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2008年6月

2008年6月30日 (月)

守護犬ボンボン

「今夜、列車は走る」を観たときに、アルゼンチンの映画だったらこれが面白いよとすすめられてレンタル。やはり突然職をなくしてしまうおじさんの話。

「ボンボン」(2004年 アルゼンチン)
★★★★☆

初老の男フアン・ビジェガスは、20年もの間まじめに働いてきたガソリンスタンドを、オーナーが代わったとたんクビにされてしまう。再就職先も見つからず、住まいもなくしたフアンは、娘夫婦の家で肩身の狭い日々を送っていた。そんなある日、人助けをしたフアンは、そのお礼として大きな白い犬“ボンボン”をなかば強引に贈られてしまう。家に戻ると案の定、家族の大反対が待っていた。仕方なく、ボンボンを車の助手席に乗せ、あてのない旅に出るフアン…。
(allcinema ONLINEより)


Fi2621614_1e_2 よかったよおー。こういうの、大好き。仕事も家もなくても希望がある! それだけで幸せな気分にさせてくれる映画。「わらしべ長者」を思わせつつ、そうはすんなり事が運ばない。ひねりのきかせ具合が面白かった。

空高く日差しは強いのに、いつも冷たい強風が吹きつけているような荒涼とした大地、パタゴニアの田舎町が舞台。ここも雇用不況が深刻なようで、主人公のフアンが身を寄せる娘夫婦の家も、娘は働いているが夫は失業中。フアンは手作りのナイフを売り歩いて、生計の足しにしようとするが、まったく売れない。このフアンというのが小柄で物静か。いわゆる競争社会の中ではとことん影の薄い男。でも、困っている人は放っておけない性格で、それがきっかけで血統書付きのボンボンをもらい受ける。そして、ボンボンと一緒に行動するようになってからは、周囲がフアンを放っておかなくなり、儲け話を持ちかけてくるようになる。
その変化を、人のいいファンはありのまま受け入れながらも、何か場違いなところにいる落ち着かなさを感じているようにも見える。特にドッグトレーナーとの関係は、見ていてなんだかハラハラした。悪い人じゃないかもしれないけど、フアンとは性格も価値観も違いすぎる。ボンボンもそれを分かっていたのだろうか…。あれはボンボンがひと芝居打ったとしか思えませんが(笑)。ボンボンと再会したときのフアンに笑顔が最高だった。あと、この映画の後味の良さは、クラブ歌手の女性のひとことが大きく影響している。

主人公のフアンをはじめ、出演俳優のほとんどが素人だという。へたをすると犬のボンボンのほうが演技経験があったりしないか。でも、素人劇という感じがまったくないのがすごい。むしろ、物静かでお人好しのフアンをプロの俳優がやっていたら、あざとさのようなものが鼻をつく映画になっていたかもしれない。原題は「EL PERRO(犬)」。

2008年6月29日 (日)

新手のノワール・コメディ

面白いと言われて公開終了ぎりぎりに観に行った。
こ、これは……とんだおバカ映画だ(笑)。

「シューテム・アップ」(2007年 米)
★★★★☆

Fi2621613_1e 深夜のニューヨーク。銃をもった男に追われる妊婦を目撃した男は、放っておけず助けようとするが、そのまま銃撃戦に巻き込まれる。そして、妊婦は赤ん坊を産み落とした直後に流れ弾に当たって死亡。男はやむをえず赤ん坊を抱え上げ、赤ん坊の命を狙う謎のギャング団から逃亡をはかる…。

いつもはシリアス系の役が多い豪華キャストを揃え、こういう銃撃戦シーンがあったら面白いというの次々と、リアリティ無視でそのままやっちゃった感じが潔くて、痛快! 2万5千発もの銃弾が放たれたらしい。内容は不謹慎なほどに軽いんだけど、とにかくカッコよすぎて笑える。

銃の腕前は100発100中。片手に主食のニンジン、片手におくるみの赤ちゃんを抱えて追ってくる悪に反撃するクライブ・オーウェンが最高にいかす! でも、性格は若干「シリアル・ママ」入ってるかい?(笑) 対するギャング団のボスであるポール・ジアマッティは、元FBIのインテリで、プロファイリングをしたら100発100中を自負。でも、死んだ妊婦の裸のおっぱいに欲情しそうになる変態野郎だったりして。モニカ・ベルッチに関しては、娼婦役というだけで存在感十分でしょう。熟れた豊満な肉体をあらわにして、娼婦にして聖母を演じる。最高にはまり役。

