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2008年11月 2日 (日)

法曹界が抱える不条理

読み落としてたダルグリッシュ警視長シリーズの1冊。

『正義』P・D・ジェイムズ著/青木久惠訳
(ハヤカワ・ミステリ 1998年邦訳)

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ロンドンのミドル・テンプル法曹学院に所属する辣腕女弁護士ヴェニーシャ・オールドリッジは、反抗的に育った一人娘のオクタヴィアから近々婚約予定の相手を紹介される。その相手は以前に伯母殺しで起訴され、ヴェニーシャが弁護に立って無罪を勝ち取った青年アッシュだった。そしてその直後、ヴェニーシャは学院の部屋で刺殺体となって発見される。頭に法廷用のカツラが被せられ、その上から大量の血を浴びせられた姿で...。


関係者のほとんどが殺人の動機になるものを抱えているというオーソドックスなフーダニットミステリの体裁を取りつつ、確かな証拠がなければ裁くことができないという司法の弱点と、それによって引き起こされた二重三重の悲劇をシリアスに描いた本作。人間描写もP・D・ジェイムズらしく、相変わらず身も蓋もないというか、毒を含んでいるが、とりわけ結末の皮肉は強烈!・・・しかし、あの結末は本作の題材を考えれば十分納得できるもので、因果応報という言葉が思い浮かぶ。

愛情が欠落した人間というのも、大きなモチーフだ。弁護士が被告人の無罪を勝ち取ることと、その被告人の無罪を信じているかどうかは別ーーその不条理に思い悩んできた様子は一切なく、娘のことよりも常に自分の体面を気にするヴェニーシャ。そして、里親の家を転々として育ち、親切にしてくれる人の心をずたずたに引き裂かずにいられないサガをもつアッシュ。ヴェニーシャ殺しの真犯人は、自分が限定的な愛情しかもてない人間であることを吐露する場面があるし、オクタヴィアの父親もそういったタイプの人間かもしれない。

そんな中で、ヴェニーシャが法曹への道を歩むきっかけをつくった人物フロギットは、異色の存在。変わり者なのだけど、打算が感じられないというだけで、なんだかホッとする。ほかにも本作には強い印象を残すキャラクターがたくさん登場するので、かなりの読み応えがあった。そのため、ダルグリッシュや部下のケイト・ミスキンらの活躍ぶりは、読み終わってほとんど記憶に残らなかったけれども。
思い返してみれば、ダルグリッシュ・シリーズは、レギュラー人物のキャラクターにはいつもそれほど引かれず、さまざまな事件関係者の立場を借りて、人間誰もがもっているエゴや残酷な側面を赤裸々にするところが面白くて読んでいるのだ。

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