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2007年8月19日 (日)

闇から生まれた書物

文庫では3巻に分かれている壮大なファンタジー。舞台はイスラム圏のエジプトということになっているけど、あまりそういう地域性は意識せずに読める。

『アラビアの夜の種族』古川日出男著
(角川文庫 単行本は2001年刊行)

Fi2621490_1e 聖遷暦1213年(西暦1798年)、奴隷出身の兵士が支配するマムルーク朝エジプトの首都カイロに、悪しき予感のような報知がもたらされる。ナポレオン率いるフランス軍がカイロに攻め入ろうとしていると。マムルーク朝の23人の指導者の一人イスマーイールの最も有能な奴隷執事アイユーブは、武力で抗することは無駄と悟り、主人にある秘策を持ちかける。読む者を夢中にし腑抜けにしてしまう伝説の書物「災厄(わざわい)の書」を、本好きと噂に聞く敵軍の総大将に献上しようというのだ…。

文庫の最初に、これは著者のオリジナルではなく「The Arabian Nightbreeds」(無署名、発行所不明)の翻訳というようなことが書いてあり、文中にはご丁寧に所々、翻訳にあたっての注釈まで添えてある。読み進むにつれて何か変と思いつつ、最後まで確信が持てずに読んでしまった。騙されたようだ・・・。 著者の膨大な知識には恐れ入ります! それゆえに怪しいと思いつつ騙された。しかし、騙されたのは私だけではない。『災厄の書』というのも本当は存在していなかったのだから。

迫るフランス軍。次第に無法地帯となっていくカイロの片隅で、『災厄の書』は夜な夜な綴られてゆく。アイユーブが探し出した、甘い蜜のような舌を有する女の語り部の話をもとに。そこで語られるのは『もっとも忌まわしい妖術師アーダムと蛇のジンニーアの契約の物語』と『美しい二人の拾い子ファラーとサフィアーンの物語』からなるゾハルという都市の年代記。

抜群に面白かったのは、見る者をぞっとさせるほど醜い容貌をもって生まれたアーダムの話に費やされる1巻目。寝付く前にちょろちょろ読んでいたら、ある晩、同時に3つの夢を見た。3つと分かるほどくっきりはっきりした夢だった。この本のせいに違いない。
2巻目以降にファラーとサフィアーンが登場すると、なんだか最近よくある魔界を扱った漫画みたいだと思った(漫画は読まないので、たまにちらっと目にするアニメか)。美青年2人の話は腐女子に大受けしそうだな、などと余計なことを考えた。
魔物の居着いた無限迷路のようなゾハルの地下都市の描写がとにかく面白いんだけれども、3巻目では目新しさも薄れ、それまでテンポよく進んできたぶん、話も力技で引き延ばされてるような感じで(意図的かしら?)、ちょっと飽きてきた。

それでカイロはどうなったか。史実から大きく逸れるわけにはいかないし、『災厄の書』が綴られた目的もうすうす予想していたとおりだった。アーダムやファラーやサフィアーンが、強烈な個性とともにじっくり語られただけに、もう一人の主人公アイユーブについては印象が薄くなってしまい、ラストのインパクトもいまいちだった。しかし、アイユーブの生い立ちや性格については掘り下げられない事情も最後には明らかにされるので、辻褄は合っているんだよなあ・・・。

なにはともあれエンターテインメント小説として一級であることには違いないと思う。日本推理作家協会賞と日本SF大賞受賞というのには納得。大いに楽しませていただきました。

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コメント

ぼくも読んだ本が出た!けれども途中でストップしている。これはぼくには面白すぎる(笑)気になるのは古川日出男というひとの一般的評価だな。つまり賞とかは取ってるが、どう読まれてるのだろう。ぼくは『ぺルカ吠えないのか』というのは結構好きだった。こういう村上春樹以後の”若手”って結局どーなんだろう。たとえば阿部和重と古川日出男の位置というのは。こういう疑問自体が野暮なんだろうね。

>warmgunさんどう評価されてるんでしょうね。私に尋ねるのは間違いです!(笑)阿部は2冊、古川はこれが初めて読み、それまでは名前も知らなかったもので。この二人より、東野圭吾なんかのほうが今の作家というイメージが強いです・・・。しかし、村上以降ということになると、この2人あたりのようですね。どこに影響があるのか、わからないですけど。

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