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2008年5月18日 (日)

アメリカンドリームの闇

ポール・トーマス・アンダーソン監督、ダニエル・デイ=ルイス主演の話題作。映画館で映画が始まる前の10分くらい、睡魔が襲ってうとうと。これは映画が始まったら本格的に寝てしまうかもと危惧したが、まったくそんなことのない、2時間40分緊張の途切れぬ見応えある映画でした。たまに音楽がうるさくあったけど。

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007年 米)
★★★★★

20世紀初頭のアメリカ。しがない鉱山採掘者であったダニエル・プレインビューは、不屈の精神だけを武器に石油を掘りあて、実業者としての基盤を築く。だが、この成功は彼のゴールではなく、底知れぬ野心に火をつけただけだった…。(映画のちらしより)


(以下、大いにネタばれしてます。)
Fi2621597_1e 岩山の谷あいに掘られた穴の中、主人公プレインビューが一人つるはしをふるい金鉱を探すシーンから始まる映画。BGMがオカルト映画に使われるような弦楽器を使った現代音楽風で、この冒頭から不吉なにおいがぷんぷん。また、ゴールドラッシュがオイルラッシュの時代へと移り変わるまで、セリフが一つもないのも意表を突く。しかし、やがて明らかになってくるプレインビューの人間性を暗示するのに十分な出だし。

山師プレインビューは、アメリカはこういう男たちによって国土を広げてきたんだろうなと思わせる荒っぽくタフな男。他人との絆を一切求めず、あらゆるものを自分の欲望のために犠牲にする。いやはや、これほど一般的な共感とは無縁な主人公の映画も、そうはないよね。しかし、その富と権力への執着の原動力は、出会った途端にその人間の最も醜いところが見えてしまうというプレインビューの人間嫌いの性質にあり、さらにその発端は、映画には登場しないが父親との関係にあったらしいことをにおわせる。

この映画の唯一の安らぎは、息子H.Wの健気さだ。冒頭に登場する油井の事故で死んだ男の遺児と思われる赤ん坊を、プレインビューは男手一つで自分の息子として育てる。心底可愛がっているように見えるシーンも多いが、採掘の土地を手に入れるためにその所有者を説得する道具としても利用する。やがて大油田を掘り当てると同時に、息子は事故で聴覚を失い、その後プレインビューの異母兄弟と名乗る男(ハムナプトラのイカサマ師、ケヴィン・J・オコナーだったよ、これが!)がプレインビューの成功を聞きつけて現れると、息子はもう用なしとばかりに遠くの学校に追いやってしまう。しかし、弟が偽物と分かると(この瞬間のダニエルの憎悪の表情が怖い!)、再び息子を呼び寄せる。

プレインビューがアルコールに溺れ、破滅の様相を見せ始めるのは、偽の弟を通じて、本当の弟の存在とその死を知らされたときからだ。さらに破滅を決定づけるのは、成人した息子が独立して家を出て行くと宣言したとき。私としては、プレインビューが息子にいつ「お前は俺の本当の息子ではない」との真実を告げるのだろうというのがずっと気になって見ていたが、いよいよのときにも徹底して非情なプレインビューの告白に、むしろ彼の人間らしい孤独の叫びを聞いたように感じた。
プレインビューも本能的には孤独に苦しめられ、自分にとっての唯一無二の相手(養子や血縁の弟)に慰めを求めていたのであり、そうした感情を自分で押さえつけ無視してきたことが、コントロール不能にまでふくれあがり、破滅へと導いていったのではないか。遅ればせながら、手にした富と権力を引き継がせる者もいない虚しさにも気付いたのだろう。しかし、これは凡人の想像で、相変わらず彼の頭の中には、自分の権力を超えて行く者は一人も許さないとの思いでいっぱいだったのかもしれない。

プレインビューのやりたい放題を阻む唯一の敵、カルト的教団の司祭イーライも、プレインビューに負けず劣らず疎ましい人物だ。ダニエル・デイ=ルイスの鋭い眼光としわの刻まれた顔はプレインビュー役にぴったりだが、イーライを演じたポール・ダノの顔つきは一見、未熟さと愚鈍さを感じさせるので、やがてプレインビューの合わせ鏡のような性格が露になっていくくだりが一層に無気味に感じられる。

オイルラッシュと、フロンティアに入植した貧しい人たちの間に育まれていったカルト教団という、ネタそのものは時代性と、今に通じる土地柄を十分に反映しているが、映画の後半、プレインビューとイーライの対決がメインになってくると、かなり寓話的な話となり、アンダーソン監督らしいなと思った。掘ったて小屋のような家から一転、バカでかくゴージャスなだけの邸宅の中にプレインビューひとり閉じこもるように暮らしている様子も分かりやすい。(彼に大油田の存在を知らせたイーライの兄とイーライを、同じポール・ダノが演じているのにも何か意味があるのだろうか。)
映画の中でいちばん気に入ったのは、ラストシーンでのプレインビューの「おれは終わった」の一言。なげやりでせいせいしたかのようだった。悪あがきをしないところがプレインビュー唯一の美徳かしらね。

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コメント

私もちょうど見たとこ!面白かった!もうイーライ最高~♪笑わせる笑わせる。・・・って、笑っちゃいけない映画ですかね?結局のところ、主人公とイーライは似たもの同士と言うか、表裏一体なわけですな。人嫌い=淋しがり屋 なんですよね。そりゃ息子の事は一番好きだったと思うけど・・・ひねくれ者ゆえ、あんな別れ方になっちゃったね。でも、プレインビューって思いっきり、ガテン系じゃん?(笑) 好きだなぁ。自ら身体張って、命がけで穴掘って、金や石油を採掘してたじゃないか。一代で財を成すってのは並大抵な努力じゃないよ。それにしてもダニエル・デイ=ルイスはいい顔してるね!そして立ち姿が(後ろ姿)美しかった~。長~い手足を持て余しておりましたね。役者復帰してくれて本当に良かった。本筋から外れた感想になってしまいましたが、いずれまた時間があったら私も感想を書きたいです。

えむさんミストも観たいし、ニコルソンも観たいと思ったけど、まずこれを観なきゃと行ってきましたよ。プレインビュー、憎めなかったよね。イーライがつけあがってきてからはますます(笑)。重い映画だけど、最後のほうはわくわくするところあったよ。実は最後は私も笑ってしまった。ダニエル・デイ=ルイス、引退して靴屋で働いていたんだってね。本人のほうが常人の理解を超えちゃってるなあ。いい顔だったね。後半の憎いあまりのオーバーな振りも、違和感なかったしね。相手がイーライだったからだね。

あ、そうそう、最初のほうで撮影カメラのレンズに一瞬、黒い石油がべとっと張りついた映像をそのまま使ったのはわざとかな。あと、事故後に片足を引きずっていたプレインビューが、息子とウズラ狩りと偽って石油を探しているところは引きずってなかったのもわざとかな。

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