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2008年7月 5日 (土)

石をひっくり返す者

スウェーデンの人気ミステリ作家最新作。

『タンゴステップ』ヘニング・マンケル著/柳沢由美子訳
(創元推理文庫 2008年邦訳)

Fi2621615_1e 若くして舌ガン宣告を受けた警官リンドマンは、その直後に、森の中の一軒家で隠居生活を送っていた先輩警官が何者かに惨殺されたことを新聞記事で知る。病気への不安を、治療に入る前の休暇を使って事件の独自調査に費やすことで紛らわせようとするリンドマンが注目したのは、先輩刑事が常に何かにおびえているように見えたことと、彼の過去に空白の数年間があることだった…。

ヘニング・マンケルのミステリ小説は、人種差別問題とかグローバリズムの弊害などを浮き彫りにするものが多い。本作では、敗戦後のドイツでナチス戦犯が処刑される場面をプロローグにもってきて、現代も形を変えたとはいえ、外国人労働者の増加などによってヨーロッパ中で再び広がりをみせるナチズム思想の根深さを題材としている。
スウェーデンは基本的にはドイツと同じ文化圏下にあり、戦前戦中は東欧諸国と同じくボリシェヴィキへの抵抗からナチスを信奉した人が多かったのですね。実際にドイツへ渡り、親衛隊に志願した者もけっこういたことが、現代のスウェーデン人も知らない事実として小説の中で語られています。架空のネオナチ組織も登場するのだけど、ヒトラーの描いた理想主義が戦後も一度も死に絶えることなく、ごく普通の人々の間で確信的に受け継がれていることとして描かれているのが不気味といえば不気味です。

前作のクルト・ヴァランダー・シリーズ『目くらましの道』が、これまでのシリーズ最高傑作と思える出来だったので、続いて書かれたこの小説はノン・シリーズながらとても期待していました。けれど、本作はマンケルの社会派としての性格が強く出過ぎたのか、ミステリ小説としての面白さはいまいちだったかなあ…。いろいろとバランスが悪いように感じた。
事件と主人公の個人的な思い出の絡ませ方とか、犯人がスウェーデンに居続ける理由付けが、少し強引に思った。また、元警官殺しの動機となった出来事というのが、それまで語られてきた犯人の執念や残忍な殺人方法の割に、あっさり描かれているところ。そして、小説後半に残されたもう一つの殺人事件の真相も、解明されてみれば案外しょぼい動機というか、意外性が少なくて盛り上がりに欠けた。しかし、この娯楽小説としての物足りなさはヘニング・マンケルの良識のなせるところかもしれない。

ヴァランダー・シリーズ読者へのサービスとしては、『目くらましの道』の中で殺される元法務大臣の兄という人物が登場。あと、あとがきにあったけど、マンケルの現在の妻はイングマル・ベルイマンの娘だそう。夫婦そろって有名人なのね。

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