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2009年3月20日 (金)

外交官を父に持ち

詩人でフランス文学翻訳家の堀口大學の青春回想記の形を取って綴られる、メキシコ内戦を舞台にした歴史ロマン小説。

『悲劇週間』矢作俊彦著
(文春文庫 2008年文庫化)

明治四十五年、ぼくは二十歳だった。それがいったいどのような年であったか誰にも語らせまい。
一切は、公使としてメキシコに赴任していた父がぼくを任地へ呼び寄せようと心に決めたことから始まった。もとより学業に向かぬぼくは、やっとの思いで慶応の予科に入学したばかり、学生暮らしもまだ一年とは経っていなかったのに。
父はぼくを外交官にしたかったのである。(本の出だしより)

Photo

堀口大學の父・堀口九萬一は日本初の外交官であり、当時日本と密接な関係にあったメキシコに赴任中、軍事クーデターによって失脚したマデロ大統領の親族を公使館にかくまうなどして守り通し、サムライ外交官と謳われるーー。この小説はその出来事に焦点を当てるとともに、大統領の姪であるフエセラと堀口大學の内戦下での淡い恋を描いたもの。


これは内容がめちゃくちゃ濃い! いろんな要素が詰まっていて私にはうまく感想がまとめられないのだが、祖母に育てられた子供時代に始まり、与謝野晶子との交流、旅の途中に療養で滞在したハワイのこと、メキシコの歴史と風俗、革命の英雄パンチョ・ビリャとの一瞬の出会い、そしてコーヒー色の肌をした娘への一目惚れ、幾度かのデートなど、若き大學の体験したことがみずみずしく、大學の文体を模して綴られています。
人物もそれぞれに強い印象を残し、それだけでも十分に読み応えがあるのですが、しかし物語の軸となっているのは、大學の外交官の父と、革命の犠牲になったマデロ大統領とその一族のことでしょう。


今やっている大河ドラマ「天地人」は「義」がテーマ。そんな折なので、この小説にも「義」へのノスタルジをひしひしと感じてしまいました。
ロシアに勝利した日本人をメキシコ人が義の精神をもったサムライと称賛し、日本人移民たち(明治維新前後の戦の体験者だったりする)も、内戦の戦火があがると、身を挺してその精神を発揮する場面が描かれています。一方で、「外交は言葉でやる戦争だ」と語る大學の父は、やはり義を重んじつつも、公使として国益を守るためとあれば、マデロを騙して陥れた敵とも握手する。大學はそのことに憤るが、「外交で正義をなそうなど思い上がりだ」と諭す父。そして、やがて父もかつては理想との狭間に悩み通した過去があることを知るわけです。


欺瞞に満ちた西洋世界と伍していくために、切り捨てなければならない美徳もまた、若き大學の口癖「ひとつを失えば、ひとつを得る」に該当するのだろうか。
青春小説としての締めの一文が、うまいなあ(ここに書きたいけど書かない)。

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コメント

初めておじゃまします。
わたくし、最近「きょうのあらかると」というココログを立ち上げましたKOZOUともうします。
下手な小説とかもアップしております。

「悲劇週間」読んでないのですがおもしろそうですね。
タイトルがまたいいですね。

時々寄らせていただきたいと存じます。
もしよろしかったらわたしのブログものぞいていただければ幸いです。

はしめまして、KOZOUさん。コメントありがとうございます。
そうなんですよ、悲劇週間はタイトルにも引かれました。
表紙が単行本と文庫とではまったく違うのも面白いですよ。

私もこちらのブログは始めたばかりです。
よろしくお願いします!

himehikage様さっそくおいでくださり誠にありがとうございます。m(__)m
興味をもって読んでいただいたのでしたらほんとに嬉しいです(*^_^*)

「悲劇週間」ほんとに面白そうですね。堀口大学の父がそんな経歴とは知りませんでした。彼の詩は好きです。パンチョ・ビリアも興味ありますね。

ほんとにありがとうございました。お暇なときにまたお寄りください(*^_^*)
わたしも「ボロだけどボロボロじゃない」(これもタイトルがいいですね(*^_^*))におじゃまいたします。
今後ともよろしくお願いいたします。m(__)m

あ、こちらにわたしのサイトからリンクさせていただきましたけれどよろしかったでしょうか。

>KOZOUさん
リンクありがとうございます。
実はいつもはミステリ小説ばかり感想を記録していて、覗いてもらうのに面白いブログかどうかわかりませんが(^-^;
私のほうも貼らせてもらいました。
これからもよろしくお願いいたします。

こんにちわ。
今朝は少し肌寒かったです。

こちらにもリンクくださいまして大変ありがとうございます。
わたしも以前はミステリーにはまっていました。特に硬派の政治サスペンスとか大好きです。今はなかなか読む時間がないのですが(^_^;)
「コンラッド・ハーストの正体」確かにタイトルと帯は面白そうですね。一番のセールスポイント(*^_^*)

今日もいい日をです。

>KOZOUさん
こんばんは。私もどっちかというと硬派なサスペンスが好きです。
でも、政治ものは考えてみたらあまり読んでないかもしれません。
何かのついでに、おすすめなどあったらよろしくお願いします。
といっても、私も本を読む時間はブログなどやっていると減るばかりなのですが…。

こんにちわ。
まだ朝晩寒いですね。
わたし福岡ですが桜も元気なくしているようです。

わたしが好きだったのはもう古典にもなっているようなジョン・ル・カレとかフォーサイスとかです(^_^;)
日本では佐々木譲とか好きでした。
確かにブログとかにはまったら時間は減りますね(^_^;)

KOZOUさん、さっそくありがとうございます。
ル・カレのほうだけ2冊ほど読んだことがあります。確かに硬派でした。
佐々木謙はそのうち読もうかなと思っていたので、挑戦してみます!

ヒメ、おひさ(爆)

warmgunもしぶとく生きている、gooだよ。

最近、ぼくも矢作俊彦引用ブログを書いた。
ハードボイルドだぜ。

この『悲劇週間』は買ったが、読んでないんだ。
堀口大學というのは、(その翻訳が)苦手なひとなんだ。

おかしいな、下のコメント、名前入れたつもりが表示されてないのでもう一度。

warmgunさんだ! わおー先にコメントいただけてうれしいです!
実は、warmgunさんのブログ、しばらく前に見つけていたんですよ。
ドブログのブログ名とHNで検索したら見つかったので・・・
こっそりのぞき見しててすみません(^-^;
私でもコメントできる記事はないかなとタイミングをはかっておりました。
これからは遠慮無くうかがわせてもらいます!

大學の翻訳が苦手なのに、買ったのですね?
矢作俊彦の文はやっぱり良かったです。大學のマネをして書いてますけども。

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