オーウェンの無精髭の生えたたるんだ頬のアップとか、ベルッチの熟れすぎた肉体が、渋い大人の魅力として見えるのは、撮影に香港映画出身の人を使っているせいもあるのでしょうか。他のハリウッド・アクション映画の映像とはひと味違う感じです。そして、大人キャストだけでなく、赤ん坊までもが一癖ありそうな顔つきの赤ちゃんでした。ヘビメタを聴いたり銃を見ると泣き止んで笑う赤ちゃんですからね、ただ可愛いだけではダメなんですよね。

おバカなアクション・コメディとしては「パニッシャー」、渋いキャスティングや音楽使いなどのセンスは「ペイ・バック」を思い出したけど、それらともちょっと違う。監督はミュージックビデオ辺りが出身の若い人だと想像していたけれど、写真で見る限りはそうでもない。

2008年6月24日 (火)

美男美女だったら良かったのに。

土曜日に映画館。19世紀末、ハプスブルグ帝国末期のウィーンを舞台にしたミステリー。

「幻影師アイゼンハイム」(2006年 アメリカ/チェコ)
★★★☆

Fi2621612_1e 伯爵令嬢との幼い恋を身分違いゆえに引き裂かれたアイゼンハイムは、傷心のままマジシャンの腕を磨くべく東方への長い旅に出る。やがて、天才と評される幻影師としてウィーンに凱旋したアイゼンハイム(エドワード・ノートン)は、ショーを観覧に来ていたかつての恋人と再会を果たすが、彼女は皇太子レオポルドの婚約者となっていた…。

(大枠ネタバレ)
原作はスティーヴン・ミルハウザーの短編小説。19世紀末のマジシャンの映画といえば「プレステージ」があるが、あちらが次第に天才の狂気をあぶり出していくのに対して、こちらはロマンスに重点が置かれている。マジックを超えた幻想的な物語に思わせておいて、最後の最後で警部ウール(ポール・ジアマッティ)の推理によってすべてが一転するところが見どころ。でも、あれは真実なのかな。マジック好きのウールの想像にすぎないという解釈でなければ、納得いかない部分も若干。解釈はお好きなようにということでしょうか。

映画は普通に面白かったのだけど、なぜか眠くて仕方ない。一緒に見た友人も眠かったそう。前の席の人は気持ち良さそうに鼾をかいていた。梅雨時の低気圧のせいだろうか。「プレステージ」とどっちが好きかといったら、断然「プレステージ」だ。
ルーファス・シーウェルのルックスや雰囲気が、残虐な面を持つ高貴な役にぴったり。「ロック・ユー!」や「レジェンド・オブ・ゾロ」でもそうでしたね。最近は渋さが加わっていい感じ。対して公爵令嬢役のジェシカ・ビールがまったく貴族らしくない、むしろたくましい田舎娘といったルックスで、なぜキャスティングされたのか不思議です。
あのロケットペンダントは、田舎の物産館で土産物として売ってみたらどうか。1000円くらいで売ったら売れそう。

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映画の後で、ミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」の打ち上げコンサートというものに誘われて行ってきた。映画でも主演していたジョン・キャメロン・ミッチェルがゲスト参加。7年ぶりにヘドウィグをステージ上で歌ったとのことだったが、もともと才能があるんですね。歌は良かったですよ。あと、山本耕史はギターがうまい。ヘドウィグばりのコスプレの人たちや、ジョン・キャメロン本人が登場するや感激のあまり号泣しだすファンもいて、圧倒されました。
さて、自分にとって今楽しみな来日ライブ公演といえば、アレなわけですが・・・はたしてとれるかなチケット。まったく予想がつかないのが怖いよおー。

2008年6月16日 (月)

膝の入れ墨

「JUNO/ジュノ」を観に行ったら、同じ映画館で、髪をオールバックに固め、くわえタバコ姿のヴィゴ・モーテンセンのポスター見て、ぐわぁああ面白そうだ!とそのまま続けて鑑賞。

「イースタン・プロミス」(2007年 英/カナダ/米)
★★★★

Fi2621611_1e 身体に虐待の痕のある14歳の妊婦が病院に担ぎ込まれ、出産直後に息を引き取る。助産婦のアンナは少女の持ち物にあったロシア語で書かれた日記から、少女の身元と赤ん坊の引き取り先を探し出そうとするが、とりあえず日記に挿んであったカードを頼りに訪ねた高級ロシア料理の店で、ロシアン・マフィアに目をつけられてしまう…。

