« 駄作か珍作か。 | トップページ | 消えたウサギ »

2007年5月 2日 (水)

都会派ウエスタン

ワシントンDCを舞台とする黒人私立探偵デレク・ストレンジ・シリーズ第1弾。

『曇りなき正義』ジョージ・P・ペレケーノス著/佐藤耕士訳
(ハヤカワ文庫 2001年邦訳)

Fi2621451_1e 1年前にパトロール中の警官によって非番の日に射殺された黒人警官の母親から、息子の名誉を挽回してほしいと頼まれたストレンジ。まずは、当事者の白人警官クインの身辺から調査を始めるが、クインはすでに警察を辞めており、勤め先の古書店に会いに出掛けた日に、なぜか2人は意気投合。協力して事が起きた背景を探ることに…。

探偵もの(警察ものも含め)小説を読んでいると、ほぼ必ず現実世界でのタイムリーな話題と重なる部分に出くわす。タイミングのよさにびっくりするほどだが、冷静に見渡してみれば、世を騒がすニュースのバリエーションは、だいたいいつも決まっているということなのかもしれない。
この本の場合は、アメリカの銃乱射事件から連想するものと重なった。米国史上最悪といわれる無差別銃撃事件で、銃規制反対派の人たちは「だから銃で身を守ることが必要なのだ」という主張をさらに強めている。それってつまり「疑わしきは殺せ」という考えと変わらないだろうと思うわけだが。さらに、その疑わしいという判断に、個人の偏見が混じらないことなど100%ありえないと思うわけだが。・・・銃容認派の中には、その問題点を自覚している人もいれば、無自覚の人もいる。どちらもぞっとする話ではないか。

原題は『Right As Rain』。「完ぺきに正しい、全く問題ない」という意味の慣用句。本の内容からして、邦題の『曇りなき正義』は原題にかなり忠実といえる。もっと正確には「曇りなき正義と自信を持って言えることなどあるのか?」という問いかけが、この小説を貫く硬派なテーマとなっている。

でも、著者ペレケーノスが「都会派ウエスタン」と自称するように、この本の本質は娯楽小説だ。例えば寝る前に読むのにぴったりといった。(にしても、主人公が風俗店に行って性処理しちゃう探偵小説は初めてだ…笑)。
調査を通して知り合うアフリカ系のストレンジとアイルランド系のクインは、年齢は親子ほども違うものの、元警官という経歴とウエスタン(映画・小説)好きという共通項を早々に見つけて意気投合。今後もコンビとして活躍していくのでしょうか。この2人の関係は、前作のワシントン・サーガ4部作におけるマーカス・クレイとディミトリ・カラスのそれにそっくりだ。そういえば、あの4部作もウエスタンの対決を思わせるシーンが毎度最後のほうにあったっけ?

相変わらず、場面ごとに登場するペレケーノスの音楽ネタが楽しい。

‥‥ストレンジはバーモント通りの「スタンズ」に行き、バーカウンターでジョニーウォーカーの赤とソーダを頼んだ。店のステレオでは、ジョニー・テイラーの「ディスコ・レディ」が流れている。ベースにブーツィ・コリンズを迎えた曲だ。流れるようなこの曲が、ストレンジは好きだった。「調子はどうだい、ストレンジ」「いいよ。そっちはどうだい、ジュニー」‥‥

‥‥ストレンジとクインは、バーの近くに二人用のテーブルを見つけた。ストレンジは椅子にゆったり座ると、音楽に合わせてテーブルをリズミカルに叩き始めた。「こっちのほうがおれ好みだな」ストレンジは言った。「アイザック・ヘイズの『ジョイ』だ。このレコードも持っていた。いいステレオでこの曲を聴くと、シャンペンの泡立つ音が聞こえるんだ。だがCDだと、その音は聞こえない」‥‥

‥‥ストレンジはカプリスに乗ってサウスイースト地区に入った。カセットデッキに、アイズレー・ブラザーズの最高傑作と自分では思っているアルバム『3+3』を放り込む。とたんにロナルド・アイズレーの歌う美しいバラード「心のハイウェイ」が流れてきて、ストレンジも一緒に歌いたい衝動に駆られた。だがそんなことをしたら、隣のラティマーが黙っちゃいないのはわかっている‥‥

‥‥彼女が領収書を持って戻ってきたとき、メイズ&フランキー・ビバリーの曲を流してくれと頼んだ。‥‥メイズはワシントンDCっ子のお気に入りバンドだ。彼らがレコードを出したのは何年も前だが、いまだに街じゅうのクラブや結婚式、家族パーティやロッククリーク公園でのピクニックで、彼らの曲が流れている。「どのアルバムが聴きたい?」バーテンは訊いた。「『サザン・ガール』が入っているやつがいいな」‥‥

いっぱい引用しちゃった(笑)。ついメモってみたが、文章がどうのこうのではなく、ここに登場する音楽系の固有名詞だけでニヤニヤししてしまうのだ。ストレンジはウエスタン映画のサントラも大好きで、家で一人でくつろぐようなときにはこっそりエンニオ・モリコーネのCDなんかを愛聴している。自分も子供のときに買ったマカロニウエスタンのテーマ曲を集めたLPを今も処分できずに持っている。世代的な共通点なのかしら。
ストーリー的にはワンパターンなところがあり、誰にでも勧めたくなる作家とはちょっと違うんだけれども、きっとまた読む。

« 駄作か珍作か。 | トップページ | 消えたウサギ »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

コメント

いかにも黒人が選びそうな曲ではありますね。しかもマニアックになり過ぎず・・・。

k.m.joeさんペレケーノスはギリシャ系アメリカ人なので、黒人を主人公に描く資格などないと批判する人もいるそうですが、マイノリティの取り上げ方が上手い。登場人物のキャラクターや世代に合わせた曲選びも上手い。本人はかなり幅広い音楽に通じてるみたいですよ。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1175528/28622755

この記事へのトラックバック一覧です: 都会派ウエスタン:

« 駄作か珍作か。 | トップページ | 消えたウサギ »

インデックス

無料ブログはココログ