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2006年12月 5日 (火)

実感できる未来。

「トゥモロー・ワールド」(2006年 英/米)
★★★★★

Fi2621410_1e 原作者P・D・ジェイムズのファンとしては、観に行かないわけにはいかないでしょう! と言いながら、原作となった『人類の子供たち』(ハヤカワ文庫)はあまり好きではない。現代英国ミステリーの女王によるまさかのSF小説はいつもよりも気難しく、最後まで盛り上がれず、内容もほとんど覚えていないくらいで私には難しすぎた。でも、この映画は面白かった!
原作とはオープニングはそのまま、しかし、後半は大幅にストーリーが違っていた。脚本も手掛けたメキシコ出身のアルフォンソ・キュアロン監督、あっぱれだな。やっぱり今は中南米出身の監督の作品が面白いのだろうか。キュアロン監督の他の作品では「大いなる遺産」も大好き。あまり目立った評価されてないようだけど、私の中では名作認定。

以下ところどころ面白かったところネタばれ。

時代は西暦2027年。といっても現在との著しい違いは、もう18年間も人類の子供が誕生していないことくら(子供の代わりのように、誰もが犬を愛玩している)。そして舞台となるイギリスは、ヨーロッパ大陸から押し寄せた違法移民であふれている。なぜイギリスがこんな状態になっているか、その理由は容易に想像がつく。テロ・内紛の悪化、貧富の格差、地球温暖化、食糧不足、島国だから免れた何か世界規模の惨事…。過去のどこかでボタン一つ掛け違えていたら、すでに今こうなっていても不思議じゃない気がするパラレルワールド。さらに、人類があと数十年で滅びるとなったら、抑制されていたものが一気に吹き出し、暴力が横行し、一方で鬱病者、自殺者が続出するだろう。そりゃ文明も退化するよ。
テロによる爆破と貧困層の増加で荒んだ街は、今より少し前の時代のようにも見える。移民の増加に関しては、近い未来、世界で最も難しい問題となるのではないか。そう感じるのは、私自身が移民が押し寄せてくるかもしれない国に住んでいるせいでもあり、正直言ってテロなんかよりよほどの身近な恐怖。ヨーロッパの先進国ではすでに大きな問題となっているようだが、SF映画を観て、差し迫る現実を実感したのはひさびさでした。

ムダのないストーリーも良かったけど、映像も素晴らしかったです。日差しのないシーンが多くて陰鬱だけども、美しくて見惚れました。あと、小物などの演出も細部まで行き届いていて目が離せません。銃で撃たれた人を介抱しようとしたその次のシーンでも、しっかり手に乾いた血がこびりついていたりとか、ビーチサンダルのペタペタいう足音までちゃんと入っているところとか、当たり前の辻褄合わせが当たり前にできているってすごいなと思ったけど、後で考えたら、あえてそういう辻褄確認を観客に随所でやらせる、そうして主人公と一緒にその場にいるような錯覚をより深めるという手法をとっているんだと気付きました。

出演者はクライブ・オーウェン、ジュリアン・ムーア、マイケル・ケイン、そして個人的に黒人系俳優では今一番好きなキウェテル・イジョフォーと、渋い! 音楽の使い方も面白かった。映画館で上映を待っているときにキング・クリムゾンが流れてきて、これ一体どんなSF映画に仕上がっているんだ? と一抹の不安を覚えてしまったわけですが(クリムゾンは大好き)、無理なく使われていました。ピンク・フロイドの豚も笑。1961年生まれのキュアロン監督の趣味も反映されているのだろうか。原作には登場していないディラン、シドという人物名とか…。

登場人物の名前といえば、主人公セオが身を挺して守ろうとする女性の名前は、原作では「ジュリアン」なのに、映画では「キー(Kee)」という名前になっていて、役柄的にKey(鍵)を想像させます。そしてなぜか映画の中では「ジュリアン」がセオの元妻の名前となっていて、原作の結末を知っているとこれまた意味深なのです。

そんなこんなでいろいろと想像が膨らむ、興味深い映画でした。違法移民たちの隔離地区での戦闘シーンは、息をするのも忘れるほどの臨場感、かつ劇的な展開。国軍の兵士が十字を切るシーンあたりでは、もう涙が堪えきれなくなってボロ泣き。しかしその直後、誰もが無言のまま何事もなかったかのように…。あそこでさらにやられたと思いました。

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コメント

キング・クリムゾンにピンクフロイドだって!うひひ。この映画の予告編を「ブラック・ダリア」を見に行った時見たような気がする。まえのテリー・ギリアムの映画といい、ヒメヒカゲさんの紹介で見ようかなという映画があっても、映画館になかなかいかない。映画は映画館で見るに越したことはないとわかってても、なんか億劫。たまに行くと「ブラック・ダリア」のような愚作。「ブラックダリアの真実」と映画「ブラック・ダリア」を同時に経験したら、映画そのものに懐疑的なっちまう。でもテリー・ギリアムの「未来世紀ブラジル」を(たまたま)テレビで見たらやっぱりよかった。昔の映画はよかったというジジイにはなりたくないんだが。