ロンドンにロシア資本が流入するにつれ、裏社会のロシアン・マフィアたちも勢力を伸ばしているんだろうか…。デヴィッド・クローネンバーグ監督、ヴィゴ・モーテンセンとナオミ・ワッツ、ヴァンサン・カッセルら出演。いかにも男が憧れる渋い男を演じるモーテンセンもいいけど、父親の形見である古いソ連製のオートバイを乗り回すアンナ役のワッツも素敵。この2人の関係が、ちょっと古風な映画を見ているようでいいんです。あと、ロシア料理店オーナー役のアルミーン・ミュラー=シュタールが、無気味だったなあ。一見は好々爺なところが。この映画も、出演者が皆はまっているところが観ていて気持ちいい。
マフィアものであり、一つ一つの題材はそれほど新しいものではないけれど、そのパーツの組み合わせが巧くて、魅力的な映画になっている。余計なところのない佳品という印象でした。ロンドンのハマムで全裸のまま死闘を繰り広げる場面など、誇張がないゆえに一層生々しいバイオレンスシーンがあってR-18指定。

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少し前にレンタルで観た映画。「イースタン・プロミス」との共通点は、あのシーンしかない。こっちもある意味、恐ろしく息詰まる場面(笑)。比べるんだったら本来は「ヒストリー・オブ・バイオレンス」なんだけど、忘れていてまだ観ていない。

「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」(2006 米)
★★☆

カザフスタン国営テレビの看板レポーターである主人公ボラットが、取材先のアメリカで、大陸を横断しながら、はた迷惑な大騒動を巻き起こしていくという全米大ヒットのコメディ映画。
差別ネタで笑いを取り、国際問題にも発展したらしいですが、期待したほど面白い映画ではなかった。下ネタも人種差別ネタもストレートすぎて笑う気にならないし、カザフスタンをからかって何の意味があるのかとも思う。そのナンセンスさがいいんだろうか。テレビで見かけたパメラ・アンダーソンに恋をしてしまうという題材だけでも、もう少し掘り下げて、ホロリとさせてくれも良かったんではないか(笑)。でも、これ、素人らしき人がいっぱい出ていて、本気でボラットに騙されて呆れているようなんですよね。どこまでドキュメンタリーなんでしょう。

2008年6月15日 (日)

あっけらかんと見えるがそうでもない。

映画館にて。アカデミー脚本賞受賞作。

「JUNO/ジュノ」(2007年 米)
★★★★

Fi2621610_1e 同級生と興味本位でした一度のセックスで思いがけず妊娠してしまった16歳の高校生ジュノ。彼女は中絶よりも養子縁組の道を選択し、親友の助けを借りて自ら雑誌で里親探しを始める…。

通常だったら深刻な題材として描かれる十代の妊娠と出産が、主人公ジュノの健気なキャラクターと、オフビート感に富んだ会話によって、力強いヒューマン・コメディに仕上がっていました!
ポリタンクに入ったジュースをがぶ飲みし、近所のドラッグストアに何度も通って妊娠検査薬を試してみるオープニングから、高校生ジュノは妊娠を周囲に隠すそぶりなどつゆとも見せず…。しかし、ジュノはまだ子供、やがて当人の予想を超える大波乱や葛藤が待っているに違いないと思いきや、妊娠を知らされた両親をはじめとする周りの人たちは実に物わかりがよい! だれも動揺や不安をあらわにして大騒ぎしないのは、やさしさや思いやり、互いの信頼感があるからこそ。そして、ジュノはジュノで、妊娠を自ら背負い込んだ試練として潔く向き合い、生まれてくる子供の幸せのためにベストを尽くそうとする。
アメリカの事情は知らないけど、日本ではかなり抵抗を持たれそうな内容をはらんでいる。しかし、後味が悪くないのは、軽妙な会話からうかがえるジュノやジュノの周辺の人々のやさしさや思いやり、信頼感。それが「世の中、こういう人たちばかりだったら、里子として育つ子供についても何も心配することはない」という不思議な説得力を生むからだ。

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少し前にレンタルで見た映画。「JUNO/ジュノ」と同じくジェイソン・ライトマン監督の前作。

