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2009年6月 1日 (月)

もしもイスラエルが建国されていなかったら…

北米のSF小説の文学賞3冠に輝き、MWA賞長編賞とハメット賞の最終候補にも残った作品で、日本でも今年の翻訳の話題作として扱われている?

『ユダヤ警官同盟』マイケル・シェイボン著/黒原敏行訳
(新潮文庫 2009年邦訳)


Photo アラスカにあるユダヤ人入植地、シトカ特別区の殺人課刑事マイヤー・ランツマンは、同じ警官だった妻と離婚して以来、安ホテル〈ザメンホフ〉に滞在して酒浸りの日々を送っていた。ある日、同じホテルに偽名を使って泊まっていたヤク中の男が銃殺される。死体の傍らにはゲーム途中のチェス盤があり、興味を引かれたマイヤーは、相棒であり幼なじみでもあるベルコとともに進んで捜査に乗り出すが、同じ頃、上司として舞い戻ってきた元妻ビーナに、事件を未解決として葬るよう言われる…。


著者は映画「ワンダー・ボーイズ」の原作者。というと、映画を観た人にもなんとなく作風の予想がつくでしょうか。これもすでにコーエン兄弟によって映画化が決まっている。ハードボイルドのエンタメ要素はありつつ、ユダヤ教に疎いと少し難解な映画になりそう…。本ではある程度の説明がされているので無理なく読めますが。


時代は今。第二次大戦後のイスラエル建国は周囲のイスラーム諸国との衝突で失敗し、ほかに行き場のなかった東欧系ユダヤ難民がアラスカ州シカトに大量流入してできた特別区が舞台。アラスカのこの地にユダヤ難民を受け入れる計画は実際にあったようで、その「もしも」に基づいて書かれた小説です。
ほかにも、原爆が落ちたのはベルリンで、満州国は存続している描写もあるけれど、これは小説の内容にはまったく関係してこない。余談ながら、原爆がドイツに使われることはありえなかったと思いますよ。アジアの有色人種国だから落とされたと確信しています。


で、安住の地と思われたここシトカも、当然ながら先住民のトリンギット族との対立はあるし、アメリカ政府はユダヤ人の人口増加で入植地が膨れあがるのを警戒して、ついに特別区のアラスカ州への返還を決定。2カ月後には再び、彼らは新たな移住先を見つけて出て行かなければならない状況にあります。
主人公のやさぐれ警官、ランツマンはどこかからの圧力によって、停職に追い込まれながらもホテル殺人の捜査を続け、死んでいた男の正体と事件の背景を突き止めるが、そこには特別区解消のタイミングをねらった、国家規模のなんとも不気味な陰謀が!という内容。

以下ネタばれ。


世界を混乱に陥れているのは、財界や政界とも結びついたアメリカの原理主義的キリスト教というのを、かなりストレートに皮肉った小説と解釈。キャッシュダラーという名前の人物が登場するが、この命名も相当に強烈な皮肉が込められていると感じました。
読後は事件の顛末に反してささやかな感動がある。ユダヤ教徒の風習、食べ物、言語、ハシディズム派などの教派、境界線の知者など、雑学的にも面白かったです。しかし、架空の話なので、どこからが創作か分からないのが難点(笑)。チェスというゲームについても触れられているが、この点は漠然としてしか分からなかった。
あと、下記の一文は自分も昔から思っていたことなので、メモしておく。「政治的に正しい」判断からすれば、プルートというキャラクターはとっくに抹殺されていそうなのに、不思議なのだ。


ランツマンは(漫画の描かれた子供用の)ごみ入れをじっと見つめた。ディズニーのキャラクターのプルートという犬にはいつも漠然とした居心地悪さを覚えたものだ。ネズミに飼われ、グーフィーという気味の悪いミュータントのそばで暮らさなければならない犬…


裸の犬プルートが、洋服を来た犬のグーフィーにペットとして扱われている絵というのはどうしたって変だよ。

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コメント

突然のコメント失礼致します。
失礼ながら、相互リンクしていただきたくて、コメントさせていただきました。
http://sirube-note.com/police/

もしよろしければ、こちらのページから相互リンク登録していただけましたら幸いです。
http://sirube-note.com/police/link/register/
今後ともよろしくお願い致します。
XkOL0mqy

>sirubeさん
確かに当ブログでは警察や警官といった言葉が多く登場しますが、
資料になるような記事はないんですよね(^-^;

また、リンク先表示は自分がよく訪れる先に限っています。
しばらく検討させてください。
ご要望に添えなくてすみません。

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