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2009年8月13日 (木)

米国で有色人種連盟を訴えた男

新潮社刊『日本から救世主が来た』(2001年)を文庫化にあたり改題。

『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』出井康博著
(講談社+α文庫)


Nakane 日米開戦前夜、デトロイトを拠点に、白人が支配するアメリカ政権打倒を訴えて黒人たちを扇動。最盛期には全米で10万人もの黒人を組織して、FBIにマークされ続けた男がいた。これまで歴史の闇に埋もれてきた日本人活動家、中根中に初めてスポットを当てたノンフィクション…。


アフリカ回帰運動の教祖マーカス・ガーベイが国外追放となり、デトロイトにおいてその支持者たちを引き継いだのが、のちにマルコムXらを輩出したネーション・オブ・イスラムであり、日本からやってきた中根中が組織する黒人結社「ディベロプメント・オブ・アワー・オウン」(DOC)だったということらしい。この両者の間には交流もあった。とにかく1930年代のアメリカにも、白人の大国ロシアを破り、中国を白人の支配から解放したとして、非白人国の日本に熱い視線を向ける人々が少なからずいたというのが予想外だった。


この本には印象的な3人の日本人が登場する。1人は故郷の大分でメソジストの洗礼を受け、布教活動を行う身から一転アメリカに渡り、反米破壊活動家として頭角を現した主人公の中根中。1人はその中根の実弟で、兄を追うようにアメリカに移住し、ワシントン州タコマで日本人学校の校長として妻とともに日系子女の教育に尽力した山崎正人。もう1人は、留学生としてニューヨークのコロンビア大学に籍を置き、当時ハーレムで花開いた黒人の文化や芸術に魅せられ、やがてアメリカ黒人問題の専門家として日本政府の目にとまり工作員として利用されることになる疋田保一・・・この3人の性格や生き方の対比がドラマチックで面白い。


しかし、3人の中で最も人物像がつかみにくいのが中根中だ。渡米後しばらくは酒と博打に明け暮れる生活を送り、あげく小切手横領、多額の借金をこさえ、妻子をあっさり捨てての逃走など、相当の型破りな一面があるのだ。
FBIが中根を危険人物として逮捕までしたのは、その豊富な活動資金が米国内の混乱を企てる日本政府から、もしくは黒龍会から提供されているのではないかと疑ったからで、FBIには約400ページにもわたる個人ファイルが残されている。しかし、それ以外の中根の軌跡をたどる資料はまったく乏しく、日本政府や黒龍会とのかかわりを示す証拠もない。
著者は「中根の名前が日本はおろか、アメリカでもほとんど知られていないのは、日系人が味わってきた苦難の歴史に泥を塗りかねないからだ」と推測しているが、私には中根がはたしてそれほどの脅威を持たれるような人物だったのかどうか、よく分からなかったというのが感想。今となっては中根を直接知る人物の多くが故人。証言すらほとんど集まらないので、想像するしかない部分が多い。残念なことに。

ただし、日本にいたときからアジテーターとしての才能が際立っていたことは確かで、元牧師でありながら、やがてキリスト教は差別を肯定する宗教だと思い込む人々と結びついていった過程には興味をそそられるのものがあった。

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