>warmgunさんプログレとSFの組み合わせって、なんか懐かしい感じがしますよね!と、無理やり同調を求めてしまうのは失礼ですね。(笑)どこか一カ所でもひどく気に入ると満点採点あげてしまいたくなる性格で、大きな映画館で観ると、やっぱり映像のいい映画は際立ちます。この映画もそうでした。私もエルロイは好きなので「ブラックダリア」は観たいと思ったのですが、なんとなく行きそびれました。あの女優さんが・・・むにゃむにゃ。LAコンフィデンシャルの映画は好きだったのですが。

いや、ぼくもSFとプログレが好きさ(まさにキンクリとフロイドだけだけれど)昔アントニオーニの映画で全編にピンク・フロイドを使ったのがあった、知ってる?(「砂丘」だったかな?原題は”ザブリスキー・ポイント”とかいったかな-記憶曖昧)そう、映画は完璧である必要なんかない(ハハ、小説もよね)あるシーンの映像、音響が突出していればいい(「花様年華」!)SF映画でいえば、(ぼくは)「ブレード・ランナー」のレプリカント女主人公が髪をおろしてピアノを弾くシーンが好きだ。SF映画じゃないがヒメヒカゲさんはタルコフスキーの「鏡」は見てるかな?この映画は信じられない美しいシーンに満ちている(「ソラリス」もいいけど:音楽はバッハである!)

>warmgunさん私もキンクリ(←こんな呼び方やだー!)とフロイド止まりです。アントニオーニのその映画は、かなり昔に観ましたよ。タルコフスキーはほとんど観てないんです。前々から気にしてはいるんですが、たまに名画座でやるとかなりの人気みたいですね。借りてこなくちゃ。SFといえば、ブレード・ランナーは思い出の5本には入るほどの映画ですが、ジョン・カーペンターのようなB級も好きなんです。でも、スピルバーグはぜんぜん。そうそう、「2046」(でしたっけ?)も観るといってまだ観てないのでした。やっぱり億劫で、なかなか追いつかないですね。

ああ、あなた言葉に対する正しい感受性ね(へんな略称はやめましょう!)ジョン・カーペンター!「遊星よりの物体X」とかだっけ?ぼくもテレビでそういうのやると全部見てた(笑)スティーヴン・キングってのはB級のなかからA級が露出してくるようなひとだと思う。スピルバーグは抹殺すべきだ。このアホ映画から映画好きになったひとが多くなってから映画がだめになった(独断)「2046」?はぜんぜんよくない、キムタクが出ててマギーがでてないからだ。ウォン・カーワイも崩壊してきてると思う。

>warmgunさんジョー・カーペンター、ずっと同じような映画を撮り続けてて、でも、つい観てしまいます。深夜のテレビでみると、また、いいんですよね。物体Xは十代の頃、かなり好きな映画でした。2046は、マギー・チャンは出てませんでした?あれー、記憶違いでしたか。彼女はいいですね。同性から見てもとても引かれる女優さんです。

(しつこいが、はなしが続いちゃうね:笑)トニー・レオンは主役張ってるが、マギーは出てないんじゃない(わりと最近見たのに記憶が曖昧なほど、印象にない映画なんね、出てたかな自信なくなった!)若いころのマギー・チャンって吉永小百合に似てたりするんだが、小百合とマギーの差が、こっちとあっちの差なのよねー。おれ、最近の日本女優の顔ってぜんぜん魅力感じない。どうも香港-韓国系の顔が好きなのね。日本人の朝鮮系の顔が薄れてきたのかな(これ問題発言かなー)レスはいいよ(笑)

>warmgunさん速い! コメント返しどうもです。えー小百合さんが? と解せるような問題発言ですね(笑)朝鮮系といえば、男女でどうしてあんなに顔の系統が違うんだろうと・・・。一握りの人たちしか知らないわけですが。んでは、話が別方向に行かないうちに〆ましょうか。

私も観ました。近い将来、本当に起こり得るんじゃないか・・・恐怖です。本当に、リアル過ぎて怖かったー。人類共通の母は一人のアフリカ人女性だとか(ミトコンドリア・イヴ)って言う説があるよね。それが、keeの産んだ18年ぶり人類最初の子にもつながってるのかしら?意味深…奥が深そう。 本編と、原作の結末は違うのですか?だったら読んでみたいなぁ。あ、クライブオーウェンのおっさんぶりは、相変わらず良かった~(*^_^*)

>えむさん移民であることを強調するために黒人女性にしたのかなと思ったけど、どうでしょうね。聖母マリアに例えられる役ながら、父親が誰かなんて覚えちゃいないというところがなぜか痛快でした。原作は似たような結末だけど、個人的には映画のほうが面白いと思いましたよ。オーウェンの配役ははまりますねー。おっさん好きにはツボでしたか?(笑)

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