「サンキュー・スモーキング」(2006年 米)
★★★★

全米のタバコ会社が出資するタバコ研究アカデミーのロビイストが、その巧みなディベート能力で禁煙ファシズムに対抗する…。

タバコを例に、害があると認められたものについては、人々に選択の自由を与えず全面排除しようとするファシズム的傾向を大いに皮肉った映画。辛辣でウイットに富んだ会話がてんこもりで、ところどころリプレイして見ちゃいました。
常に批判の矢面に立たされつつ、時には情報操作のための画策にも手を染める。一方で、離婚して別れて暮らす息子からは尊敬できる父親として資質を試されているという状況があり、やがて訪れる自身の大きな危機。これらを弁舌のみでどう収めていくかが見ものです。タバコ業界のPRマンなんて、もはやハンディだらけなので、相手の弱点をうまく利用するしかないのだが、そのことで社会の反感をいっそう煽ってしまってはロビイスト失格。禁煙ファシストを皮肉りながら、喫煙シーンが一度も登場しないのも、同様の気配りでしょうか。タバコについては吸う人にも吸わない人にも中立な立場で作られている映画になっていたと思う。
キャスティングが地味ながら皆よかった! “死の商人”団を自称とする飲み仲間たち=タバコ業界、アルコール業界、銃製造業界のPRマン3人の場面は特に可笑しかった。年間死者数を自慢しあってストレス発散って(笑)。最後にメンバーが増えているオチもヒット。あと、映画会社を訪れた主人公親子が、シャチがアザラシの子供を襲う有名なドキュメンタリー・フィルムの映像にぽかんと見入っている場面は、過激なイルカ・クジラ保護団体に対する皮肉だろうね、おそらく。

2008年6月 8日 (日)

エルドラドは誰のもの?

ラテンアメリカで人気の高いチリ人作家が、若者向けに書いた冒険ファンタジー小説。

『神と野獣の都』イサベル・アジェンデ著/宮崎壽子訳
(扶桑社ミステリー 2005年邦訳)

Fi2621601_1e 母親の病により、作家であり冒険家の祖母のもとにあずけられた15歳の少年アレキサンダーは、アマゾンの奥地に出現するという謎の獣人〈野獣〉を見つける探検隊に祖母とともに加わる。現地で合流したのは、世界的に著名な文化人類学者、カメラマン、女医、ガイドとその娘のナディアら。しかし、その探検隊にはインディオ集落を滅亡させ、アマゾンの富を独占しようと企てる実業家が送り込んだ人物も加わっていた…。


先日、アマゾン奥地で新たな先住民が見つかり、飛行機から撮影された集落の写真がニュースとして公開されていた。全身を赤や黒で塗り、カメラマンの乗った飛行機に対して弓矢を向けている先住民の姿は、映画のセットかと見まがうほど、奇妙な感じがした。この小説に登場する謎の先住民「霧の人々」(存在を目に見えないようにできる忍者のような人たち)も、ヘリコプターのことを「うるさい音と風の鳥」と呼んで警戒していて、タイムリーにもイメージがぴったり重なった。

少年アレキサンダーと少女ナディアが、呪術師から先住民を救う使命をもっていると予言され、さまざまな試練に耐えながらたくましさを身につけていくという、冒険ファンタジーのお約束を踏襲したストーリーだが、彼らが超人のような活躍をするわけではないところに好感が持てたかも。続編が十分にありそうな終わり方ですが。
アマゾン先住民保護の必要性、先進国の思い上がりや行き過ぎた物質文明への批判をところどころに含ませている。あくまで子供向きに書かれてはいるけれど、かなり皮肉が利いていると読めないこともない。あと、大人が読んでも未知なるジャングルの描写は楽しい。

先週の芸能ニュース

北村さんが来年の大河ドラマの準主役に決定!
そろそろ大役で大河来るよと思っていたけれど、この場合の予測は期待にすぎないのだからうれしさひとしお。ニュースを知った1日中、地に足がつかずふわふわしていた。時代劇でこそ真価を発揮するよ、彼は。

で、先週の土曜日に観た映画です。

「ラスベガスをぶっつぶせ」(2007年 米)
★★★

マサチューセッツ工科大学の学生たちが、大学教授の秘密の手引きにより、カードカウンティングというブラックジャックの必勝術とチームワークで、ラスベガスのカジノに乗り込み大儲けを狙う…。

実話をもとにした映画。ギャンブルが題材の映画はなぜか面白いと思ったことがなくて、これもまったく興味なかったんだけど……。観ている間、退屈はしなかったので、作りは良くできていたのかな。しかし、おそらくほとんどの人が映画の出だしで予想したまんまのラストシーンは、こぢんまりとした映画との印象を強めてしまった気がします。
主人公の、母子家庭で学費に苦労している数学の天才学生は、実話ではチャイニーズ系だそうだが、映画では白人になっていて、その代わりのようにチームには東アジア系の学生が一人いる。それが手癖が悪くて何でもすぐに失敬するの。役の名前から日系ではないのだけど、印象が悪すぎると思うのは、同じ東アジア人だからでしょうか。うっすら悪意を感じる(笑)。チームのメンバーよりも、ロボットコンテストに情熱を燃やす貧乏学生のほうが共鳴できるという点で、役得だなあと思いました。

女にもてる宦官探偵登場!

