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2008年3月26日 (水)

ネゴシエーターとしての腕前はいかに?

まずは出だしの2章目までが、ダルジール&パスコー・シリーズを読み続け、新刊翻訳を待ち続けていた者にはニヤニヤ笑いを禁じ得ない楽しさ! このシリーズの面白さが凝縮された始まりであると思う。翻訳がまた絶妙なんだなあ…。今作も満喫しました! これぞ現代英国ミステリー小説の底力。

『ダルジールの死』レジナルド・ヒル著/松下祥子訳
(ハヤカワ・ミステリ 2008年邦訳)

通報してきたのが無能で鳴らすヘクター巡査でなかったら、通報を受けたのが無頼で鳴らすダルジール警視でなかったら、爆破事件の様相はまったく違っていたかもしれない。だが現実には、爆発に巻きこまれたダルジールは瀕死の重傷で生死の境をさまよい、パスコーがただ一人爆破事件を追っている。
事件の背後には、反テロを標榜してテロ容疑者や支援者を殺してゆく〈新テンプル騎士団〉と名乗る謎のグループが介在しているらしい。だが、敵のメンバーは公安捜査の中枢にも……ダルジールの容態を気づかいつつも、パスコーは単独捜査に突っ走る!


↑本の裏表紙より。最初の一文がいい感じなのでそのままコピー。

Fi2621566_1e_2 2005年の夏に起きたイスラム教徒過激派によるロンドン地下鉄爆発事件から影響を受けて書かれたと思われる今作です。このダルジール&パスコー・シリーズにおいては常にユーモアを忘れないレジナルド・ヒル。こんな深刻な題材も、なんと軽やかに調理してしまうことでしょう! しかし彼は老練だ。最後の最後でズシーンときました。なんと悩ましい課題を投げかけてくれちゃうのでしょう!

読み終わった瞬間は、パスコーの妻エリーに対して腹が立ちましたが、自分の夫が生真面目であるとともに、いざとなったらダルジールのような無鉄砲な行動も取れることを確信してしまった今では、ああするのも分からないではないと納得しました(させました)。そして、さまざまな背景をもった数多くの登場人物について、その人生について、もう一度じっくり考えてみたくなる余韻が残りました。

そうか、パスコーはカメレオンだったのかー。長く読み続けているにもかかわらず、上司のダルジールや同僚のウィールドに比べ、今一つ、つかみどころがなく面白みに欠けるキャラと感じていたパスコー(というか、ダルジールとウィールドの個性が強力すぎるのだが…)。要するに彼は、下品で奔放に振る舞うダルジールとのバランスを常にはかりながら行動していたために優等生にならざるを得なかった?。
でも、今回のようにダルジールが乗り移った活躍を見せてくれても、インテリで見た目もスマートなパスコーでは、やはり野生の勘をもったデブで大男のダルジールの代わりにはならない思うので、心配していた展開にはならずほっとしました。いや、心配はしていなかったけど…。
ダルジールの周囲を圧倒する性格をいずれ継ぐ者が現れるとしたら、それはロージーかな(笑)。パスコーとエリーのまだ幼い娘。今後の成長が楽しみです。ウィールドの活躍は少なめでしたが、ウィールドらしい出番がクライマックスにちゃんと用意されていたのも満足。あそこは先が読めていたので可笑しくてたまらなかった。

しかしそれより今作は、誰もが「どうしてあいつが警官になれたんだ」と首を傾げるぼんやりヘクターが、実にいいキャラ! 脱力させられて、ほのぼのとさせられて、あげくに泣かされそうになるという・・・。そして、そのヘクターのことをダルジールだけは以前からちゃんと目にかけていたというところが、いいじゃないか。さらにそのダルジールの期待にしっかり応えたヘクター、お手柄!

昨日、職場近くの小さな書店に寄ったら、いつもは本棚に1、2冊挟まっている程度のポケミスが、この『ダルジールの死』については、海外小説コーナーでは一番の高さに平積みされていた。出版社も相当に力を入れているのでしょうか。たくさんの人に読まれるとうれしいです。今作はこれまでのシリーズを読んでいなくてもあまり関係ないし、ここ何作かの中ではとても読みやすい。


追記。小説のラストの衝撃から立ち直る間もなく、あとがきの一文が私にはもう一つの大きなショックだった! あの作家のあのシリーズがそんな理由で終了していたなんて! 
そっちの翻訳が出るのももうそろそろかな……。

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