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2008年1月14日 (月)

それぞれ有名なシリーズ小説の1作目

『酔いどれの誇り』ジェイムズ・クラムリー著/小鷹信光訳
(ハヤカワ文庫)

Fi2621530_1e メリウェザー郡の酔いどれ探偵ミロのもとへ、行方不明の弟を探してほしいという女が訪れる。大学の教師をしているというその女は、探偵稼業でなじみの深い世界とは無縁の、天使のような無邪気さと傷つきやすさを感じさせ、ミロは一目で惹かれてしまう。しかし、弟の足取りを調べるうちに浮上してきた人物像は、姉が語るそれとはずいぶん違っていた…。

原題は「The Wrong Case」。nadjaさんに教えてもらったクラムリーです。1975年に書かれたものながら、チャンドラー直系の、すでにハードボイルドの古典と言ってもいいような風格を感じさせる小説。名翻訳者のせいもあるのでしょうか。

「坊主」不意に、おやじはいった。「酒を飲まない男を信じちゃいかんぞ。そういう手合いはひとりよがりで、いついかなる時でも善悪の区別をつけられると思いこんでいる。中にはいいやつもいるが、良いことだと称してこの世の苦しみの大方をつくりだしている手合いなんだ。裁判官きどりのお節介やきどもだ。だがいいか、酒を飲んでも酔いつぶれない連中も信じちゃいかん。そういったやつらは、心の奥底でたいてい何かを怖れている。自分が、臆病者か、愚か者か、卑しいか、凶暴なんじゃないかと怖れているんだ。自分自身を怖れるような男を信じることはできん。ところがだ、ときには便所でうずくまるような男なら、信用していいこともある。問題はそのときそいつが、卑下する心とか、自分自身のもって生まれた愚かしさなどについて何かを学び、生きのびる道を身につけようとしているかどうかだ。薄汚れた便器に胃の中身を吐いているときに、そんなことを大まじめに考えろといっても、これは難しいもんだぞ」
そのあと長い間合いをとって、おやじは付け加えた。「もう一つある。便所に這いつくばってるときしか、酒飲みを信じちゃいかん」


卑下する心・・・長い引用になったけど、西部開拓時代の名家の出でありながらアル中のすえに自殺したミロの父親の残したこの言葉が、その後のミルトン(ミロ)・チェスター・ミロドラゴヴィッチ三世の生き方の大きな指針となっているようです。小説の舞台は、本文の中ではメリーウェザー郡とあるが、あとがきにはメリーウェザーはモンタナ州の架空の小都市とある。
『さらば甘き口づけ』のほうも読んでみましょう。

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『悪党パーカー/人狩り』リチャード・スターク著/小鷹信光訳
(ハヤカワ文庫)

Fi2621530_2e 強盗を企てた仲間と妻に裏切られ、その後に別件で刑務所暮らしをしていたパーカーが、刑期を延長されたことにしびれを切らし、ついに行動を開始。脱獄をし、自分をはめたやつらへの復讐をきっちり果たすのだ…。

こっちは以前にDjangoさんに教えてもらった、ドナルド・E・ウェストレイク別名儀による冷酷非情な犯罪者を主人公とするアメリカン・ノワール小説。
クラムリー作品と同じ小鷹さん訳。1962年と、書かれた時代はクラムリーより古いが、新しく感じるのは、たぶんこれを原作とした映画「ペイバック」のイメージのままに読み始めてしまったせいだろう(それ以前に「ポイント・ブラック」というタイトルで映画化されており、映画の原作となったのは2度目)。
実際は、映画「ペイバック(金返せ)」とは人物もストーリーもかなり違う。あちらはかっこよく粋なアンチヒーローに描かれていたけれど、原作はほとんど無益な殺人も平然とこなす本物の悪党。出来事だけを淡々と綴っていくところは、前に読んだウェストレイクの作品同様、どこかしら寓話的だ。
これも面白かったので、ぽつぽつ他のも読んでみる。

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『古時計の秘密』キャロリン・キーン著/渡辺庸子訳
(ハヤカワ文庫)

Fi2621530_3e 少女探偵ナンシー・ドルー・シリーズ第1巻。日本でも有名な児童探偵小説らしいが、児童向けとは知らずに読んでしまったよぉー。
名探偵コナンのような刺激的な殺人は一つも登場しないのはもちろん、良い人・悪い人がきっちり分かれ、悪事の動機も非常に単純なので安心して読めます・・・。上記の悪党パーカーとは対照的! でもまあコージー・ミステリー的な面白さもなくはないです。といいますか、案外に嫌いじゃない(笑)。最後のほうが読むのかったるかったけど。
このシリーズ1巻目が発表されたのが1930年で、80年近くたった今も新作刊行が続いている(延べ数百巻!)というのはすごいですね。サザエさんもかなわない。

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コメント

「薄汚れた便器に胃の中身を吐い」た経験のある身としては、酔いどれの論理少しは分かります。←こういうヤツもあまり信用できない?

お、読んでくださいましたね、クラムリー♪でしょでしょ?まさに、チャンドラーでしょ?しょーもない・・・けど、愛さずにはいられないやつ、でしょ?(かなり強引・笑)ミロやシュグルー(最初はスルーって名前だった)も愛さずにいられないんだけど脇役、というか、主役の彼らに関わる人物もクセがあるというかアクが強いというかインパクト強い人物が出てきて、それなのに、小説がくどくならないとこがすてきなのです♪というか、ヒメヒカゲさん、砂漠行きですか、いいなぁ♪『太陽の王ラムセス』 読みかけだったの思い出しました。ヒメヒカゲさんがエジプト行ってる間に続き買って読もうかな~。「いってらっしゃい」は、まだ早いですね(笑)

>k.m.joeさん這いつくばっているときしか信じちゃいけないようですよ(笑)。下戸な私は、飲まないやつに分類されるんでしょうね。しゃくだな。でも、この論理は分かるような気がします。>nadjaさん基本、しょーもない一匹狼な探偵や警官が好きです。そればかり。これは、脇役たちのキャラと人間関係がいいですね。そしてやっぱりこういうのに登場する女性は・・・・。エジプト、典型的な観光旅行です。エジプトの観光地としての歴史は紀元前にさかのぼるらしいですし。本当は、砂漠にぽつんと一人きりというのを体験してみたいですが無理ですね。

私もこれが最初のクラムリーでした。実際、訳がいいと、登場人物の息吹まで感じることができて、ぐいぐい引き込まれてしまいます。

>Djangoさん翻訳ものは著者と訳者の相性もけっこう大事なんでしょうね。感性が違うとまったく違う読み物になりそうです。

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