう。アクション映画というと若者向けが多いわけだが、大人向けの娯楽作を目指して、こういうあまり有名でない作品をリメイクするのはいいね!

ウェイドの子分役ベン・フォスターの耳障りな声は、いかれた悪役がぴったりだ。

オリジネーターは俺たちだ

上映が終わらないうちに観なきゃーと焦った。

「キャデラック・レコード 〜音楽でアメリカを変えた人々の物語〜」(2008年 アメリカ)
★★★☆


Cadillacrecords シカゴのブルースレーベル、チェス・レコードの歩みを、そのサウンド作りに大きく貢献したベーシストで作曲家のウィリー・ディクソン(セドリック・ジ・エンターテイナー)が振り返るという趣向。
主役はポーランド移民のレーベル創設者レナード・チェス(エイドリアン・ブロディ)と、最初に契約を結んだマディ・ウォーターズ(ジェフリー・ライト)。映画の製作総指揮に名を連ねるビヨンセが演じるエタ・ジェイムズは、流れ的に後半になっての登場。しかし、残念ながらこの3人があまり魅力的に見えないんだよね。

逆に、印象的でキャスティングも良かったと思ったのが、リトル・ウォーターとハウリン・ウルフ。しかし、リトル・ウォーター、そんなに物騒な人だったの? 映画の中では確実に何人か殺しているんですけど(笑)。一方で、演じるのがモス・デフだからもっと登場すると思っていたのにそうじゃなかったのがチャック・ベリー。有名だから省かれたのかもしれないすね。


題材が好きだから楽しく観たけれど、いろんなエピソードをつなげただけの散漫なストーリーで、そのエピソードもありきたりなものが多い。映画としての出来はまったく大したことなかった。チャック・ベリーがビーチボーイズを、ハウリン・ウルフがレッド・ツェッペリンを盗作で訴えて勝訴したというエンディングテロップでの後日談が、実はいちばん鳥肌ものだったりして…。でも、そういう意味じゃ、ロックンロールの草創期にこういう人たちがいたという記録にはなっているか。


南部の田舎で生まれたアコースティックなブルースが、シカゴの都会では、街の喧噪に負けないようにアンプによって増幅せざるを得なかったという描写は、なるほどなと思った。音のでかさとテンションの高さがロックの原点であり、騒がしい都会がロックンロールを生んだということですね。また、この映画を観ると、ストーンズのライブ映画にバディ・ガイが登場したときのインパクトも、より増幅されるというものだ。

2009年9月 5日 (土)

死に神に取り憑かれた男

『静かなる天使の叫び』R・J・エロリー著/佐々田雅子訳
(集英社文庫 2009年邦訳)


Photo アメリカ・ジョージア州の田舎町で、1939年から幼い少女を狙った連続殺人事件が起きる。最初の犠牲者が出た年、11歳のジョゼフは父を病気で亡くしたばかりということもあり、クラスメートだった少女の死に大きなショックを受ける。そして、5人目の犠牲者の惨殺死体をジョゼフ自身が発見。が、それは彼の呪われた人生の始まりにすぎなかった。・・・やがて大人になったジョゼフは故郷と決別し、NYで作家を志すが、未解決の連続殺人事件は、次第に彼の心に自身の罪悪感となって巣くい、人生を狂わされていく…。


もうとにかく、これでもかこれでもかというほどのすさまじい不幸が主人公を襲い、ものすごく重苦しい内容なのだけれど、抒情的な文章で、最後までどっぷり引き込まれて読んだ。面白い。
はたしてジョゼフは、希代の祟られ男なのか、それとも何者かにつけねらわれているのか・・・結末は、自分が考えていたものとは少し違っていた。そんな身も蓋もない真実だったのかという思いと、人物描写に巧妙に騙された(なんとなくグレーな印象はあったが)という心地よさと、完全には吹っ切れぬ不気味な思いが交差。


アメリカが舞台だが、著者はイギリス人。父親が不在で、母親とは7歳のときに死別、17歳のときに密猟で逮捕されて服役という経歴が、この小説の主人公にも反映されていそう。コナン・ドイルやスティーヴン・キングに魅せられて小説を書くようになったとのことだが、この作品はウィリアム・アイリッシュの小説を思い出させるところもある。

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