イスタンブールが舞台の歴史ミステリ。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。

『イスタンブールの群狼』ジェイソン・グッドウィン著/和爾桃子訳
(ハヤカワ文庫 2008年)

Fi2621599_1e オスマン帝国のスルタン、マフムート2世が、無頼の集団との評判を落としていたイェニチェリ軍を撃滅してから10年後の1836年。閲兵式を控えた新たな近衛軍の士官4人が失踪し、そのうち1人が惨殺死体となって発見される。一方、トプカプ宮殿のハレムでは、その日スルタンに召されるはずだった女奴隷が何者かに絞殺される。切れ者として知られ、今は仕える主人のいない宦官ヤシムが、その2つの事件解明を任される…。

著者はイギリス人。オスマントルコ史に詳しい歴史著述家だそう。そのためイスタンブールの歴史と、街についてもやたら詳しく描かれており、観光ガイドにもなりそうな1冊。というか、まるでイスタンブールに行ってきた気分(いつか行きたいー)。
登場人物のキャラクターも、主人公の宦官ヤシムをはじめ、その友人のアル中気味なポーランド大使パレフスキー、コサック舞踏手であり男娼でもあるプリーン、マルティニーク出身のフランス人との説に則ったスルタンの母など、気になる人がいっぱい。また、ヤシムは週に一度、パレフスキーを招いて食事を作るのだけど、その調理シーンもめったにないくらい興味をそそられます。代々スーダン出身の黒人宦官がハレムの運営を任されてきたというのも面白いなあ。エジプトのマムルークもそうだけど、イェニチェリや宦官など、イスラムにおける異教徒出身の奴隷の地位は、西洋でいう奴隷とはずいぶん違っているんですよね。誰かの所有物であることには変わりはないようですが。

面白かったけれど、文章は人物視点がくるくる変わるせいもあり、かなり読み辛かった。会話も抽象的な表現が入ってくると、何を指しているのか理解できずに部分的に読み直してもやっぱり理解できないところが何カ所か。そのために登場人物たちに愛着がわいてきたのは、実はかなり後半になってからです。しかし、この人物たちと舞台設定をこれ1巻で終わらせてしまうのはもったいなく、シリーズ化はむべなるかな。巻末に訳者による、トルコ好き丸出しの熱心な解説が添えられていて、これも楽しい。勢いで本書にも登場するメフレヴィー教団の開祖メヴラーナに関係する小説を見つけて購入した。

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『偶然の音楽』ポール・オースター著/柴田元幸訳
(新潮文庫 1998年邦訳)

Fi2621599_2e 初めて読む作家。日本では大人気作家のうちに入るのでしょうね。私も10年前に大学生の年頃だったら、とっくに飛びついて読んでいたかもしれない。そんな作風。
小説から思ったのは、おのれの現状。加齢とともに些細な夢や希望を持ち続けるにも体力がいると感じているこの頃。昨日心に留めたことを、今日はほとんど忘れてしまい、日々の積み重ねというのは自分にとって何なんだろうと一応は落ち込んでみたりするが、それも明日になれば忘れている。若い頃に予想できていたら発狂しそうな成果に乏しい人生なのに、それが辛いか悲しいかというとそうでもなく。ただ、無気力に追い込まれていっているという自覚はあり、習慣によって最低限の生活の営みは維持しつつ、流されていっている感じだ。だけど、流されていくことと、人間としての規範を捨てることは別なので、小説の主人公がその点は貫けてよかったと思います。
たぶん、まったく的外れな感想文(笑)。前半が退屈すぎて、投げ出そうかと思った。

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『葉桜の季節に君を想うということ』歌野晶午著
(文春文庫 2007年文庫化)

Fi2621599_3e 以前に読んだフランスの古典ミステリーとよく似たオチ。あれも読んだ後にどっと虚しくなったが、まだコンパクトにまとまっていたからね。この小説はそこそこ長編なので、これだけ引っぱってきて、そのオチかよ!というバランスが悪さが余韻を不快感に変えてしまった。といいますか、これはオチというほどのものなのか? 最初から分かっていたほうが、個性的な探偵ものとして読後感は良かった気がするけど。
文庫裏表紙に「二度、三度と読み返したくなる」とあるので、出だしだけ読み直してみた。なるほどとは思うけれど、残念ながら再読に耐えるほど魅力的な文章とも内容とも思えず。ただ、2003年に書かれた本なので、社会的素材が今では目新しくもなんともなくなっている点は大目に見るべきなのでしょうか。何カ所かで年間ベストミステリに選ばれた1冊。自分には日本の「本格ミステリ」と呼ばれる小説との相性の悪さを再確認した1冊。

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