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2006年10月22日 (日)

「中古(ボロ)だけど廃品(ボロボロ)じゃない」

『オールド・エース』アニー・プルー著/米塚真治訳
(集英社 2004年邦訳)

Fi2621396_1e 幼い頃に両親に捨てられ、古物店を営むおじに育てられたボブ・ダラーは、日系の養豚企業に土地買収担当の仕事を得て、テキサス州とオクラホマ州境に広がる大平原パンハンドルの田舎町へ身分を隠して赴任する。年老いたカウボーイばかりの町で、土地買収は一時は容易に進むと思ったが、おじの友人から送られた一冊の本から町の歴史に興味を抱き、一癖ある住民たちからいろいろな話を聴くうちに、土地に対する愛着もわき始める…。

『湾岸ニュース』も面白かったが、これもとても面白いわあ。大した筋がないのに、1ページとて飽きないというか、味わい深い。巻頭に、著者がこの小説を書くにあたって取材した人々への謝辞が載っていて、下調べにかなりの時間を費やしたことを伺わせる。まるで、歴史の表舞台に登場しない人々について書かれた民俗学の本みたいに、興味をそそることがぎっしり。
フィクション小説なので、当然、書かれていることがすべて事実に基づいているわけではない。現実にありそうでなさそうな、なさそうでありそうなエピソードの数々が、実話なのか、アニー・プルーが紡ぎ出すファンタジーなのか、その境目が混沌としていて、一貫して微妙に現実離れしているところがとにかく面白い。たぶん開拓時代の話は、語り継がれてきた実話なのだろうけど。

魅力的な人物がたくさん登場するが、なかでもボブのおじさん。廃品を扱っているおじさんはすごく貧乏なのだが、ボブにはとてもやさしい。そして、古いプラスチック製品を、いつかは骨董品としての価値がつくと信じて、ボブの将来のために蒐集しているのだ。そのためには遠方のガレージセールから、ブロードウェイのアンティーク通りまで出掛けて「赤ちゃんのガラガラや古いビリヤードのボール、昔の修道女が使ってきた胸当てまで」を仕入れてくる。そんなおじさんをボブはとても大切に思っていて、二人のほんわかしたやりとりには温かい気持ちにさせられる。

ところで、パンハンドル地方というのは、畜産主体のだだっぴろい平原で、やっかいなものを押しつけられがちな土地のようだ。戦後すぐにアメリカ唯一の核兵器製造・解体施設が置かれ、溶剤に使われる化学物質を含んだ排水が地下水を汚染して大問題に。10年ほど前からは、この本に登場する都市資本の大規模な養豚施設が増え、大量の地下水を消費し、豚の排泄物が公害を引き起こしているという。
だからといって、この小説がそういった問題を正面切って取り上げているという
ふうではまったくなくて、主人公ボブ・ダラーが最後に思い描くごく個人的でささやかな夢が、またほのぼのとしていてとてもいいのだ。

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